10月6日は 失せ物をひとつみつけた日

10月6日


コイツを引き取り約1月と1週間が過ぎた。引き取った当初に比べれば身体の大きさも一回り程大きくなり、知能理解度は、その辺で遊んでるガキ位には成長してる。何より身振り手振りの意思疎通から言語での意思疎通が出来る様になりやがった。たまに辿々しい所もまだあるが1月でここまで向上するとは俺は思わなかった。ドックも「規格外だとは思っていたけれど…此処まで来るともはや異常よ」とか言いながら目ん玉輝かせてたわな。

あぁ、それと「身体的成長は遅いのが心配ねー」とも言ってたけれどよ…コイツこれ以上デカくなるっていうのかよ…いや確かに、俺が知ってるのはもう少し大きいが…これ以上デカくは困んだけれど…。


「しぐれ!しぐれ!」

「…んだよ。リュウタ」

「あそぼ!あーそーぼー!」

「今、手ェ離せねぇからあとでな」

「むぅーーけちー」

「言ってろ」

「けち、いくない!」

「いくないなんて、言葉ねえぞ?」

「…………う?」

「教えただろ?考えろ」

「りゅちゃ、いいこいいこ?」

「あぁ、リュウタは賢いからな、考えろ」

「ふふー♪りゅちゃいいこ!」

「ちげぇ、そうじゃねえ」

「うー?」


っとまぁ、こんな感じだ。最近は余程疲れたり機嫌が悪くない限り、獣型でいる事はなく半人獣型で過ごす事が多い。この記録を書いてる間も半人獣型この姿で爬虫類の様な尾を俺の腕に絡ませてみたり、ぐるぐる周りを走ってみたり背中に飛び乗ったりとかなり忙しなく動いてやがる。

後、最近「あれなに?」だの「なんで?」だの…説明できねえ様な事も聞いて来るから困る。それとコイツがリンドウでリュウタが愛称だというのもしっかり浸透しているらしい。ただ、リンドウは言い難いのかはたまた俺が滅多に呼ばないからかリュウタ…を崩した『りゅちゃ』っという自我らしいものが生まれてる。それから『』『わあ』を決めたがるのも最近多いな。これ使うとコイツ自身の理解も深まるというか、浸透しやすいらしく良く常用させて貰ってる。まぁ、普通に言ってもその辺ガキにモノを教えるより物覚えも良いんだが。


「しぐれー」

「なんだ?」

「いくない?ない?」

「あぁ、ねぇ」

「うー………よくない?」

「おぉー」

「!りゅちゃ、いいこ?」

「おう、賢い賢い。リュウタは賢いなぁ‥」

「えへへーりゅちゃいいこ!いいこ?」

「あぁー‥へいへい。イイコイイコ」

「きゃーーーー!いいこーーーーーッ!」

「おい、暴れまわるんじゃねよ」


そうそう。前に発見した頭を撫でると大人しくなる現象だが…今では何だかんだ大暴れしやがるんだわ。一回大型TVぶっ壊して「テッッメェ!皮剥いで剥製して売っ払うぞっっっ!?ゴラァッッッッ!!!」っと大声と共にダガー持ち出して怒鳴って以降は少し控えめになったもののやはり、頭を撫でるとドタバタと走り回りバタンドタンと爬虫類の様なそれを床に叩きつけてやがる。いい加減、下の階の住人にお怒りを買いそうで俺は心配で仕方ねえ。つうか何故、そんまに暴れるんだ?嫌なら強請るなよ。


「はいはい。リンドウ」

「う?」

「こっち来い」

「いく!」

「待っその勢いで……ッッッッ!飛び込んで、来んなや……」

「?しぐれ、たいたい?」

「………息つまるわ…」

「いき、つまる。わあるこ?」

「あぁ…」

「めんちゃい」

「……違うだろ?」

「ごめんちゃい」


てめぇ…トップスピードで腹っつうか鳩尾狙って飛び込んで来んなや…一瞬前が霞んだぞ、おい。突っ込んできた本人は謝罪の言葉とシュン…と申し訳無さそうな面構えしってから許してやるか…と思想するが左右に勢い良く動いているソレを視界の端に入ってしまった。オイ、んで喜んでるんだよ。このアホ合成獣キメラ。面と尾が一致してねぇぞこのガキ…。最近よくメディアなんかで見る、アホかわいい動物特集に出て来る犬猫か?テメェは?一瞬でも許してやろうっと思った俺の善意を返しやがれ。



