隻眼の少女/麻耶雄嵩
※今回は、ほんの少しだけネタバレがあります。
「この程度なら……」とは思うのですが、特にミステリーとなれば一切のネタバレを許さない! という方もいるので、あらかじめお断りを。
久しぶりに紹介するのは、日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞した「隻眼の少女」です。発表が2011年なので「今さら……」感があるかと思いますが、読了したのが先月なのでご容赦ください。
この作品が発表されて以降、特に上述の賞を獲得したことに対しては賛否両論と、読了後に知りました。そのような議論が起こるほどの問題作だと思います。
とても面白く読ませていただきましたが、私見としては否という判断をしています。
ミステリーに限らず、スポーツでもゲームでもルールが存在します。ルールを守っているからこそ、楽しむことが出来るのです。
この作品は、ミステリーの根底にあるルールを破ってしまったと感じました。
古くからミステリー論で指摘されていたことではありますが、このルールが成り立たないのであればミステリーを読み進める楽しさは半減以下となります。(ネタバレしないよう抽象的な表現でごめんなさい)
作者は意図的にそのルールを壊すことで物語の複雑さ・面白さを作り出していますが、この手法を採ってしまったからには二度とミステリー作家として信用されないのでは。
少なくとも、今の私は麻耶雄嵩氏のミステリー作品を手に取ろうとは思いません。
ここからは、ほんの少しネタバレ。
ミステリーの王道的な流れとして、以下が挙げられます。
探偵が推理する → 条件を積み上げて犯人を絞り込む → 犯人に対し、指摘を積み重ね追い詰める → 犯人が罪を認める
このルールがあるからこそ、読者は物語に入り込み推理を楽しみます。
もし、この流れに沿って犯人が罪を認めたのに真犯人は他にいた、そうなったら、あなたはどのように感じますか。
この作品では、これが三度も繰り返されます。つまり、四度目にやっと真犯人にたどり着くわけです。
三度の犯人絞り込みに至る過程が甘いかというと、そんなことはありません。そこはさすがと言える作者の力量でしょう。
実は、私自身は三度目の犯人が真犯人だと思いながら読み進めていました。それがひっくり返されたこと自体に異論をはさむつもりはありませんが、ひっくり返すだけの説得力が描写にしろ、動機にしろ、十分提示されていたかというと首を捻らざるを得ません。そもそも「ルールをひっくり返して、奇をてらったものを書こう」というコンセプトありきという印象を受けました。
既成の概念を壊す、という手法がこの作者の持ち味のようなので、そんな作風を好む方も数多くいるはずです。
ただ私には合わなかった、ということが分かった作品でした。
通り過ぎた文字たちは 流々(るる) @ballgag
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