レジスタンスの村3

 やがて運ばれてきたモノを見て、セイルは思わず唸ってしまう。

 それは、先程ウルザが言ったとおりの「そっくりの殻」に見えるものだった。

 見た目は角のない蟲人。あるいはフルアーマーの鎧にも似ているだろうか?


「戦闘用の蟲人だと、攻撃能力が使えないといけないからね」

「非戦闘用の蟲人の……これはそっくりに作った鎧、なんだよな?」


 セイルが確かめるようにそう聞くと、アークは「まさか」と首を横に振る。


「そんなもの用意できるはずもないだろ。用意できたとして、すぐにバレる」

「そうなのか?」

「ああ。僕達の外殻は特別製だからね。生半可な金属じゃ真似できない」


 自慢げに言うアークだが、それを聞いてセイルは別の心配が出てくるのを感じていた。


「特別製……か。それは堅いという意味でいいのか?」

「勿論。魔人の攻撃を受けてもある程度防げるくらいには堅いよ。耐魔法もバッチリだ」

「そう、か」


 普通の蟲人でそうであるならば、英雄である蟲人はそれ以上であるのは間違いない。

 戦う事になった時、厳しいものになりそうだとセイルは心の中で溜息をつく。

 しかしセイルも前回の戦い……ライフキーパーの時と比べても準備をしっかりとしている。

 生半可な事では後れをとらないはずだという自負はある。


「ああ、いや違う。そうじゃない」

「ん?」


 セイルは首を振りながら、聞かなければならなくなってしまった事を聞く。


「今の言葉の意味を考えれば……そして先程のウルザとの問答を合わせれば、それは本物の『蟲人の殻』という理解になるんだが」

「そうだって言ってるだろ?」

「入手経路はどうなっているんだ」

「僕等は死んだ後、外骨格を残すタイプの生き物でね。普通は砕いて地に還すんだが……」

「つまり、死人の……か」


 頷くアークに、セイルは頭を抱え……ウルザとコトリもあまり良い顔はしていない。

 というよりコトリの場合はドン引きだ。


「うええ……それってつまり人間で言えば骨を被ってスケルトンのマネするみたいな。倫理的に大丈夫んなんです?」

「ハハッ、大丈夫だよ。祖先の頭殻を子供に被せる儀式もあるしね。それに……これからやる事を思えば、そんなものって思わないかい?」

「まあ、そりゃあ……そうかもですけど」

「確かにね。英雄殺しで王殺し。しかも他種族。通常であれば徹底的な戦争に突入ね」


 ウルザがそう呟けば、アークがハハッと笑う。


「まあ、大丈夫さ。王が正気に戻ればそんな心配は無いし、死んだとしても戦争を望む王の意思は解除される。何も問題は無いよ」

「感情的な問題があるでしょうに」

「ないよ」

「ないよって……」

「ないものはないよ。今の王が何処かおかしいのはジェネラル全員が理解しているだろうしね」


 理解していても王の判断に疑義を挟むことは無い。

 それが正しいジェネラルの姿なのだとアークは語る。


「それもだな」

「ん? 何がだい、セイル」

「その『おかしい』の具体例について俺達はまだ聞いていない。獣人を滅ぼそうとしている、というのが全てなのか?」


 そう、かつて人間を滅ぼしかけたという魔族の行動を思えば殲滅戦は珍しくもない。

 蟲人の王がそれを思いついたからといって「おかしい」証拠にはならないのではないか。

 そう説明するセイルに、アークは「ふーむ」と頷いてみせる。


「そうだね。これは僕の感覚的な話になるんだけど……いいかな?」

「ああ」


 セイルが頷いたのを確認すると、アークは「何かが混ざってるんだ」と告げる。


「混ざる……? 何にだ?」

「王から伝わってくる思念にさ。僕たちは王の言葉と共にそれを受け取るんだけど……ある日を境に、王の思念に何か別のものが混ざっているような違和感を感じ始めたんだ」

「……」


 それについてはセイルも心当たりがあった。

 黒の月神。蟲人に手出しをしているというその月神の力が影響しているのだろう。

 具体的にどのように対処できるか分からないのが問題ではあるが……。


「それは、呪いのようなものか?」

「どうかな。呪いだったらどうにかできるかい?」

「ない、こともない」

「えっ」


 半分冗談のような口調だったアークは、セイルの返答に思わず椅子から立ち上がる。


「あるのかい!?」

「なんとかなるかもしれない、程度の話だがな」


 要は支部長の時と話は同じだ。

 あの時は呪いをかけている対象をどうにかしたが……まあ、今回は月神相手では難しいだろう。

 セイルをこの世界に送り込んだ白の月神と同等であろう相手なのだ。

 つまりそれ以外の方法となるが……クロスもオーガンも此処にはいない。

 故に彼女達にどうにかして貰う事はできない、のだが。

 

「コレだ」


 言いながらセイルはカオスゲートから1つの小瓶を取り出す。


「高そうな瓶だな」


 メルトがそんな空気を読まない事を呟くが、アークの目は真剣そのものだ。


「……強い魔力を感じるね。それは?」

「アンチカース、という。そうだな……『呪いであるならば、どんなものでも解く可能性がある』薬だ」


 月神の呪い相手に何処まで通用するかは未知数だから、セイルはそう口にする。

 けれど、アークとメルトの反応は想像以上のものだった。

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