8月29日は 初めての意思疎通記念日

8月29日


取引先からの依頼でコイツを引き取って5日目。ドッグが言っていた通り、こちらの言っていることは、多少理解出来るだけの知能はありそうだ。利便上ではあるが名付けた名前を呼ぶと、ちらりと瞳でこちらを追ったり尻尾をふって反応くらいはしてくれる。


「おい、リンドウ」

「……」

「眼で追うなら返事をしろ返事を」

「……」

「ドックの野郎が言ってたぞ?合成獣てめぇらは話せるんだろ?」

「…ゥア…ゥ…」

「はぁ、駄目だこりゃ…」


俺の記憶が正しければ、確かに合成獣こいつらは普通に人の言葉を話しコミュニケーションをとり多少の喜怒哀楽が備わっていた。まぁ、実際は『任務を遂行しろ』『撤退しろ』『自害せよ』くらいの簡単な命令位しかしたことはねえが。下手な新兵より丈夫で馬鹿な上等兵より良く命令を聞いていた様な気がする。

そんな俺にとって戦争の備品どうぐ位の認識しかなかったソレが、奮発して買ったユニコーンの革を鞣して作られた高級ソファのど真ん中を陣取り、丸くなりながらジィっと目の前にある大型TVに映る最近人気が出てきたとかいう清楚をウリにしている新人女優が笑顔振りまく様を眺めている光景が此処にあるのだから、世界も人生も何があるかわかりやしない。


「こいつ、お前の好みなのか?」

「…ッゥ…」

「つうか、お前の性別はなんだよ?オスか?それともメス?」

「…………ウゥ…」

「わからんなら、首を振れ首を」

「…ゥ?」

「あぁー…こう。」

「…」


言葉での意思疎通が出来ねぇならせめて動きで何とかならんものか…とふと思い悩みの種に直接尋ねれば、“なんのことだ?”とでも言いたげな表情を浮かべてやがる。まぁ‥こうなるわなっと予想してた訳で、えぇっと‥目ぇみながらだったか?とりあえず、『違うならこう…んで。正しいならこうだ。』と試しに首を縦横に振る。俺一人でそんな事をやっているのは、だいぶシュールな光景だが背に腹だ。意思疎通が出来なきゃこの先どうにもならん。教えられてる方はというと、とりあえず動きを真っ赤な瞳で追ってはいる…な。


「いいか。しゃべれねえならコレくらいしろ?」

「……ゥ」

「こういう時に振るんだよ。理解できたなら縦。出来ないなら横だ。」

「……ウ!」

「おぉ、やりゃできんじゃねぇか。偉いぞ。リュウタ」

「…?」

「あぁー愛称だ愛称。リンドウ、イコール、リュウタ。いいな?」

「……ゥ」

「よし、物分りがいいじゃねぇか。流石、合成獣人類の名機


とりあえず、首を振って是非を問えるそして意思を読み取る…ということはこれから出来そうだ。のみこみも早いのかそれともまぐれなのか、一応は俺の質問に対して首を振り反応する。確か、上手く出来たら褒めるんだったか?とりあえず、頭でも撫でれば良いのか?


「褒めるっつってもなぁ‥」

「………」

「リュウタ、頭だぜ」

「…ウ」

「・・・あぁー…カシコイ キメラダナァーリュウタハ」

「…ウゥー」

「じゃあ、今日の飯は魚でいいな?」

「……ゥ゛ゥ゛~~~~~」

「んだよ、嫌かよ」

「…ウ!」

「……ハァ…。」


こりゃあコレで面倒そうだな…意思疎通が取れるというのは相手にとっても同じな様でこちらの都合の良く解釈できない様になってしまったみたいだ。新たな悩みの種が増えてしまった。魚食いてぇな。此処の所ずっと肉だ‥つうか合成獣キメラって肉食か?魚食えよ魚。うまいし日持ちもするし安上がりだし。ソファに陣取る性別所かすべてが不明なこの科学生物はジィと俺の顔を覗いてる。戦争あい備品つらと同じ様な硝子玉の様に只々透き通り曇りもない瞳……なんだか居心地の悪くなり視線を逸す。何故かは俺自身もわからなかった。


「わかったよ…今日も肉だ」

「……ゥゥア!」

「あぁー良かったな」

「……ウ!」


バタンバタンとソファの上を転げ回るその様を横目に溜息をつきながら、興奮し半人獣型にコンバートしたソイツの頭を再度撫でてやる。そうすると、以外にも大人しくなりグルグルと喉を鳴らしている。喜んでるのか嬉しいのかはわからんがとりあえず、暴れたら撫でてみよう。とまたひとつ新たな発見に喜びつつ、2人分の安くて大分量のレパートリーの少ない肉料理を考えるのであった。

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