第29話  跳ねっ返り

 次の日は、一旦昨日の現場に全員集合させられた。その現場はこれから耕運をかけるという。

 兄やんが仮置き場から大型耕運機を自走してきていた。この大型耕運機はナンバープレートが付いており、一般道を自走できるらしい。


「全員集合」

 正田さんが号令をかけた。しかしみんなトラックからブルーシートの上に荷物を降ろしている最中だった為、集まりが悪かった。というか、離れたところにいた人はその号令すらも聞こえていなかった可能性がある。


「てめえ等、何グズグズしてやがるんだ。早く集まらねえか」

 いきなり怒声が鳴り響いた。声の主を確認すると城田君だった。

 城田君は数少ない丸新興業の直社員で、年若く二十代後半と思われる。小柄で華奢で細面。髪型は肩先位までの長髪で、眉毛は薄く目は一重。少なからずヤンキーぽい雰囲気もある。


 丸新興業の直社員は、正田さんと兄やんとこの城田君の三人だけだった。

 もちろん俺達も、直社員に対して敬意をはらわない訳ではない。それでも自分の倍以上の年齢の人達に、こんな言い方はないと思う。他にもっと言いようがあるはずだ。


 そんな不満がありながらも自分に直接言われた訳でもなく、根が小心者で平和主義な俺は渋々従った。除染作業員は五・六十代が多いのだが、みんな小声でぶつぶつと文句を言いながらも集まってくる。


 こんなことで喧嘩にでもなってしまったら、両方とも即時退場処分になってしまう。それをみんな警戒していた。

 年少の跳ねっ返りは別として、ある程度歳を重ねた作業員には、それ位の分別は備わっているのである。変に反抗して共倒れにはなりたくなかったのだ。


 全員が集まると正田さんから、今日の人員配置の説明があった。

 この現場には兄やんを含めた三名が残って耕運をかける。残りは新田班と綿田班の二手に別れて近くの別の現場へと向かうという。

 俺と斉田さんは新田班だった。

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