第27話  風評被害

 周知会の後は昨日の続きだった。とても農地とは思えないような広大な草原の、ただ単なる草刈り行為である。


「斉田さん、どうして草刈りが除染になるのですか?」

 自分のしている行為が何故除染に結び付くのか釈然としていなかった俺は、身近にいた斉田さんに率直な疑問を投げ掛けた。


「放射性物資は福島第一原発から風に流された後に地表に降下するため、地面の近くにある草木は理論上線量が高くなっているはずなんだ」

「理論上ということは、高くないということもあるのですね」

「まあ、場所によってばらつきはあるということだね。元々南相馬市自体はそんなに線量は高くないんだよ」

「それじゃあ、そんなに高くないところでは除染をしなくても良いということですか」


「今やっている除染作業は、放射能汚染をされた表面を取り除くというのが建前なのだけれど、元々は農地を農地として使用できるようにするということが本来の目的なんだよ」

「それはどういうことですか?」

「放射能汚染をされたという風評被害のある農地では、例え汚染をされていなくてもそのままでは農作物を作っても売り物にならないだろう」

「確かに、風評被害というのは大きな問題ですね」

「それを何とかしようとした場合、最低限でも除染をしたので大丈夫という建前がどうしても必要になるんだ」

「要するに『除染はしたので、それ以降は放射能汚染はありません』というお墨付きが必要ということなのですね」

「そうだね。例えは悪いが、それだけ南相馬という地域が原発被害に対して微妙な位置にあるということなんだ」

「実際の被害以上に風評被害の方が遥かに大きく、単に線量のみではかたずけられないということですか」

「そう、その結果国ではなく、南相馬市自体が主体となって除染をすることになってしまったんだ」

「国の企画では対応できない部分でも切り捨てることなく、南相馬市がなんとか対応しようということなのですね」

「その通り。南相馬市が主体となってすることで、国ではできない部分も補うことができるんだ。そうではあっても国からの補助金や、あるいは助成金がでているのは間違いないことだとは思うけどね」


 何だか除染の難しさや複雑さを垣間見た思いだった。


 俺達がフレコンに草を詰め込み一ヶ所に集めると計測班の竹田さんと南田さんがフレコン一つ一つの線量を測定し始めた。


 まずフレコンの吊り紐にバーコードの付いたタグをつけてから、弁当箱大の計測器を使って線量を測定する。その内容をバインダーに挟んだ書類に転記してから、フレコンのボディにも同じ内容を白マジックで表記する。

 ここまでしなければ、フレコンを仮置き場には持ち込めなかった。


 この後はユニック班が活躍する。ユニック班は、小型移動式クレーン資格のある運転手と玉掛けの有資格者がペアになっていた。

 何事も資格がなければすることはできないのである。特に除染は他の建設や土木の現場などと比べると非常に厳しく、JV が常に注意換気をしながら監視をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る