体育祭は雨模様。

 ある日の放課後、俺と黒使と柊の3人は教室にいた。

「そういえば、もうすぐ体育祭だね!ここの学校って毎年体育祭の種目変わるんだって!すごいよね〜!」

と柊が話していた。

「そういえば今日、間先生が明日は実行委員決めするとか言ってたな。」

その会話を聞いて、嫌な顔をしている黒使が

「体育祭なんて我がぶち壊してやるわ!あんな人の劣ってる部分を目立たせる行事なんて…。」

(うん、これは相当なトラウマがあると見た。)

「なんでそんなにムキになってるんだ?なんか嫌な思い出でもあるのか?」

その質問に、不機嫌そうな声をした黒使は

「は?なんであなたにそんな事を言わなきゃいけないの?セクハラ?気持ち悪い。」

(え、なんか当たりが強いよ。俺泣いちゃうよ?)

「ま、まあせっかくの体育祭なんだから楽しみにしようよ!」

と柊が会話を終わらせてくれたおかげで、俺は泣かずに済んだ。


 翌日のホームルームの時間、間先生が教卓の前に立っている。

「それじゃあ昨日言った通り、体育祭実行委員を決めるぞ〜。男女2人ずつな。立候補したい奴は挙手。」

すると、2つの手が挙がった。

「おー、桐島と早瀬かー。両方とも運動部だし俺はいいと思うぞー。じゃあ、この2人は決まりな。あと、男女1人ずついないかー?」

誰も手を挙げる気配はない。

「それじゃあ、先生が適当に決めちゃうよー?いいのー?」

誰も反論する感じはない。

(まずい!このパターンは誰が当たるか本当にわからない。

適当に決めるとか言う時は大抵、普段目立っていない奴とかを指しがちだ。

こういう時は、興味は少しある感じだけどやる気なさげな雰囲気を出しとけば、当たりにくいはずだ。)

「んー、そうだな。真面目に取り組んでくれる奴がいいなー。

よし!黒使、お前運動会実行委員な。普段真面目だし、出来るだろ。」

俺はそれを聞いた黒使の様子を見てみると、なにが起こったのかわからないからか、目が点になった黒使がいた。

(ざまあみろ!昨日俺にあんな口を利くからこうなるんだよ!)

心の中で嘲笑う。

「次は男子かー。じゃあ西村、男子はお前な。よろしくー。」

俺はその発言に反論しようと、席を立つ。

だが、その時に気がついてしまった。周りからお前がやれという目線が突き刺さっていることに。

席を立った俺は、

「わ、わかりました。頑張ります…。」

と言って席に着いた。

(後で、直談判してやめさせてもらおう。)

「じゃあこの4人の体育祭実行委員よろしくな。」

こうして、ホームルームの時間は終わった。


 その日の昼休み、俺と黒使は2人して死んだ魚の目をしながら昼食を食べていた。

きっと、2人とも思っていることは同じだろう。

黒使は、なんの恐怖からかわからないが、さっきから手に持っている箸が小刻みに震えている。

俺もさっきから弁当の中にある煮豆が掴めない。

(こんな緊張してまで、体育祭実行委員なんてやってられるか。放課後に直談判しに行って、辞退させてもらおう。)

と心に決めたところで、黒使の箸の震えが止まった。

俺は黒使の顔を見ると、そこには何やら覚悟を決めた目をした黒使がいた。

(こいつ、まさか俺と同じ事を…。)

俺と黒使の目が合う。俺は笑顔で黒使に向かって

「一緒に体育祭実行委員頑張ろうな!まさかお前、実行委員を辞退したりしないよなー?」

黒使は俺に笑顔を返しながら

「そうね。頑張りましょうね!そんな、やめるわけないじゃない。あなたこそやめたりしないわよね?」

「ははは、何を言っているんだい?俺が辞退するわけないじゃないかー。」

引きつった笑顔の会話の途中で、昼休み終了のチャイムが鳴り黒使は席に戻った。


 その日の放課後、俺は職員室へ歩いていた。

(絶対に実行委員を辞退してやる。運動が不得意な俺がなったところで良い事が1つもない。)

俺が職員室のドアに手をかけようとしたその時、他の誰かの手に当たってしまった。

「「あ、すいません。」」

と、俺と黒使はお互いに謝った。

そして2人は3秒ほど見つめ合った後、黒使は俺より一足先にドアを開け、間先生の元へと駆けて行った。

(やっぱり、あいつも同じ事を考えていたのか!こういうのは先に言った方が有利な気がする。最悪だっ!)

困った顔をした間先生と黒使が話している。そこに俺も近づく。

「西村もなんだ?お前も実行委員を辞退しに来たのか?」

俺はうなずく。

「お前らな、そうやって苦手なものから目を背けるんじゃないよ。

みんなそうやって嫌とかいうけど、結局最後は達成感を感じるんだよ。2人とも騙されたと思ってやってみな?」

2人とも、その言葉に不思議と重さを感じる。

「しかも、2人とも嫌がると思ったから仲の良いお前らを指名したんだぞ。先生の優しさに感謝しなさい?」

その言葉に俺と黒使は、

「「全然仲良くありません!」」

と声を揃えて言った。

「わ、わかったから2人とも実行委員頑張ってね。

明日の放課後集まりがあるから忘れないように。はい、解散。」

そう言って職員室から出されると、俺と黒使はお互いに鼻をフンッと鳴らして、顔を背けあって反対方向へと歩いた。


 そして、実行委員の集まりの初日を迎えた。まさかやる気のない俺たち2人がこの後、体育祭であんなに盛り上がるなんて、この時の俺たちにはわかるわけもなかった。

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