閑話 その頃のクロス

 パラリ、と本を捲る。

 此処は王城の図書館。

 ……といっても、かつて行くことを夢見た「ガイアード王国」の王城ではない。

 ガイアード王国は私の知っている限りでは魔族から取り戻せてはいないし、此処はガイアード王国の存在した世界ですらない……らしい。

 ただ、その辺りの時間間隔は人によって異なるらしい。

 少なくとも私、召喚士であるクロスの認識する限りは、という話だ。


 正直に言うと、今でもセイルの話を全部理解してるわけじゃない。

 セイルは神様の力によってこの世界に来て、私達はセイルに与えられた「ガチャ」の力でこの世界に喚ばれている……らしい。

 少なくとも「ガチャ」の力は私も確認済だ。それについては疑うまでもない。

 けれど、強い人は喚べないという制限がかかっているのは納得いかない。

 星1とか星3とかいう基準が設定されているのもどういうわけなのだろう。

 まるで「そうあれかし」と定められたような気味悪さを感じる。

 

 他のメンバーは誰も疑問に思ってないようだけれど、私には「ガチャ」の歪さが理解できる。

 だって、考えてみれば当然だ。

 セイルのガチャはアップデートとやらをするまでは「レベル1」……一番弱い状態でしか喚べなかったらしい。

 でも、それはおかしい。

 私達はそうやって喚ばれるまでの間にも私達の人生を生きている。

 その間、何も経験をせずに木偶のように生きてたわけじゃない。

 なら「レベル1」とは何なのか?


 ……仮説はある。

 私達がセイルの仲間になった、その時点をレベル1とする説だ。

 これであれば、ある程度の理解は出来る。

 では、星の数は何か?

 どうやら成長の上限を表しているらしい事は理解できる。

 何らかの大きな刺激を受けるような成長によって星が増える事も分かっている。

 そうだとすると、本人の「魂の大きさ」のようなものだとも思えてくる。

 星の大きな強い人を喚べないのは、その辺りに起因している?

 でも、神様はどうしてそんな制限をかけたのだろう。

 セイルに聞いてみた事はあるが「なんでだろうな」と話を濁されただけだった。

 


「む、此処におったのかクロス。どうじゃ? 何か役にたっておるか?」

「……それなり」


 この城の主、アンゼリカが私に声をかけてくる。

 このお姫様は話好きのようなのだけれど、私は話すのが苦手だ。

 特にたいして親しくもない人とは絶対に無理だ。

 ……なのにこのお姫様はどういうわけか、私に積極的に絡んでくる。

 

 いや、理解は出来る。

 メイドや騎士は話し相手としては最初から除外。

 オーガンの爺は年齢が離れすぎているし、ウルザは必要最低限の事をすると何処かに消える事が多い。

 エイスはチャラいし、ガレスは顔が怖い。

 ……となると、消去法で私しか居ないのは分かるのだ。

 けど、正直言って放っておいてほしい。

 そういうのはアミル……ダメだ、アレはセイル至上主義者だ。

 イリーナは……ダメか、ウザそうな顔を隠そうともしないだろう。

 例外はセイルくらいだろうけど、それは私が嫌だ。


「もっと用意出来ればいいのじゃが……このご時世じゃしの」

「仕方ない」

「うむ。まあ、平時であっても予算の都合もあったが」

「ん」


 困った。私の正面の椅子に座って、完全に話し込む構えだ。

 

「……キングオーブは?」

「アレか。今の状況をどうにか出来ないか聞いてみたのじゃが『答えがない』ときたもんじゃ」

「ん」


 どうにも、あのキングオーブとやらの持っている知識は半端らしい。

 たぶん全部揃えた時に完全になるような代物なんだろうけど、それで全知となるかは怪しいと私は思っている。

 アレは間違いなくセイルを喚んだ神様が造ったものだろうけど、人間に絶対の知識と力を与えるようなものではないんだろう。

 絶対なのであれば「情報の登録」なんていう機能があるはずもない。


「のう、クロス。お主には何か良案はないか?」

「何の?」

「この状況に対する案じゃ。森は日々大きくなってきておるし、国民の不安も高まっておる」


 つまり、エルフとその森の問題だ。

 森の中でライトエルフとダークエルフが争っているらしい事は、エイスから聞いている。

 どういう状況なのかはサッパリだけど、どちらかが人間の味方かもと考えるのはあまりにも危険だ。

 森がエルフの領域というのは常識……この世界では誰も知らないらしいけど、常識だ。

 つまり、このままではヘクス王国の王都も遠からず森に呑み込まれる。

 そうなった時に行動しても遅いだろう。

 だからこそ今何かをしなければならないのだけれど……正直に言って、1つしか案はない。


「……遷都。あるいは国民を連れての亡命。それしかない」

「やはり戦うという選択肢はないか」

「戦うのはいい。でもマトモに戦えるのはセイルと、その旗下の私達」

「……そう、じゃな。妾の騎士達では戦えんじゃろう。しかし、何処に行けばいいというのじゃ」


 確かに、この世界の大国といえる国は何処もロクな状況じゃない。でも。


「待つ。きっとセイルから連絡が来る」


 アシュヘルト帝国とかいう場所にセイルが行っているなら、必ず状況は好転する。

 それまで耐えるのが……私達に出来る、唯一の策だ。

 さしあたっては……このお姫様の相手をするのは、私になるんだろうか?

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