「詩人の資質」について考えさせられる

 2019年7月某日。短歌を読み始めて2年半が過ぎたワタクシはいまだにただの一人も生身の歌人に会ったことが無い、という状況でありました。

 そんなワタクシにある日届いたのが、市民文芸3席入選と受賞式出席のお知らせ。そして、なんと受賞者の中に「熊谷純さん」がいらっしゃるということが分かったのです!

「おおー、あの熊谷純さん!!!」

 と思わず心の中で叫んでいました。短歌投稿生活を続ける中で、よく載る方の名前は自然に覚えて作品も注意して見ているのですが、熊谷純さんは同郷ということもあり、特に注目している歌人の一人でした。昨年は歌集「真夏のシアン」を出版され、「短歌研究」に書評も載り、芥川賞作家も輩出した文芸ムック「たべるのがおそい」に作品が掲載されたりと活躍目覚ましい方。

(授賞式に行けば、あの熊谷純さんに会えるのか……!?) 

 と思いつつなんとか時間を捻出して授賞式に行きました。

 熊谷純さんは「短歌研究新人賞」の候補にもなったことがあって、その時の記載からワタクシと近い世代である事は知っていました。数々の投稿歌から、コンビニのバイトに追われる日々、恋人とのエピソード(破局した?)など生活の様子もなんとなくかいま見えていました。

 果たして生身の熊谷純さんはどんな人なのか。ドキドキしながら待っていたところ、現れたのは、プロフィールの年齢よりかなり若く見える女性で……。

(エエーーー!!!)

 と思ったら、その方は熊谷さん本人ではなく、代理の方でした。その方も熊谷さんに会ってから短歌を始めたとの事。熊谷さんとは残念ながらお会いする事が出来ませんでした。けれども、熊谷純さんの第一歌集「真夏のシアン」を送っていただくことが出来ました。


 熊谷純さんの短歌は、雑誌や新聞の投稿欄などである程度読んできたはいたんですが、やはり歌集の形で読むと、歌人としての存在感がしっかりと厚みを持って伝わってきます。熊谷さんとワタクシは共に「就職氷河期世代」。(熊谷さんも恐らく)いくつかの仕事を転々としてきた挙句、現代社会を象徴する、あまり給料の高くない仕事に就いているということでワタクシとの共通点も多く、(熊谷さんはコンビニのバイト、ワタクシは介護職)共感を持って作品を読んできました。

 しかしこの度歌集という形でまとめて作品を読みながら感じたのは、「共感」と共にくっきろと浮かび上がって来た「違い」です。

 なんという、突き抜けた透明感を持った歌を詠む人か。

 ワタクシには絶対詠めないような歌なんですね。そのどれもが。

 自分もこれまでたくさん仕事の歌や生きづらさに関する歌を詠んでは来てるけど、絶対にこんな風には詠むことが出来ないんです。熊谷純さんの歌にしか無い独自の「色」があるということ。これ、はっきりと感じました。

 その理由は何だろう? と考えてみました。歴史的仮名遣いを用いてるためか? 確かにそのために数々の労働歌に見られるゴツゴツした感じや社会に対するルサンチマン、といったものが和らげられているようにも思います。でもそれだけでは説明し切れない「何か」があるんです。その一つが熊谷さんの中にある「恋愛」の比重の多さかな、とも思います。それらが歌の隅々にまで「切なさ」や柔らかい「情感」、といったものをもたらしていると思います。あとはそう……。あとはもう、熊谷さんの持つ詩人としての天性の資質、そうとしか言いようがありません。ワタクシにもっと鋭い分析力や批評の能力があればいいんですが。

 市民文芸の授賞式の場でも、選者の先生からコメントがありました。熊谷純さんの歌には熊谷純さんの歌にしか無い独特の色がある、と。

 同じ地域で、同じ時代を生きてきて、同じく「非正規雇用」という立場にあって、それでも決して同じようには歌は詠めない。熊谷純さんの歌集を読んで突きつけられたのはそういった現実です。作歌技術の差、というのはもちろん歴然としてあるんですが、それを少しずつ埋めていったところで、自分なりの「色」や「空気感」を表現することが果たして出来るのか? それが出来るのが詩人の資質であろうと思うけれども。(それだけは多分、技術だけではどうしようもない部分なんだろうな)果たしてそれが自分にわずかでもあるのだろうか? と考え込んでしまったのであります……。 


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