作戦会議

「では、これから俺達はどう動くべきかを話し合おう」


 そんなセイルの言葉に、会議室に集まった面々が頷く。

 まずは、このガイアード王国の国王であるセイル。

 副官であるタスリア。

 将軍であるゲオルグ。

 そして剣兵隊長という役割を振られているアミル。

 これはアミルが「私に将軍なんて……!」と全力で固辞した事から「仮」の役割となっている。

 同じく魔法兵長、イリーナ。こちらも「まだ早いです」と固辞された為の仮の役割だ。

 続いて、役職はないがセイルの懐刀と言ってもいいウルザ。

 以上の6人が参加者だ。


「まずは意見がある者から考えを述べてくれ」


 そうセイルが促すと、真っ先にウルザが「じゃあ、いいかしら」と声をあげる。


「エルフ……特にライトエルフとの交渉をしてみるといいんじゃないかと思うわ。ダークエルフはともかく、ライトエルフの連中は不可侵条約くらいは結べる可能性があるんじゃない?」

「ライトエルフ……ストラレスタ達か」

「ええ、プライドは高そうだけど、その分約束の類は律儀に守りそうにも感じたわ。実際、ヘクス王国ではエルフとの小競り合いも一件も起こっていないし……友好的とまでは言わずとも、敵対的でないとは判断できるわよ」


 確かに、エルフと不可侵条約が結べるのであれば懸念が1つ減るのは事実だ。

 上から目線とはいえ彼等は人間を傘下に入れ保護する事も視野に入れていたようではあるし、不可能というわけでもないだろうとセイルは思う。


「よし、まずは1つ目の案が出たな。他に意見のある者はいるか?」

「ドワーフ共はどうなのだ?」


 続いて意見を出したのは、意外な事にゲオルグだった。


「レヴァンド王国とやらのあった場所にはドワーフがいる可能性が高いのだろう?」

「ああ。だが得られている情報から判断する限り、彼等は人間に敵対的だぞ」

「フン、グレートウォールとやらの向こうから帰って来て自分の家に我が物顔で居座ってる者が居れば、敵対的にならん方がおかしいだろう」

「む……」


 確かにこれまでの状況から判断する限り、レヴァンド王国はグレートウォール崩壊以前にはドワーフの土地であった可能性が高い。

 グレートウォール。人間以外の種族全てを追いやっていたと思われるソレについての詳細は未だに分かってはいないが、元レヴァンド王国で発生した大規模な地殻変動から判断する限り、世界の在りようを変化させるほどの大規模な何かであった事は確実だ。

 地図は太古のものに戻る。ストラレスタが言っていた事は真実であったということだ。

 つまり……ドワーフの行ったことが彼等にとっての自衛行動であったとするのならば。

 そんな考えが、セイルの中に浮かぶ。


「……人間達が何もかもを忘れてしまった、か」


 思い出すのはストラレスタの言葉だ。


 人間は、断絶の日から何も学ばなかったというのか。

 そうも言っていた。

 その意味は分からない。しかし恐らく人間は後世に伝えるべき歴史を失伝し、その結果今の状況があるのだろう。

 もしセイルがこの世界に送り込まれていなければ、ヘクス王国含め全滅していたかもしれないとさえ思う。


「……確かに、元レヴァンド王国だった場所を『取り戻した』だろうドワーフ達は、そこから出てきてはいない。人間討滅の強い意思のようなものは感じられない、な」

「けれど、何故ドワーフを?」


 アミルの質問に、ゲオルグは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「何故だと? ドワーフは鍛冶に関しては右に出る者が居ない。この世界のドワーフもそうなのであれば……鍛冶の腕は神懸かり、性格に多少の難がある連中だろうよ」

「……確かに。現状で武具はセイル様のガチャ頼りです。でも、他の用品まではそうはいかないです」

「ああ。俺のガチャは武具や特殊な薬は出るが、それ以外の鍛冶の技能が必要な品は出せないからな」


 ガチャから出るユニットに「鍛冶師」が居ないわけではない。

 しかし現状は出ていない上、鍛冶師一人いれば足りるわけでもない。

 鉱山から採掘する者も必要になるし、その他諸々を考えれば時間をかけて解決しなければならない事案となる。

 ヘクス王国の避難民から人材を募ってもいいだろうが……ドワーフによる武器を実際に確認はしておきたいところではあった。


「スラーラン皇国はどうです? 勝ったにせよ負けたにせよ、確認は必要だと思うです」


 イリーナの意見に、セイルは「ああ」と頷く。

 ゲオルグの見立てではすでに何らかの決着はついているだろうという事だが、その結果がどちらの勝利にせよ……もし人間が生きているのであれば、救出を考えたいところではあった。

 獣人の勝利であった場合、今出ている斥候らしき獣人達が何を目的としているのかも知りたいところではある。

 もし人間に極めて敵対的であり、全ての人間の討滅を考えているというのであれば……恐らく、ガイアード王国の最初の敵は獣人という事になるだろう。


「……確かめる必要はある、な」

「です」

「とはいえ、他の場所も放置できるわけではない。だが下手に戦力の分散もできない。優先度から考えると……」


 そこでセイルは全員の顔を見回す。

 セイルが意見を言えば、ゲオルグを除けば全員がセイルに同調する可能性もある。

 だからこそ全員に意見を求めたのだが……最初に発言したのはそれまで黙っていたタスリアだった。


「スラーラン皇国の現状確認と、獣人の斥候の目的確認。その辺りが優先度が高いかと思います」

「そうか。他の皆はどう思う?」


 セイルの言葉に、全員が同意を示す言葉を返してくる。

 やはり「すぐにでも戦端が開かれるかもしれない」という事実は大きいのだろう。

 具体的な作戦と人員編成は後日再度会議ということになり、その日の会議は終了となった。

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