ゴー・ウェスト

「で、何処へ向かうんだ?」


 洞窟を抜けて一息ついたセイル達にシングラティオがそう問いかける。

 その言葉に、セイルは少しだけ意外そうな顔になる。

 先程の戦闘が終われば何処かに行ってしまうと思っていたのだが、ついてくるつもりなのだろうかと思ったのだ。

 しかしシングラティオが戦闘狂な男であることも知っているだけに、セイルは「それを聞いてどうする?」という少し警戒したような質問をする。


「あ? どうするってお前……ついていくに決まってんだろが」


 何を言ってるんだと言いたげなシングラティオにセイルはなんとも微妙そうな顔になり……コトリはよく分からないと言った表情、ウルザはセイルの近くに寄り囁く。


「……シングラティオって、帝国で戦闘しかけてきたって奴よね? 随分親切そうだけど」

「聞こえてんぞ女ァ。そういやお前とは戦ってなかったな。さっきの見る限りそれなりっぽいけど……戦っとくか?」

「遠慮するわ。正面から戦うタイプじゃないのよ」

「ハッ」


 肩を竦めるシングラティオから庇うようにセイルはウルザの前に立ち「有難いが、どういうつもりなんだ?」と再度の質問を投げかける。


「なんだ、疑り深い野郎だな」

「前回の事を思えば当然と思うが」

「ハッ! 言っただろ? 俺等の神が夢枕に立ちやがったのさ。お前等を助けろってな」


 その言葉を聞いて、セイルは少し考え……ウルザとコトリが首を横に振って否定するのを確認してから、シングラティオへと向き直る。


「……いや、聞いてないが」

「そうだったか? まあ、今言ったからいいだろ」

「良くは無いが……まあ、理解はした。それとさっきの助力も感謝する。ありがとう」

「ん? おう」


 頷くシングラティオをそのままに、セイルは「これからの事」を考える。

 セイルの頭の上に降りてきて休んでいるナンナの言葉が正しいなら、西に「絶望を祓う鍵」がある。

 それがどのようなものかは分からない。そして、恐らく「銀の剣」はシングラティオであるはずだ。

 それを確かめる為、セイルはシングラティオにもう1つの質問を投げかける。


「さっきの質問に答える前に、もう1つ聞かせてほしい。お前の神とは……銀の月神で合っているよな?」

「ああ」

「そうか。俺達はこれから西に向かうつもりだ。そこに現状を覆すための『絶望を祓う鍵』があるらしい」

「鍵だあ? 胡乱な言葉だな」


 そう言いながらも、シングラティオは「西か……」と呟く。


「西ってえと、精霊共の国だな」

「精霊……どんな連中なんだ?」

「昔は調停者気取りだったけどな。グレートウォールの一件以来、生きてんのか死んでんのか分かんねえ連中だよ」

「ふむ……」


 世界を隔てたグレートウォール。その間にあった何かが精霊たちを変えたのだろうか、とセイルは思う。

 しかしそれは会ってみなければ分からないだろうか。絶望を祓う鍵。そんなものがそこにあるというのであれば、セイルは行かなければいけない。


「お前の意思は聞いているが、改めて俺からもお願いしたい。俺達に力を貸してほしい、シングラティオ」

「だから行くって言ってんだろがよ。めんどくせえ野郎だ」


 言いながらも、セイルの差し出した手をシングラティオは握り……すぐに払いのけるように放す。


「チッ、男の手なんか握らせやがって」

「そんな事を言われてもな……」


 もしカオスディスティニーのセイルが女主人公であったなら話は別だったのだろうが、カオスディスティニーは男主人公のセイルで固定だったから仕方がない。


「ナンナ。西はどっちだ?」

「えー? ……んー、あっちなのです」


 ナンナが指差した方向は当然セイルからは見えず……シングラティオにチラリと視線を向ける。


「あー……合ってるぜ。先導してやらあ」

「すまないな」

「別に構わねえよ」


 言いながら、シングラティオは歩き始め……そこで、チラリと振り返る。


「で、だ。ゆっくりと走るの、どっちがいい?」

「ん?」


 言われてセイルはウルザ達の方へと振り返りコトリが「ゆっくりがいいです!」と叫んでいるのを見て向き直る。


「現状を考えれば早い方がいいのは事実だが、無理のない範囲で急ぐというのがいいと思う」

「無難な回答しやがって」

「お前の身体能力に全員で合わせるわけにもいかないからな」


 シングラティオの身体能力が凄まじいのはセイルも知っている。

 セイルとウルザだけならともかく、コトリを連れて全力で移動するのは難しいだろう。


「ま、それでもいいさ。だが……ちっとは覚悟しとけよ?」

「どういう意味だ?」


 セイルの問いに、シングラティオは薄い笑みを浮かべながら歩き出す。

 その後を自然とセイル達も追い……夜空を見上げるシングラティオの視線をなんとなく追う。


「……夜明けまではもうしばらくってところか」

「まさか追手か? アークたちの失敗を織り込み済みだと?」

「そうとまでは言わねえが、黒の月神がガッツリ肩入れしてやがんだ。何かしらの神託を下す可能性はあるわなあ」


 連中は夜闇には弱ぇから、来るとなると……、とシングラティオは呟く。


「……蟲人の勢力圏突破まではどのくらいかかる」

「全力で走れば夜明けに間に合うかどうかってところだな」

「……コトリ、俺の背に乗れ」

「はい!」


 即座に飛びついてくるコトリの勢いにぐっ、とセイルは呻くが、しっかりとコトリを背負うと横までやってきたウルザと頷き合う。


「急ごう、シングラティオ。だが置いていくなよ」

「ハハッ! 俺としては此処で奴らとやり合うのも楽しいんだがな!」


 言いながらもシングラティオは走り出し……その後をセイル達も追い走り出した。

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