第6話『鍛冶屋に住む女神』

「カケル兄!デート行こう!」


 朝っぱらから何を言ってんだこの天使は。

 翔は眠気眼で、自分に跨がる青髪の弟を見た。

 別にお出かけすることに異議は無いが、同性で『デート』とカテゴライズするのには少し不適切だと思う。


「シャルル……また何かに影響されたか……?」

「なにそれ、僕が子供っぽいって言いたいの?」

「子供ですがな………」

「そうだけど!む~!良いからお出かけ!デートデート!!」


 あ~天使にデートをせがまれてるんじゃ~幸せ死にそう。


「姫、デートじゃないのニャ。装備品の買い出しなのニャ」


 二足歩行の毛玉ケットシーはため息を吐きながらテコテコと歩いてくる。相変わらず愛くるしい見た目である。


「装備品って、何か壊れたのか?」

「え、えっと……」


 シャルルは分かりやすく目を泳がせた。


「も、モルドレッド卿と戦った時、ほぼ全壊しちゃったみたいで………」

「修理は出来ないのか?」

「多分新しくする方が安い」


 それなら仕方ない。

 翔は起き上がり、外出用の服に着替えてから朝食を済ませて、シャルルと街へと向かった。




「ここか?」

「うん。ここ」


 二人が来たのは如何にも武器屋らしい雰囲気を漂わせたメカメカしい外見の店。よく見ると奥には工房らしい場所もあった。

 シャルルは翔の手を引いて中に入っていく。

 中にもあらゆるパーツが散乱しており、ズラリと壁際に並べられた棚には剣や銃、様々な武器が置かれていた。

 そして中心には大きなテーブルと赤い長髪を頭の後ろで結い、ゴーグルを首にぶら下げた女性が椅子に座っていた。

 女性はこちらに、シャルルに気づくとパッと笑顔を見せた。


「おや、シャルルじゃないか!」

「やぁ、ヘーパイストス」


 女性は椅子から立ち上がり、シャルルにハグをする。一方翔は手で目を覆っていた。


「久しぶりだね。元気にしてたかい?」

「うん。僕はいつでも元気さ」

「いい返事だ。それで、そこの連れは何だい?」

「あぁ、紹介するねってカケル兄、何で目を隠してるの?」

「失礼な奴だね。ちゃんと顔見せな」

「あっ、ちょっ!」


 ガッと手を掴まれて強引に退けられた。

 翔の視界一杯にはヘーパイストスの姿が映る。そして翔は顔を真っ赤にした。


「め、目のやり場に困ります………」


 ヘーパイストスの服装はへそ出しタンクトップにホットパンツのみと言ったなんともまぁ開放的な格好をしていた。おまけにスタイルは抜群。歩く度に大きく揺れる双丘と健康的に輝く生足が翔にとっては刺激が強すぎた。

