第7話  次の去就

 九月になった。季節は確実に進行している。そう言えば少し前までうるさいほどに鳴り響いていた蝉時雨は、いつの間にかなくなっていた。


 地上の温度は少しはましになっているのだろうか?

 それでも残暑は厳しく、まして路面温度五十度の炉上にあっては、思わず『そんなの関係ない』などというジョークが心の中で飛び出してしまうほどである。


 この仕事の期間が残り一ヶ月を切ると、たちまち次の去就が話題にのぼるようになってきた。

「松田さん。どうやら永田さんが十月からこの工場で、別の仕事を請け負ったみたいですよ」

 山田さんからもそんな情報が入ってくる。

「どんな仕事なのですか?」

 すでに福島に行くと決めている俺には関係のない話しだが、一応訊いてみた。

「炉に付帯する機械の掃除らしいけど、今よりさらにキツイ仕事みたいだね」

「今の給料でさらにキツクなるのだったら、やってられないですね」

 俺にとっては他人事なので、余裕の返答をかましている。

「でも半数位はそのままそこに移行するらしいよ」


 俺達炉上生活者総勢二十名のうち、そのまま今の仕事を続けられるのは一チーム分の五人だけだった。残りの十五人のうち半数ということは、七・八人ということか。あるいは十人位の枠があるのかもしれない。


「尾田ちゃんはそっちに行くみたいだね」

「そうですか。尾田ちゃんは新聞配達もあるので、その方が都合が良いのでしょうね」

 尾田君にとっては新聞配達の方がメインで、こっちはサブなのである。


「永田さんが必要な人員に後日個別に確認すると言っていたから、松田さんのところにも来るかもね」

「俺は残りませんよ、福島に行くのだから。山田さんもリンクもそうでしょ」

「いや、リンクは福島に行かずに残るみたいだよ」

「えっ?」

「彼女に強く反対されたみたいなんだ。まあ遠距離恋愛といっても、関西と福島じゃあまりにも離れすぎだものな」

 リンクが彼女の尻に敷かれているという噂は、どうやら本当だったらしい。


「ところで福島行きの件は、どうなっているのですか?」

 俺は一番気になっている自身の去就に関して、山田さんに確認をした。

「今、間を取り持ってくれる会社の連絡先を聞いているので、詳しい条件や必要書類について確認しておくよ」

 この件に関して俺は、なんの情報も持っていないので山田さんに一任するしかなかった。

 

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