ガイアード王国2

 ガイアード王都ソルディオン。

 元はアシュヘルト帝国の帝都であった場所は、人が綺麗に消えた当時の街並みをそのまま残していた。

 万人規模の街は空き家だらけであり、ヘクス王国からの移住者程度であれば受け入れるだけの余裕は充分にある。

 それ故に心配するべくは「管理できるのか」といったところだが……数こそ少ないものの、統一された装備を身に纏う兵士達が巡回する姿が見える。


「おい、アレって……」

「ゴーレム? あんなものが……」


 大人よりも遥かに大きなサイズのゴーレムが広場に鎮座している姿を避難民達は眺め騒ぎ始める。

 暗い眼窩の奥に光る眼を持つゴーレムは、そんな避難民達を視線を動かし見据えるが、やがて興味を無くしたかのように前方へと視線を戻す。

 どうやらこの場所を守っているらしい事は確実で、その姿に「凄い」とか「これなら……」という声が漏れ始める。


「……クロスちゃん、アレって……召喚術?」


 エイスのヒソヒソ声での質問に、クロスは少し考えた後に首を横に振る。


「違う。たぶん、ゴーレムメイカーの術」


 召喚は異界から違う生命体を喚ぶ術だが、ゴーレムメイカーはその場にあるもので仮初の命を創り出す術だ。

 恐らくはセイルの「ガチャ」でゴーレムメイカーが喚ばれたのだろうとクロスは予測する。

 先程から巡回している王国兵もそうだが、かなりの回数のガチャを回しているようにクロスには思えた。

 そしてその原資は、恐らくはこの帝都……あるいは帝国に蓄積されていた財貨だろう。

 世界を守ることを思えば当然の行動だが、そうなると知らない女も結構増えてそうだな……と、クロスはそんな事を思う。

 元々人たらしのセイルだから、きっと色々増えているはずだ。


「しかし……ソルディオンか。あの街並みとは随分と趣は異なるが、やはり感慨深いものがあるのう」

「そういやオーガンさんは王都の出身でしたっけか」

「うむ、ガレスの奴もじゃがな」


 今は最後方を守っている重戦士ガレスの居る方向を指し示しつつ、オーガンはエイスに答える。


「とはいえ、お主とて王都に比較的近い村の出身じゃろうに」

「あー、まあ。そうなんですけどね。でも俺の場合王都なんざ、なんつーか『近くて遠い場所』みたいなアレがあったもんですから」

「なるほどのう」


 頷くオーガンだが、先頭でウルザと共に歩いているアンゼリカには聞こえない程度の声で話している辺り、実に「分かっている」対応ではある。

 そのアンゼリカは、ケヴィンやコトリの先導でウルザと共に街中の光景を見るので忙しい。


「こうして見ると、あまり変わってはおらんのう」

「そうでしょうね。まだまだ手が……って、あっ」


 何かに気付いたようにコトリが声をあげた先。

 何人かの兵士を伴った女の姿があった。

 赤銅色の長い髪と、同系色の少しキツめの目。

 その目のキツさを隠すかのように丸みのある眼鏡をかけているせいか、全体的に落ち着いた雰囲気が出ているのが分かる。

 パリッとした服を着こなすその姿は武官よりは文官に近く見えるが、腰に差した剣が彼女もまた「戦う」者である事を理解させる。


「タスリアさん! お迎えですか?」

「はい。私はアンゼリカ様の迎えですが、他の者は避難民の皆様の空き区域への割り振りです」


 そう言うと、タスリアと呼ばれた女はアンゼリカを見つけ目を細める。


「……貴方様がヘクス王国女王、アンゼリカ様で相違ありませんか?」

「うむ。妾がアンゼリカである」

「お初にお目にかかります。ガイアード王国にてセイル様の副官を務めているタスリアです。以後お見知りおきを」

「ほう、副官! いつの間にそのような者を」

「……しばらく離れておりましたが、元々そのような役目をしておりまして」


 どうとでも取れる言い方をするタスリアに頷くアンゼリカだが、タスリアの言葉には嘘はない。

 副官タスリア。初期の星の数は3であり、ストーリー上は第一話の王城陥落時に囮となってセイルを逃がす役割を与えられたユニットでもある。

 その後ストーリー上で再会するのは随分後になるのだが、ガチャで引き編成すると第一話時点で別れたはずなのに味方ユニットに存在するという、この手のゲームにありがちな現象が発生したりもするが……まあ、それはともかく。

 政治や統治のプロというわけではないが、ある程度統率能力やセイルに無い知識に長けた設定のユニットでもあった為、セイルの望んでいた国家運営に必要な人材の要でもあった。


「では、各員打ち合わせの通りに。避難民の皆様、王国兵が皆様への割り当て区画へご案内いたします」

「ハッ! それでは皆さん、家族単位で別れてください! 申告事項がある方は後程伺います!」


 テキパキとした動きで兵士達が動き始めるのをしばらく見ていたタスリアは一つ頷き、アンゼリカへと向き直る。


「それでは、まずは王城までご案内致します。生活の為の家についてはご用意しておりますが、使用人に関してましては何分人が足りず……」

「うむ、それは問題ない。自前のが居るからの」

「ご理解頂けて幸いです」


 巨大な元帝城……現在の王城へと向かうアンゼリカは、チラリとタスリアを見る。

 アンゼリカに与えられた「固有能力」は、タスリアに「王国副官の覚悟」と呼ばれる固有能力がある事を示していた。

 随分と限定的な能力だが……なんとも不可思議なものだとアンゼリカは思う。

 これではまるで、「王国の為に生まれた」かのようだ。


「……どうかなさいましたか?」

「む!? い、いやいや。この場には久々に来るが変わらんと思ってのう!」

「左様でしたか」


 槍持つ兵士達が守る門を潜り、アンゼリカは城の奥へと進んでいく。

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