 翔の反応にヘーパイストスはプッと吹き出して豪快に笑う。


「あっはっはっは!!何だいアンタ!ひ弱そうに見えて一丁前に照れてんのかい!こりゃあ傑作だ!」

「そ、そこまで笑うことですか!?」

「だが悪いねぇ。私を抱きたいならもっと良い男になって出直してくるんだね」

「何故かフラれた!?」


 ヘーパイストスはまだツボにハマっているようで、笑いを我慢している。

 シャルルは苦笑いしながらヘーパイストスの紹介を始める。


「こちらはヘーパイストス。僕のお気に入りの武器職人さ」

「ヘーパイストスだ。よろしく坊や。ププッ」


 もう突っ込まんぞ。


「間藤翔。訳あってシャルルの家に居候させてもらっています」

「彼女の作る装備は丈夫で綺麗だと人気が高くてね、僕の装備を拵えて貰うのにも苦労したよ」

「まぁ、今はシャルルは私のお得意さんだからね、何かと贔屓にさせて貰ってる」

「本当にありがとうね」

「気にするな。私の気分だよ。それで?」


 ヘーパイストスはポケットに入れていた葉巻を取り出して咥え、指先から火を出して葉巻の先端を燃やし、煙を吐いた。


「それで、何でこんな所に人間がいるんだい?」


 翔は首を跳ねられた錯覚に陥った。すぐに腰に仕込んでいた片手剣を抜いて警戒体勢を取る。


「おや、私とやるつもりかい?アンタ、結構度胸あるね」

「や、止めて!カケル兄!」

「何故俺が人間だと分かった?シャルルの隠蔽魔法はかかっていた筈だ」

「私にシャルル程度の魔法が見抜けないとでも?」

「お願いカケル兄。剣をしまって。ヘーパイストスは他の人達とは違うの。お願い……」


 弟に涙ながらにせがまれては拒否は出来まい。

 翔はしぶしぶと剣を鞘に納めた。だが警戒は解かない。


「いい判断だ。あと一瞬遅ければ、首を跳ばしていたよ」


 先程の錯覚はどうやら気のせいではなかったらしい。

 翔は心の中で安心した。


「まぁそうギシギシするな。肩の力を抜きな。取って喰おうってわけじゃないんだ」


 ヘーパイストスは翔の背中を叩いてから再び椅子に腰かけた。

 テーブルに散らかった資料を何枚か眺めてから置き、ぐるりと一回転してから肘おきに頬杖をついた。


「まぁ、何で人間がこの世界にいるのかは聞かないでおくよ。どうせアンタも分かってないんだろ?」

「はい。あの、ヘーパイストスってあのヘーパイストスですか?神様の」

「あぁ。鍛治の神ヘーパイストスとは私の事だ」

「質問です。ヘーパイストス様は━━」

「様なんて止めてくれ。私はそういう畏まった感じは好きじゃないんだ。それと敬語。それも消せ」

「で、ですが流石に神様相手にそんな………」

「シャルルを見ろ。私の事なんか一切気にせずにお前の後ろでパーツの山を漁ってるぞ」


 後ろを向くと、確かにパーツの山を一心不乱に漁っていた。遠慮は無しか。


「そういうことだ。ラフに行こう」

「あ、貴女がそう言うなら………んん"!ヘーパイストスは俺を奴隷にしたりしないのか?」

「何でアンタなんかを奴隷にしなきゃならんのだ」

「だ、だってこの世界では人間なんて」

「確かに道具として扱われるな。けど、それと私がアンタを奴隷にすることと何の関係がある?アンタみたいな役立たずを使って作業するより魔法で自分をサポートしながら作業をした方がよっぽど効率が良い。人間を奴隷にするなんて三流のすることだ」


 何だろう。安心できるのにこの解せない感じは……。

 翔はモヤモヤを抱えたまま次の質問に移る。


「貴女の『人間』の発音、シャルルとは違うな。貴女は俺達人間を知っているな?」

「まぁ神だからね。アンタがいた人間界もよく視ていたよ。因みにアンタをあっちに帰すことも出来なくもない。帰るかい?」

「まさかのこんな近くに帰る手段があった!?」


 サラッと凄まじい事実を告白するヘーパイストスに翔は驚きを隠せない。

 二人の話を聞いていたシャルルはパーツを漁る手を止めて翔に後ろから飛び付いた。


「駄目ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「うおっ!シャルル!?」

「カケル兄帰っちゃ駄目!!ずっとこの世界にいて!!」

「何でだい?この世界はカケルにとって凄く生き辛い世界だ。こんな世界より元の世界に帰す方がよっぽどカケルにとって都合が良い」

「駄目!!絶対に帰さない!!」


 涙目で必死に翔をヘーパイストスから遠ざけようとするシャルルに翔は微笑んでシャルルの頭を撫でた。


「心配しなくても帰らないさ。俺の家はシャルルの家だよ」

「カケル兄………!」

「何故だい?こんな世界にいたところですぐ死ぬだけだぞ」

「それでもさ。俺は向こうに帰らない」

「変わった坊やだね。まっ、アンタが帰る気ないなら止めとくよ。だからシャルル、泣くな。子供の涙は苦手なんだよ」

「グルルルルルッ!」

「泣くのを止めたと思えば今度は威嚇かい。アンタ、どれだけなつかれてんのさ」

「俺が聞きたいよ」


 やれやれ、と頭を掻きながらまたクルリと回転。


「で、本題に移ろう。今回は何しに来た?ただの買い出しじゃないんだろう?」

「あっ、そうだった。新しい装備が欲しいんだ」

「新しい装備だぁ?シャルル、前に渡した装備はどうしたんだい?あれはBランクの魔獣にタコ殴りにされても壊れないように造ったんだよ?アンタの実力じゃあBはおろか、Cにも行けないだろうに」

