王とサーカス/米澤 穂信

 前回ご紹介した「十五少年漂流記」に続き、小学生の頃に影響を受けた本について書く予定でしたが、つい先日読んだこの本について思う所があり、割り込みします。

 ちなみに既に今年の二月時点で予定していたのは「黄金仮面」「狼王ロボ」の二作。お楽しみに! と言いたいところですが、ネタがないときに書いているのでいつになるやら(^^;)



 さて、あらためて「王とサーカス」。

 二〇一五年に発表された本作は、「週刊文春ミステリーベスト10」(文藝春秋)、「ミステリが読みたい!」(早川書房)、「このミステリーがすごい!」(宝島社)のミステリランキング三冠に輝いた名作としてミステリーファンには知られています。

 実は私、文庫化されたものを読むことにしているため、今年になってようやく手に取ることとなりました。

 しかも八月に購入しておきながら未読のまま数か月。いや、言い訳させて頂くと、今までの読む時間が今年になり「書く」時間に代わってきているので、読書数はめっきり減ってしまって……。(^^;)

 十一月に入り少しずつ読み始めた折、仕事の合間に三時間の待ち時間が生じたので、その機会を逃さず一気に読み進めました。


 米澤氏の作品はアンソロジーで数作を読んだことがある程度で、丁寧な文体の作家さんというイメージです。

 本作においても冒頭から丁寧な描写で、淡々と物語は進んでいきます。実際にネパールで起きた「ある事件」が題材となっているそうですが、不勉強な私でも惑うことなく徐々に物語の中へ没入していきました。


 ミステリーに対する評価としては失礼になるかもしれませんが、謎自体はオーソドックスで分かりやすいと感じました。奇をてらったトリックや現実離れした仕掛けがあるわけではなく、ここでも丁寧な伏線が張られているので「えっ? どういうこと?」とページを戻って読み直すようなことはありません。


 この物語の最大の魅力は謎解きではなく、何のために生きるのか? という読者への問いかけです。


 哲学的な言葉が並べられていることもなく、直接問いかけるような文章もないにも拘らず、全編に亘って伝わってくるのは、何を目的として、どのように生きていくのか? という思い。

 淡々と、丁寧な描写でつづられていることが、より一層その思いを強く印象づけています。

 まるで喉元に刃を突き付けられて、「さぁ、答えを……」と問いかけられているかのように。しかも、静かにゆっくりと。


 思わず深く長い溜息をついてしまうような読後感だったので、割り込みしてみました。

 さすが三冠、といえる秀作です。

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