第28話 ゼオライト
翌日も同じ現場だった。草刈りも済んだし次に何をするのかと思っていたら、ユニック班が何やら訳の分からないものを運んできた。
表記を見ると、ゼオライト、牛糞、溶リン、ケイサンとあった。
「正田さん、ゼオライトってなんですか?」
俺は他の人では分からないだろうと思い、近くにいた現場責任者の正田さんに訊ねた。
「ゼオライトは放射線を吸収する働きがあるらしく、土壌の放射線量を低減させるために蒔くんだ」
「じゃあ、他の牛糞や溶リンやケイサンは?」
「これは肥料だな。これらを蒔いた後に耕運機をかけるのだけど、そうすることで直ぐに農地として使用できるようにするんだ」
「えっ、除染ってそこまでしないといけないのですか?」
俺にとって除染のイメージは、昨日の草刈りで表面の汚染物を取り除くことで終わっていた。しかし、それでは農地として再生したことにはならないらしい。
南相馬の農家の人が、する気になれば直ぐにでも作付けできる環境を提供するのが行政の務めということだった。但し、そこまでしてもするかしないかは農家個人の自由である。
するかしないかといってしまうとその農家の我儘のようにも思われるが、農家にも個人差があって、要はしようと思っても直ぐにできるかどうかは分からないということだ。
極端な話、作付けすることで明らかに赤字になると予測される場合には、回避をするのは当然のことである。
まあ、そんな難しいことを考えても仕方がないので、取り合えず自分達にできることに専念をする。
まず水色のタンクにゼオライトを入れて、それを背中に背負いながら脇から出たノズルを手で左右に振り回して農地に均等にばらまいた。
粒状である溶リンやケイサンも同じように散布する。
背中にズッシリとは来るけれど、散布自体はみんな苦もなく楽しくできた。
しかし、牛糞だけはそうはいかない。二十キロの袋の口を開けて、それを抱えながら少しづつばら蒔いていくのである。匂いはさほどでもないが、さすがに直接触るのは抵抗があった。それに、この作業は結構腰にくる。
中には一ヶ所に一袋全てをぶちまけて、スコップで周辺にばら蒔くという横着を決め込む者までいた。
結局その日は、その作業だけで一日が終わってしまった。
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