英雄戦争2
「見えたぞ……あそこだ!」
それは、先程見たばかりの蟲人の英雄スレイタスの姿。
だが、その前には今までの蟲人達とは明らかに違う蟲人達が控えている。
恐らくは……アーク同様、六星将と呼ばれるような存在なのだろう。
だとすれば、通してはくれない。
「来たぞ、スレイタス!」
「そうか。だが此処までだ……殺れ」
そして、その予想通りに二人の蟲人達が動き出し……アミルが剣を構える。
アークと同じ六星将であるならば、その力はあの時のセイルが全力を出さねば勝てない程度。
アミルと二人では勝ち目があるはずもない。
ガイアード王国軍はセイル達の後方で蟲人軍と乱戦になっており、此処にいるのはセイルとアミル、そしてスレイタスと六星将の二人だけなのだから。
だが、セイルの瞳に絶望の色など浮かんではいない。
「お前達二人で乗り込んでくるとはな」
「仲間を犠牲に、か。だがそれも此処までだ」
戦闘態勢を整える六星将の眼前で……セイルは、カオスゲートを取り出す。
「セイル様……?」
「む? なんだそれは」
「さあ、なんだと思う?」
とある画面のままにしていたカオスゲートを、セイルは軽くタップする。
それは、アップデートによって得た新機能の1つ。
ユニット編成機能の1つ……「出撃メンバー選択」。
固定されたままだったそれは今「反映」しか押せないが……それが一体何をもたらすのか。
答えは、セイルの周囲で輝き出した光が知っている。
「うおっ……!?」
「目くらましか、小癪な!」
六星将の放った電撃は……しかし、現れた大盾に防がれる。
その大盾の持ち主は、全身をミスリルの鎧で覆った重装兵ガレス。
「な、いつの間に……ぐっ!」
もう一人の六星将を襲ったのは、自分の眉間を狙った矢。
あえなく弾かれたソレは一瞬ではあるが視界を塞ぎ、だが確かに自分を狙う弓手……エイスの姿を見た。
「……ダーク」
「ぐああああああああ!?」
そして、その視界を塞がれた一瞬に凄まじい威力の闇魔法が六星将の一人を襲う。
なんとか気合で弾くも、そのダメージは小さくはなく……それを為した魔法士イリーナは、フンと軽く息を吐く。
「さて、今の内ですぞ二人とも」
「……すまないな、オーガン。突然で戸惑っているだろうに」
セイル達に囁くオーガンにそう答えると、オーガンはカカ、と笑う。
「なあに、よく分からないのは確かですが『何をしているか』くらいは分かるというもの。狙いはあの大将でしょう? さあ、行きなされセイル様」
「ああ、頼む……!」
叫び、セイルとアミルは走る。
「さあ、決着の時だスレイタス……!」
「フン、舐めるなよセイル!」
その強大な肉体故に、蟲人は武器という文化を持たない。
固い鎧のような外骨格は蟲人の武器でもあり、鎧でもあるからだ。
そして英雄たるスレイタスの外骨格は、その中でも最強。
更に、戦闘型の蟲人であるスレイタスには蟲人特有の能力もある。
「弾け飛べえええ!!」
黒い電撃が、恐らくは黒の月神の力をプラスされたのであろう電撃がセイル達を襲う。
「アミル!」
「はい!」
セイルとアミルは二方向へと別れて跳び、電撃を回避する。
そしてすぐに、もう電撃を放てないであろう距離まで接敵し……王剣ヴァルブレイドが、そして聖剣ホーリーベルが煌めく。
「くらえええええ!」
「えいやああああ!」
二つの斬撃が、僅かではあるがスレイタスの表皮を傷つけ……驚きの表情を浮かべたスレイタスが拳でアミルを弾き飛ばす。
恐らくは弱い方から確実に片づけようとしたのだろう。
あるいは正解になりえていたかもしれないが……今この瞬間は、それは間違いだった。
何故ならば、そう……何故ならば。
ヴァルブレイドを輝かせるセイルが、すぐそこに居たからだ。
「なっ……!」
「ヴァル……スラアアアアアアアアッシュ!!」
「ぐあああああああ!?」
輝ける王剣の一撃が、スレイタスを深々と切り裂く。
それは明らかな致命傷。
だが、だが……何故アークと互角の戦いを演じていたセイルのヴァルブレイドがそれ程までの威力をもっているのか。
答えは簡単で……強化したからだ。ノーマル級のアイテムと大量の資金を注ぎ込んだヴァルブレイドの今のレベルは、35。攻撃力は……2200。
恐らくは現存する中で人間最強の剣は、スレイタスの外骨格を斬り裂くに至ったのだ。
「おのれ……おのれおのれおのれええええええ! 黒の月神よ! 我に力を! この小癪な人間を叩き潰す力を、我にいいいい!」
「……お前が祈るべきは、黒の月神ではないだろうに」
「何をわけの分からぬ事を! 我等が崇めるべきは黒の月神のみ! 他の神など腐れて消えれば良い!」
「そう、か」
緑の月神には悪いとはセイルも思う。
……だが、スレイタスはもう救えない。これ以上ないくらいに完全に黒の月神の力に呑まれている。
「オオオオ……オオオオオオオオオオ!」
黒いもやのような何かに包まれたスレイタスの身体が巨大化していく。
ゴーレムのように……いや、それよりも巨大に。
その姿に、全員が……蟲人達すらも、驚いたように動きを止めた。
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