第3話 コークス炉
「山田さん、コークス炉って一体何なのですか?」
俺は自分が働いている仕事場について、何も知らなかった。そこで職場で一番親しくしている古株の山田さんに尋ねたのである。
「俺も詳しくは知らないけれど、石炭を熱処理してコークスというものにするらしいよ」
「熱処理ですか。俺にはどう見ても燃やしているようにしか見えないんですが」
時々、炉から押し出されたものを眼にすることがあるけれど、全体が炎に包まれて燃えているとしか思えないのである。
山田さんにもっと詳しいことを質問しようとしたのだが、それ以上の回答を得ることはできなかった。
仕方なく俺は家に帰ってからネットで調べてみた。
コークスは製鉄所で鉄を溶解する為の燃料として使用されるらしい。
石炭のままでは鉄を溶解できるほどの高温は得られないのだが、石炭を熱処理した後のコークスなら必用な高温が得られるというのだ。
コークス炉は五階建ビル位の高さがあり、俺達はその屋上で働いている。
原料の石炭を屋上からレールに乗った機械を通して炉の中に投入するのだが、その時炉の中に入らずにこぼれるものがかなりあって、それを掃除するのが俺達の仕事なのである。
掃除といっても、こぼれた石炭を掃除機のようなもので吸い取るだけだった。バキューム配管が屋上にまできていて、そこに直径二十センチ位の蛇腹状のホースを繋いで、こぼれている石炭を吸引する。その一工程に約二十分をかけていた。
では何故こぼれた石炭を吸引しなければならないのか?
そのコークス炉は海の近くにあって、春から夏にかけては海からの風が吹き、住宅街に石炭の粉を飛ばして公害となっていた。炉上の掃除はその公害対策だった。
逆に秋から冬にかけては陸から海への風が吹くことが多く、掃除の頻度が大幅に低下する。そのことから大半の作業員は、九月末までとなるのである。
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