ヒーロースーツクリエイターズ

甲斐

第1話


 正義のヒーローのための理想的な衣装を作りたい。


 私がそう思うようになったきっかけはもう何十年も昔、怪人に襲われそうになった私を助けてくれたヒーローに何か恩返しがしたいと思ったからだ。


 私に出来る事は一体何なのか?色々調べていくうちに辿り着いたのが『ヒーロースーツクリエイター』という職業だった。


 数世紀前、突如世界中に現れるようになった異形の存在、怪人。

 各国の軍人たちが奴らと戦うために身に纏った防護服がヒーロースーツの始まりだった。謎の怪人に怯える市民を勇気づけるため段々とカッコいいデザインの防護服が採用されるようになり、気付けば防護服はヒーロースーツと呼ばれるようになっていた。

 こうしてヒーロースーツクリエイターという職業が出来るに至った。


 私の仕事はヒーロースーツの企画やデザインで、今は『ヒーローのための理想的なスーツ』という企画の為のデザインを考えている。

 私が私の夢を叶える為だけに立てた企画なのは秘密だ。


 ヒーロースーツのデザインの仕方にも様々な方法はあるが、私は3DCGを使っている。ポリゴンと呼ばれる三角や四角などの図形をたくさん組み合わせて立体的にする、ゲームなんかにも使われている技術だ。


「ここに武器を仕込んで……そうだ、正義のヒーローにビームは欠かせない。何処かに射出口を……」

 私の夢の実現が目前という事もありヒーロースーツのデザインはとても順調だ。アイディアが湯水のごとく湧き上がる。あとはそれを全て組み込めば……


「正義のヒーローにビームって要るか?そもそもヒーロースーツに無駄な機能組み込んでどうするんだよ。どっちがいい?」

 同僚の堂島が紅茶とコーヒーを持って話しかけてきた。堂島は基本無愛想だし口も悪いが普段私が行き詰まると必ず声を掛けてくれる憎めない友人だ。でも今日の私は絶好調なのに声を掛けてくるなんてどうしたのだろう。

「無駄なんて言いかたはないだろ?ヒーロースーツ作りで一番大切なのはロマンなんだから。戦闘能力よりも市民の不安を和らげる魅力を優先すべきだ。コーヒーで」

「これ絶対お前の趣味だろ。俺紅茶飲めないからお前紅茶な」

 こいつ、当然の様な顔で紅茶を渡してきやがった……。

「じゃあ最初から聞くなよ……。そもそもどこが悪いんだよ。夢とロマンで溢れてるだろ?」

「溢れ返って洪水起こしてるのが問題なんだよ。特に頭!どうしてフルフェイスヘルメットの上にド派手な仮面を付けた!舞踏会にでも行くのか!?」

「カッコいいだろ?」

「よくねーよ!次は腕だ!肘から先がマシンガンに変形するってどういう仕組みだよ!中の人の腕はどうなった!?」

「……マシンガンに変形するのは右腕だけで左腕はライト○イバーになるし?」

「知らねーよ!あと腹に付けたレーザービームの射出口!重すぎて重心が前に傾いてるじゃねぇか!最後に身体中に仕込んである刀!腕が変形するのにどうやって持つんだよ!?」

「あー……口で咥えれば大丈夫。多分」

「……フルフェイスヘルメットのどこに口が付いてるって?」

「……うん。ちょっとだけやり過ぎたかもしれない」

 堂島の顔が質問の度に呆れ顔になっていく。そこまで酷かったのか……。うん、言われてみれば確かにちょっとだけ酷かったかもしれない。

「何でもかんでも盛り込み過ぎて戦えなくなったら本末転倒だろう。何を作っているのか、何を作りたいのか。そこを常に考えろ」

「何を作りたいのかって、それはもちろん理想のヒーロースーツをーー」

「そもそもお前の言う理想のヒーロースーツは誰に着せるために作ってるんだよ」

「それは。もちろん、あの時の正義のヒーロー……。そうか、こんなにも簡単な話だったんだな。私が作るべきヒーロースーツは最初からひとつしか無かったんだ……!」

 私はただ理想のヒーロースーツを作る事に夢中で、誰かに着てもらう事を考えていなかった。

「なんだ、もう大丈夫そうだな。あんまり無理するなよ」

 堂島は珍しく少しだけ笑ってそう言うと、自分の席に戻っていった。




 ーーーそして数時間後、ついに正義のヒーローのための理想的なヒーロースーツが……


「……で、これは何だ?」

「これこそが私の考える理想のヒーロースーツ、魔法少女服風ヒーロースーツだ!」

「どうしてそうなったんだよ!」

「思い出したんだ。あの時私を助けてくれたヒーローは女の人だったんだよ!だったらあの人に捧げるべきヒーロースーツは魔法少女服しか無いだろ!?」

「あるだろ!他にも色々と!そもそもーーー!」

「------!」

「---!!」


 ……ついに正義のヒロインのための理想的な魔法少女服が生まれたのだった。

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