「…はぁ、リンドウ」

「うい」

「面と尾が合ってねぇんだが?」

「…うー?」

「…ん」

「…おぉ!」

「“…おぉ!”じゃえねだろ!テメェ謝る気ねぇのか!?」

「んーめんちゃい?」

「いや、違うだろ?つうより何を謝ってるか解ってんのか?」

「えへへー」

「はぁ……」

「りゅちゃ、わあるこ?」

「んー…難しいなぁ…」

「むじゅかしい?」

「おう」

「こまったなー!」

「てめぇが言うな!」


あぁ…頭が痛てぇ‥母親っつうのはいつもこんな感なのか?母性とかそんなモン遠も昔に置いて来てんぞ?俺は。そう思いながら、へらへらしてる己の子では全く無い、ソイツを見つめる。このまま俺が手を振り下ろす事もあり得るっていうのに、そんな事露知らず…爬虫類の様な長い尾を揺らし、首を傾げながらニコニコと笑顔を振りまき俺の次の言葉と行動を待っている。“痛み”や“恐怖”という言葉を知らぬ純粋無垢なその姿がその真逆の性質である俺には眩しすぎる事をコイツはきっと知らねぇだろうし、今後も識ることもないのだろうか?


「あー、なんか疲れるわな..」

「しぐれ、おしごと、たいへん?」

「あ〜…仕事は滞りなく、順調だ」

「おぉーおかげさま、だな!」

「いや、お陰様は俺が言うんだよ」

「むじゅかしい…」

「おう、言葉も人様のこの世界も七面倒臭ぇんだわ…」

「しちめ?」

「もう、酒を呑まずにはいられねぇって事だ」

「ふかざけは、めっ!ってどっくちゃいってたよ?」

「俺は、良いんだよ。リュウタ」

「なんで?」

「んー…半分置いてきてるからな?」

「…?しぐれ、わしゅれものした?」

「まぁ、ンな所だな。ほら、腹の上から退け」

「あい」


目の前に居るのは、いずれ俺が『置いていた場所』にも確かに配備され、その場で捨てられたモノと大差なく育ち…そして機能するのであろうか?俺はこいつをこれからどうする?否、どうしたい?罪滅ぼしか?それとも手土産に戻るのか?理由か?戦利品か?気まぐれや暇つぶしか?


「しぐれ?たい?」

「………っは?」

「しぐれ、ごめちゃい」

「どうしたんだよ、急に」

「しぐれ、たいたい?」

「なんだよ、別にどうもしないぞ?」

「しぐれ、なきそう。いいこいいこ」

「何言ってやがるんだ…」

「しぐれ、りゅちゃに、おにくたくさん、くれるよ?」

「それしか食わねぇくせに」

「おしごと、がんばってるよ」

「金がなきゃ、此処にもいられねぇし飯も酒も買えねぇんだよ」

「りゅちゃに、いいこいいこ、してくれるよ」

「暴れるだろうが、暴れるならもうやらねぇぞ」

「……じゃあ、りゅちゃがしぐれに、いいこいいこする!」


……本ッ当にコイツはわからない。今の今までヘラヘラしてた癖に、突然、しをらしく俺の前に立ったと思ったら、尻尾を俺の背に回し両腕は頭を抱えてまるで母親が幼子をあやす様優しく『しぐれ、いいこ、いいこ』と言いながら頭を撫でて来る。俺はこんな風にコイツを撫でた事があっただろうか‥などと見当違いな事が頭に過った己ながら嘲笑する。


「…俺も、歳をとったか…」

「しぐれ?」

「んだよ」

「いまわらったから、げんきでた?」

「っせい。呆れてんだよ…少し黙ってやらがれ」

「うい」


少なからず、こんな奴でも一緒にいて多少は俺も人間一般人らしくなってきたって事だろうか?そう短絡的結論を己に押し付けてから、母には到底程遠い小さく暖かな合成獣怪物の胸を借り、久方振りに感じた眼前の靄をはらう様にそっとそれを閉じた。




【10月6日は 失せ物タイセツナモノをひとつみつけた日】​

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Zeit ist Geld ー合成獣育成奮闘記ー 卯月普賢 @Uduki_sosaku

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