花咲かぬ国2
アミルのいきなりの発言に、セイルはしばらく空中に視線を彷徨わせた後に「……ん?」と聞き返す。
「いきなり酷い事を言われた気がしたが……俺の幻聴だったか?」
「酷くありません! いきなり消えて全く帰ってきませんし、皆がどれだけ心配してると思ってるんですか!」
「いや、それは……俺のせいというか緑の月神のせいなんだが」
「とにかく説明してください! あ、いえ……まずは城に帰りましょう!」
なるほど、アミルの言う事は正論だとセイルも思う。心配をかけているのは事実だろうし、一度城に帰りたいのも事実だ。今回の事態も城に帰り態勢を整えれば、選択肢はいくらでも増える。
……だが、それは不可能だ。
「そうしたのは山々だが……ここは大陸が違うからな。せめて船を調達しなければ帰れないぞ」
「は? 大陸?」
「ああ。正確な場所も名前も知らないが、ここは俺達の居た場所から海を越えた所にある。緑の月神の要請という経緯もあったが、ロクな準備もできないうちに飛ばされてしまってな」
セイルの説明にアミルはポカンとした表情のまま、セイルの言葉を頭の中で反芻して理解しようとする。
だが、短い説明の中に情報量が多すぎて上手く理解が出来ずに「うう……」と唸り始めてしまう。
「……ごめんなさい、全く分かりません。そもそも緑の月神なんてものがどうしてセイル様を? それに、此処で何をしようというんですか?」
「何故俺なのかは……俺にも分からん。それこそシングラティオでもよかったはずなのにな」
言いながら、セイルはニヤニヤと笑っているシングラティオに視線を向ける。
そう、此処は人間のいる大陸とは違う場所なのだ。
距離で言えば魔族の英雄であるシングラティオに要請すればよかったはずだ。戦闘マニアという欠点はあるが、こうして接している限り悪人というわけではない。
緑の月神の言葉を思い返せば「人間の為にもなる」という話ではあったが……それを加味しても、セイルを僅かな手勢で送り込むのが最良ではなかったはずだ。
「俺か? 緑の月神に言われても動かなかっただろうな。俺と戦りあってくれるなら話は別かもだが」
「……だろうな。しかし神にも牙を剥くのか」
「当然だろォ?」
溜息をつくセイルと笑うシングラティオを見ていたアミルだったが……やがて思い出したように「あっ!」と声をあげる。
「あの時の魔族!」
「あ? つーか誰だお前。記憶にねえぞ」
「アミルです! 帝国での騒ぎの時に居たでしょう!」
「おう、シングラティオだ。悪ィが、その帝国っていうのがまず分からん」
ぎゃあぎゃあと言い合う……言っているのはアミルだが、ともかく2人の間にセイルが入り「それはさておき」と話を遮る。
「アミル、端的に説明する。状況によるが、恐らく蟲人の英雄、あるいは国そのものを相手取る事になる。その為俺達は魔族の英雄であるシングラティオの協力を得て、この場所……精霊の国に来ている。どうにも精霊自体が何らかの、恐らくは人間に起因する事情を抱えているが、それを説得する必要があると思われる。ここまではいいか?」
「うわぁ、改めて言葉にするととんでもないですね……」
「やりがいがあるじゃないの」
「これが商売なら逃げだすレベルですよう……」
セイルの説明を聞いていたコトリとウルザがそんな事を囁き合っているが、アミルは悩むような表情になった後……深い溜息と共に頭を抱えてしまう。
「ちっともよくないです……自国の状況だってまだまだなのに、どうして……」
「それは俺も思うが、放置すれば俺達の国にも波及する話だ。何もしないわけにもいかないだろう」
「そうなのかもしれませんけど、それにしたって……」
言いながら、アミルはハッとしたような顔になる。
「ま、まさかセイル様。ガチャを……」
「いや、そういえば無料ガチャも引いてないな。俺としたことが……ちょっと待っててくれ」
言いながらカオスゲートをガチャ画面に遷移させようとしたセイルの腕を、アミルが慌てたように掴む。
「いやちょっと待ってください! ガチャを引いていない!? セイル様がですか?」
「ああ、環境の変化も大きかったしな」
「そんなバカな! 二言目にはガチャって言うセイル様が!? タスリアさんに『お願いですからしばらく10連ガチャは控えてください』って毎朝言われるセイル様が!?」
「ああ」
「何処かお身体が悪いんですか!? あ、きっとお疲れなんですね!? 分かりました私が」
「落ち着け」
アミルの口を手で押さえながら、セイルは小さく息を吐く。
「……まあ、俺もガチャ廃な自覚はあるが。そういう状況でもなかったんだ」
アークの所に居た時は、仲間を増やせばいいという状況でもなかった。
そして今は逆に、ガチャ排出直後の仲間で何処まで蟲人相手に戦えるかという問題もある。
この辺りのモンスター分布によってはその懸念もどうにかなるかもしれないが……。
「だがそれをさておいても、お前が来てくれた事で戦力の問題についてはある程度何とかなる。頼りにさせて貰うぞ、アミル」
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