「あはは、実はモルドレッド卿にやられちゃって……」

「はぁ?」


 シャルルはテーブルに壊れた装備を置いた。

 ヘーパイストスは装備を手にとってあっけらんとしてから、口を大きく開けて笑い出した。


「あっはっはっはっはっは!!アンタ!あのモルドレッドとやりあったのかい!?こりゃとんだ大馬鹿者がいたものだよ!!あっはっはっは!!」

「そ、そこまで笑うことないじゃん!」

「いや!マジで馬鹿だよ!!ひっひっひ!あ~腹痛い!あの、一戦交えば得られるのは死と言われているあのモルドレッドとやって生きてる!?これ程面白いことはないね!!あっはっはっは!!」


 そこまで面白いことか?

 翔はヘーパイストスの笑いのツボがいまいち分からない。


「そりゃあこんなスクラップにされるわな!流石モルドレッドだ!いや!恐れ入った!」

「直せる?」

「無理だな。私が造るものには全て核となる魔術回路を施してる。それを完全に破壊されちまってる。傷を修復したところでこれはもうただの鉄屑さ」

「じゃあやっぱり造らないといけないんだね………気に入ってたのに………」

「また造ってやるさ」

「でもお金はあるけど素材が………」

「んなもんこっちで全部やってやる。それに、今回は金もいらん」

「えっ?」

「代わりにこのスクラップを貰うよ。これが代金だ」


 ヘーパイストスはニヤリと嫌な笑みを浮かべる。

 一方シャルルは嬉しさ半分、困惑半分の何とも言えない表情をしていた。

 壊れた装備から何が得られるというのだろうか。そんな物を貰うなら金を貰った方が万倍も価値があるだろう。


「分かってないねぇ。これだから素人は」


 ヘーパイストスは大穴が空いた胸当てを手に取る。


「モルドレッドに破壊されたと言うことはね、モルドレッドの魔力が僅ながらにこの装備に宿っているってことさ」

「魔力が?」

「あぁ。特にアイツがシャルルみたいな小物相手に剣を抜くとは思えない。だが抜いた。ということは、シャルルを確実に殺す為に攻撃を行ったということだ。大方、シャルルがアイツに口答えでもして気を損ねたんじゃないか?」


 ヘーパイストスにジトッと見られてシャルルは冷や汗を流してそっぽを向く。


「モルドレッドは短気だからね。ムカつく相手は必ず一撃で仕留める。その時は勿論アイツでも魔力を使う。シャルルの時も同じさ。このスクラップ全てにモルドレッドの魔力反応がある。しかも」

