レジスタンスの村5
「ははは、戻った! 戻ったぞ!」
喜ぶメルトの姿は……確かに今までとは大分変化していた。
髪は銀色の、さらりとしたロングヘアに。
青い瞳は先程までの死んだような輝き……からはあまり変わってはいなかったが。
筋肉量が明らかに減り、女性的な体形に変化している。
身長自体はあまり変らない為に、今いるメンバーの中で言えばウルザに一番体格が近いだろう。
「……確かに、驚くほど変わったな」
「ですねえ……」
「驚きだわ。これほどまでに人間を変えるような道具なんてものがあるのね」
コトリとウルザも驚いたような声をあげるが、アークだけは首を傾げている。
「正直、僕には違いがよく分からないんだけどね。まあ、喜んでるようだし良かった」
「そうなんですか?」
「うん。僕達と同じ種族であれば分かるんだけどね」
なるほど、種族差であれば仕方ないですね……などとコトリは頷く。
コトリだって蟲人の区別はつかないのだから、つまりはそういう事だろうと納得できたのだ。
だが、アークの反応は……セイルは気付いていないようだったが、コトリには分かりすぎる程の変化をみせていた。
「まあ、とにかく。これでアークさんにもアンチカースの効果を実感頂けたかと」
「確かにね。メルトの体格が変わったのは流石に分かるし、どうやら本当に効く薬みたいだ」
「では」
「うん。買わせて頂くよ。とはいえ、この国の通貨なんて欲しくはないかもしれないけどね」
「いえいえ、そんな事は!」
「そうかい?」
コトリの言葉にメルトは立ち上がると、棚の中からツボを取り出し机の上に置いてみせる。
何かがザラリと音をたてたツボの中身を見て……コトリだけではなく、全員が首を傾げてしまう。
それもそのはずだ。メルトがツボの中から取り出したのは……穴の開いた、平べったい石のようなものだったからだ。
「……なんですかコレ」
丸く形を整えられたソレを見てコトリは理解できないといった顔を浮かべるが、セイルは「なるほどな」と苦々しげに呟く。
「そういう可能性もあったな……国どころか種族が違えば、当然そういう事もあるか」
「え? え? ど、どういうことです?」
「石貨ってことね。こっちではそうなのね」
「はああああああああ!?」
ウルザの納得いったような言葉に、コトリは椅子から立ち上がり金貨を取り出す。
「貨幣ってのはこうでしょう!? ギラリ輝く金色! 高貴な銀色も素敵ですけど!」
「メルトも似たような事言ってたけど、こっちでは金銀をお金に使う文化は無いよ。だって、無駄じゃないか」
「無駄じゃないですよう! お金を価値あるもので作るのは、それ自体に価値を保証する為です! 国の保証なんてものがついたのは余計な混ぜ物しても価値を落とさない為でしょう!? それがなんですか、石って! 信用しか価値を保証するものがないじゃないですか!」
「うちの国じゃ、それで問題ないんだよ」
「他の国との取引はどーすんですか!」
「しないよ」
メルトのあっさりとした答えにコトリは思わず勢いを弱め「えっ」と声をあげてしまう。
「しないよ。この大陸の種族は皆仲が悪いからね。例外は精霊くらいだけど、彼等は物を欲しがらないし」
「ええ……でも内需100%なんて」
「魔族は出来ないみたいだね。彼等は略奪とか大好きだから」
ハハッと笑うアークにコトリはドン引いた顔になっているが、どちらかというと異文化が理解できないといった顔であるようにセイルには見えた。
当然だ。商人というのはあらゆる国が物と金の取引をする中に食い込み、利益を得る仕事だからだ。
自国で足りないものを他国から輸入し、自国で余っているものを他国に輸出する。
その血液の流れの如きものが存在しない文化圏があるとは思わなかったのだろう。
「まあ、俺も石貨を貰っても困るがな」
「うーん。じゃあ宝飾品にしておくかい?」
「それでもいいが、この際贈呈ということでもいいだろう」
「セイル様!? それはちょっともがー!」
再びコトリがウルザに口を塞がれている間に、セイルは「それでどうだ?」とアークに問いかける。
「僕は構わないが、それでいいのかい? 君たちに得がないと思うのだけれども」
「それでもいいんだがな」
言いながら、セイルは机をコツンと叩く。
「この地で俺達が目標を達成する為にアンチカースを使うのも事実だ。なら、まずはそういう所から信頼を深めていくのもいいと思わないか?」
セイル達はこの大陸では寄る辺なき者達だ。
今はアークの隠れ里に居るが、この先アークとその仲間達の協力は必須になる。
そうした時にビジネスライクな関係だけというのは、少々マズい気がしたのだ。
ならば、信頼関係がアンチカース1本で買えるのであれば……それはむしろ安いといえるだろう。
「……なるほど、信頼か」
セイルの言葉に、アークもセイルの真似をするように机をコツンと叩いてみせる。
勿論アークにも打算はある。単純に親切でセイル達をこの隠れ里に連れてきたわけではない。
今回の作戦に協力させるのだって、その一環なのだから。
「確かに必要だね。では示された君からの信頼に応えられるよう、僕も努力しようじゃないか」
「ああ、頼む……信頼している」
ジャブのように、セイルは信頼という言葉を放つ。
それは自分達の関係が切れないような楔を打ち込む言葉。
それがどの程度の強度を持つかは……今は、知る由もない。
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