第6話  愉快な炉上生活者達

 翌日は山田さんと谷田君が出勤で尾田君が休みだった。尾田君はトラブルの引き金だけを引いて休んでいる。


「山田さん、昨日は大変だったんですよ」

 俺は山田さんに昨日のあらましを話した。

「それは大変だったね。それでどうなったの?」

「最終的には永田さんがリンクに因果を含めて、直接大田君に謝罪させることで決着したみたいですよ」

 俺は聞きかじった情報を伝える。

「それは良かった。リンクもけして悪いやつじゃないから、これで首になんかなったら可哀想だものな」


 たしかに首にならずに済んで良かった。一月位前に武田さんという人は、誰かと言い争った時に折り畳みのパイプ椅子をプロレスラーさながら片手で振りかぶったということで首になっている。


 一先ず一件落着なので俺は、リンクと一緒に福島にいくことに対する不安を山田さんには言わずにおいた。


 その日は、人騒がせな怪人尾田君も不機嫌なリンクもいなかったので、俺は安心して仕事をすることができた。


 今日出勤の谷田君は四十歳位で、人見知りな童貞である。いや実際にどうかは知らないが、そういう噂だった。身長は低く少しでっぷりとした体型。言葉数は少なく、いつも微笑んでいるか逆に無表情でいるかだった。体力もなく、いつも仕事で使うホースやステンレス製ノズルに手こずっていた。


 バキュームの吸引力がかなり強いので、ノズルの先が地面に吸い付いてしまい、思うように動かせないのである。素早く動かすには相当な体力がいるのだ。


 体力のない谷田君は、作業をしながら時々朦朧となって、熱中症寸前になる。その日もやばい兆候が見えたので、班長の大田君が大事をとって休憩室で休ませた。


 こういった工場の現場では、安全や無事故というのが一番大切だった。どれだけ仕事の効率が上がっても、仕事中に病気で倒れたり、事故や怪我があってはなんにもならないのである。

 その為に毎日KY(危険予知)活動をしていた。


 それにしてもこの現場には個性豊かな人が集まったものだ。たった五人のチームでもこれだけの逸材が揃っている。個性のないのは俺だけだった。


 俺は以前に山田さんが言っていた言葉を思い出し、このメンバーを称して『愉快な炉上生活者達』と呼ぶことにした。

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