「しかも?」

「アイツの得意とする魔法『ライトニング・ウォーク』の痕跡だ。こりゃあ上物だぞ」


 そう言うヘーパイストスは凄く生き生きしていて嬉しそうだった。

 何を隠そう、ヘーパイストスは鍛冶屋である以前に大の魔法オタクなのだ。

 神ならあらゆる魔法を有するだろうと思われるがそうじゃない。ヘーパイストスは人が使った魔法を解析するのが大好きなのだ。

 魔法というのは実に不思議なものだ。科学では解明できない超常現象である上に使用者によって同じ魔法でも性質が変わってくる。

 その不可解な点がヘーパイストスは大好きなのだ。


「らいとにんぐうぉ~く?」

「上級魔法の一つだよ。この魔法を使うと名前の通り、雷の速度で動くことが出来るんだ。モルドレッド卿はこの魔法がとても得意で、移動する時はだいたい使ってるんだ」

「それだけじゃない。本来『雷の跡』は雷の速度が限界なんだ。だが、モルドレッドはその限界をぶち抜いている。速度で言えばアイツの速度は光の速さだ」

「雷何処行ったし」

「アイツに常識は通用しないさ。そんな化け物の魔力の痕跡がこのスクラップにあるんだ。これよりも高価な代金なんて何処を探してもないね。イヒヒッ」

「おい顔顔。女性がしては駄目な表情になってるぞ」

「この魔力だけでこのスクラップの五倍はヤバい品物造れそうだ。あ~興奮しすぎて腹下がキュンキュンしてきたよ」

「シャルルの前でそんな表現は止めて頂きたい!!」


 間一髪、シャルルの耳を塞ぐことに成功した翔はヘーパイストスに突っ込みを入れる。

 だがヘーパイストスは何処吹く風。早速スクラップになった装備を抱えて工房に走っていった。

 翔とシャルルも後に続いて工房に足を踏み入れる。


「きゃっははははははははは!!こりゃあすげぇ!!何がすげぇのか分からないくらいにすげぇ!!」


 カーンッ!カーンッ!とハンマーを振り下ろして狂気沁みた笑い声を上げるヘーパイストスの姿は女性とは思えない程インパクトがあった。

 残念美人とはこの事である。


「シャルル、あれ誰?」

「ヘーパイストス」

「知りたくなかったよ………」

「うん。僕もあんなヘーパイストス見るの初めて」

「よくビビらないな」

「ぶっちゃけると超引いてる」

「前言撤回」

「シャルルゥ!!待ってなぁ!!良い品造ってやるからよぉ!!」

「うん。嬉しいけど取り敢えず今の状態で話し掛けないで。怖すぎるから」

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!ここかぁ!?ここがええんかぁ!?あ"あ"ぁ"ん"!?イヤンヘーパイストスサマヤメテー!!止めるかぁおらぁ!!ここがええんやろぉ!!?キャー!!」


