レジスタンスの村2

「戦闘狂……ああ、確かにそんな性格だったな」


 会うなり戦いを仕掛けてきた事を思い出しセイルが頷くと、アークはその表情の乏しい顔でも分かるくらいに驚いた様子を見せる。


「戦った事があるのかい!?」

「ああ。戦ったこともある。本気じゃなかったみたいだがな」


 あの時、シングラティオは適当な剣で戦ったらしいが……もし、自分の愛剣を持ってきていたら、勝負はどうなっていたか?

 それを考えれば、あれはセイルの勝利とは言い難かった。


「……一応、認めては貰ったらしい。それがどんな意味があるかは分からないが」

「ふうん……ということは、まさか。やっぱり君が人間の英雄かい?」

「それについては置いておこう。それより、話の続きだ」

「むう……まあ、いいか。どこまで話したっけ……ああ、そうそう。王がおかしくなった辺りだったね」


 獣人を、そして人間を滅ぼす。

 そう王が決めれば、ジェネラル達は疑問は持っても逆らわずに「どうやって滅ぼすか」を念頭に置き動き始める。そういう風に出来ている。


「……が、僕はどういうわけか自分の意思を貫く事が出来てね。配下の一部と、王の命令に反対の人達を連れて逃げる事が出来た」

「一部、というのは」

「僕の意思が通じる戦闘要員さ。正直、数はあまり多くない。大体は王の意思を優先して僕から離れたからね」


 そしてそれが通常だ、とアークは自嘲する。正直に言って、アークの意思を優先する個体が居ただけでも驚きなのだ。王の権限とは、それ程に強いものだ。


「……だが、正面から戦えば僕は負ける。そして僕の負けは、このレジスタンスの負けでもある」


 アークが死んだ時点で、ついてきてくれていたアークの部下は王の指揮下になるはずだ。

 そうなれば、レジスタンスはその時点で終わり。つまりはそういうことだ。


「だから従うフリをして隙を伺っていたんだが……」

「俺を匿ってた事がバレてね」

「ああ、それで逃げ出す事になった。正直、手詰まりだと思ってたんだけど……セイル、君が人間の英雄であり、魔族の英雄とも渡り合えるのであれば希望はある」

「俺に戦え、と?」

「協力してくれるのであれば」


 その言葉に、セイルは思考を巡らせる。

 協力する、戦う、とはいうが……どうなれば勝利条件となるのか。

 戦って正気を取り戻させることが出来るのであればいいが、もし黒の月神による何らかの影響を受けていたとなればライフキーパー同様の厄介ごと……しかも英雄相手である分、もっと厳しい戦いになるだろう事は確実だ。

 今の戦力でどうにかなるかは、正直疑問であるとも言えた。


「……ウルザ、コトリ。お前たちはどう思う?」

「どのみち協力しなければ私達が手詰まりになるとは思うわね」

「そぉですねえ。人間も狙ってるっていうなら、どう考えても私達の国が狙われますし」


 積極的ではないが、消極的賛成ということなのだろう。

 そんな風に二人の意見を解釈したセイルは頷くと、アークへ向き直る。


「協力するのはやぶさかじゃない。だが、何を目指している?」

「何、っていうのは?」

「どうすれば勝利になる。具体的には、お前達の英雄にどうなってほしいんだ?」

「ああ、なるほど」


 その言葉に考え込んだのは、アークの方だった。

 やがて考えがまとまったのか、アークは「そうだね……」と語り始める。


「正気に戻るのなら、それが一番いい。でもダメなら殺すしかないとも思う」

「……いいのか?」

「国の事を考えれば、そうするしかない。幸いにも僕達は頑健だ。次の英雄が生まれるまでは持ちこたえられるさ」


 その言葉にセイルはアークの決意の固さを知ると同時に……軽く、戦慄する。

 英雄。それは種族の代表にして最高戦力、あるいは象徴のような存在のはずだが……蟲人の中で穏健派といえる考えの持ち主であるはずのアークは、それを換えの効くものと言い切ったのだ。

 この割り切りすぎた答えは、同時にアーク……あるいは蟲人の性格をも示していた。

 メルトを庇うくらいだから情はあるのだと思っていたが、油断できないともセイルは思う。

 もし役に立たないと思えばアークはセイル達を切り捨てるのではないか。

 なんとなく、そんな考えも浮かんでくるのだ。


「……そうか」

「うん。とはいえ、それでも真正面からぶつかるわけにはいかないけどね」

「だろうな」

「流石に他のジェネラルとその配下に一斉に襲ってこられるとね。だから、その辺りは策を用いようと思う」


 策。恐らくは潜入作戦だろう。地下道を使うか、あるいは荷物に紛れるのか。

 そんな事を考えていたセイルだが、予想を裏切る言葉に目を見開く。


「君達には、蟲人になりきってもらおうと思う」

「……は?」


 何を言っているのか、とセイルは思う。

 いくら何でも、人間が蟲人になれるはずがない。

 体格どころか外見が全く違うのだ、誤魔化しきれるはずもない。


「……あ、まさか。そっくりの殻を被るとでもいうの?」

「そこのお嬢さん、正解。ちょっと君達用にいじる必要はあるけど……ホントは、メルト用に用意しようと思ってたやつでね。すぐに持ってこさせるよ」

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