第21話  除染作業初日 1

 翌朝俺は五時に起きた。携帯電話の目覚ましは五時半にセットしていたのだが、実際の仕事が初日ということで緊張していたのか、早めに目が覚めてしまったというのが真相である。


 出発の準備を済ませてから、厚生棟にある食堂で朝食を取った。焼き魚を中心とした一皿がおかずの中心である。それ以外にも生卵、納豆、梅干、味付海苔、振りかけ、お付けものなどがあり、一椀のご飯では有り余るほどだった。全ては無理なのでその日は生卵と味付海苔とお付けものを選択する。


 六時半に昨日と同じく今田さんの車で朝礼会場へと向かった。今田さんは個人の車を月一万円で会社に提供しているとのこと。


 個人の車ということは、乗せて貰うにあたって少しばかり気を使わなければならない。今は安全長靴も新品だから良いが、作業した後はビニール袋に入れて車を汚さないようにしなければ。新しい環境ではそんな気遣いも必要だった。それがたった一人で福島に乗り込んできた俺の処世術である。


 会場へは、朝礼の始まる凡そ一時間前に着いた。それは前にも説明したとおり、駐車スペースを確保する為である。


 到着後に野田建設の休憩スペースで待機していると、ヘルメットに飛田と表記された見た目三十代半ばとおぼしき人が近付いてきた。

「松田さん。確か長野の会社の紹介ですよね?」

「えっ、そうですけど」

 俺はなんのことなのか分からないまま返事をする。

「これ、デズラヒョウ」

 そう言ってA4一枚の用紙を渡された。

「えっ、デズラヒョウ?」

 俺にはその言葉の意味がよく理解できなかった。

「出勤表のことですよ。月末に俺に提出してもらえますか」

 飛田さんはそう説明した後、俺の隣にいた斉田さんにも同じように説明して手渡した。

 結局、新規入場者の約半数に用紙を配っている。


「斉田さん、なんで全員に配布しないんでしょうね」

「多分、長野の会社から入った人だけに渡しているのじゃないかな」

「それってどういうことですか」

「おそらく長野の会社が一日あたり幾らかのマージンを丸新興業に請求するためじゃないの」

「そういうことか……」

 給料の支払者が丸新興業だったので長野の会社はどうするのかと思っていたが、マージンを取るのなら理解できる。先発組の飛田さんは長野の会社経由で入った人の世話役なのだろう。

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