第2話  殺人事件

「松田さん、ニュース観ました?」

「観ましたよ。ちょっとショックですね」

 俺が山田さんに返答してから数日後にあった不穏なニュースのことである。

 奈良の男女中学生が大阪で、除染作業員によって殺害されたというのだ。作業員が帰省中での犯行だったらしい。この事件によって除染作業員の評価は一気に下がってしまった。


 これから除染作業員になろうとしている俺達にとっては、最悪なタイミングと言える。


「松田さんはどうします?」

 山田さんはこの事件で、俺がどうするのかを心配しているのだろう。

 俺だって迷いがない訳ではない。わざわざ批判されそうな仕事をしなくても……放射線を浴びて癌になるかも……しかし心配ばかりしていても何も始まらない。


「ここまできたら、もう行くしかないでしょう」

 俺にはもう、選択肢は残されていなかったのだ。

「そうだよな。除染作業員といっても何万人もいるのだから、その中のたった一人のことだもの」

 俺に同意するように頷いてはいるが、山田さんも俺と同様に不安だったのかも知れない。

 この事件の後俺達は、様々な不安を抱えながらも予定通り行動することを確認しあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る