 ヤバい。この女ヤバい。

 翔とシャルルは揃って同じことを思った。

 目の前で行われる狂乱の一人芝居は正直見るに堪えなかった。

 二人は何も見なかったと頷いて、工房を出ていくことにした━━━。





 あれから数時間経った。ヘーパイストスは未だに工房で怪しい叫びを上げてハンマーを振り下ろしている。

 翔とシャルルは待つのも飽きてきたのでヘーパイストスから連絡が来るまでは別の場所で時間を潰すことにして鍛冶屋を出ていた。

 二人は街中を歩く。勿論翔はフードを被って人間だとバレないようにしている。


「ヘーパイストス凄かったね」


 隣で乾いた笑いを出すシャルルはいつもの鎧姿とは違って青い無地の服を着ていた。翔の世界で言うとチャイナドレスが一番この服の構造に近いだろう。

 当然ながらその下にはちゃんとシャツとズボンを着ている。


「まさかあんなヤバい人だったとは……」

「いつもは格好いいお姉さんなんだけどね」


 仲良く手を繋いで楽しく談笑する二人の姿はなんとも微笑ましい光景である。見る人全てがそう思う。


「欲しかったのは新しい装備だけか?」

「ううん。他にも買うよ。えっとね、閃光玉に砥石等々で、一番重要なのがバックドラゴンだね」

「バックドラゴン?」

「うん。サイズはトカゲくらいなんだけど、警戒心が頂点に達すると半径十五メートルが吹き飛ぶ程の大爆発を起こすドラゴンなんだ」


 流石異世界。えげつない小動物もいるものだ。


「そ、そんな物を何に使うんだ?」

「調合して爆弾を作るんだよ。安心して。販売されている物は全部死んでるから。バックドラゴンの中にある『爆発石』が爆弾を作るのに必要なんだ」

「なるほど。それなら安心だ」

「流石に生きてるドラゴンを売れないよ。テロが起きちゃう」

「だな」


 ドラゴンが売っている店に着いた。

 棚の上にはズラリと薄気味悪い色の肌をした頭が三つあるトカゲが並べられている。


「いらっしゃい!」


 人類種のおじさんが元気よく声をかけてくる。

 シャルルはどれにしようかと目を輝かせてドラゴンを選んでいるが、翔はドン引きしていた。

 死んでいる筈なのに三つの頭がこちらを睨んでいるように見えるし、指先で突っついて見れば皮膚は堅いようでブヨブヨしていて気持ち悪い。


「うぇぇ………」

「兄ちゃんだらしねぇな。こんなの慣れっこだろ」

「こう見えて引きこもりなんで。こんなの見るの初めてですよ」

「坊やを見習えよ」

「住んでる世界が違いすぎて無理です」


 シャルルを見習えるなら翔だって今すぐ見習いたいと思う。だが如何せん魔法が使えない翔にとってはそんなの夢のまた夢だ。


「おじさん。どれが良さそう?」

「そうだな。この数匹は今朝仕入れたばかりの新鮮なドラゴンだ」

「じゃあここ全部ください!」

「はいよ。全部で七百八十ボイルだ」

「はい!」

「毎度あり!またよろしくな!」


 バックドラゴンを瓶に詰めてもらってそれを受け取ったシャルルは翔を連れて店を後にする。

 再び街中を歩く二人だが、急に翔が立ち止まった。


「どうしたの?」


 シャルルは声をかけるが、翔は真っ直ぐ正面を見たまま動かない。

 翔の視線の先には薄紫色のドレスを着た白銀色の長髪の少女が微笑みながら翔を見ていた。

 少女はゆっくりと翔に近づく。シャルルは少女が見えておらず、何が何だか分からない様子だ。翔は近づいてくる少女に対し何故か声が出ず、呆然と佇まんでいる。


『こんにちは。オニイチャン。この世界での暮らしはどうかな?』


 耳から聞こえる筈なのに脳内に反響するその声は謎の魅力を持っており、快感が全身を走った。

 とろけそうになる思考、崩れそうになる足腰。

 その凄まじい快感に翔は恐怖を覚えた。

 少女はまた微笑み、浮いて、翔の背後から抱きついて耳元で囁く。


『怖がらないで。私はオニイチャンに挨拶をしに来たの』


 この子は危険だ。

 危険信号が脳内を埋め尽くす。心臓は激しく鼓動を打って息苦しい。早く逃げろと叫んでいるようだ。なのに体がピクリとも動かない。

 翔の焦りは募る一方だ。


『フフッ、可愛い私のオニイチャン。そんな子に現を抜かすなんて酷いわ。殺しちゃおうかな?』


 少女の指先がシャルルを捉える。

 翔は止めてくれと必死に訴える。すると少女はつまらなそうに翔から離れた。


『そんなにこの子が大事?仕方ないオニイチャン。いいよ。今回は見逃してあげる』


 少女はふわりと翔の周りを浮遊してから翔にキスを一つ落とした。


『またね。私のオニイチャン♪』


 ハッと翔は我に帰った。

 先程の少女の姿は見る影もなくなっていた。

 息が荒く、全身にはべったりとした嫌な汗が流れる。


「カケル兄?大丈夫?」


 心配そうに声をかけてくるシャルルを見て、翔は膝から崩れ落ちた。

 あの謎の少女が誰かは分からない。だが、シャルルを簡単に殺せる程の実力を持った危険人物だということは理解できた。そしてあの魅了される声。あれを聞くだけで体の自由が聞かなくなる。全く恐ろしい少女だ。


「何処か痛いの?苦しい?」

「…………取り敢えず、鍛冶屋に戻ろう……休みたい……」

「分かった。持ち上げるよ」


 シャルルに支えられ、ゆっくりと立ち上がる。

 だが相変わらず翔の足は震えて、歩くどころかまともに立つことも出来なかった。

 翔はシャルルに肩をかけたまま、辺りに警戒をしながらヘーパイストスの鍛冶屋へと戻っていった。

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下級でも俺の勇者であることに変わりはねぇ 五十嵐葉月 @ellice417

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