死の集う城6

 ライフキーパーの蹴りが、セイルをいとも簡単に吹き飛ばす。

 来る、と。そう分かって防御したセイルを……まるでゴミのようにだ。


「セイル様!」


 慌てたようにアミルがセイルを受け止めるが、とても足りはしない。

 2人纏めて壁に打ち付けられ、しかしそこで何とか止まる。

 

「う、く……」

「アミル、すまん。助かった……!」


 素早くカオスゲートを操作しライフウォ―ターを取り出すと、セイルはアミルに振りかける。

 輝きと共にライフウォ-ターはアミルの怪我を癒し、一切の油断をしないようにセイルは余裕の態度を見せているライフキーパーを睨みつける。

 同時に思うのは「失敗した」という想いだ。

 作戦の選択を間違えた。最低でも、アンデッドのどちらかを先に倒しておくべきだったのだ。

 魔族の死霊術士は……ラムザールは、最初から一番に殺される事を狙っていた。

 強力なアンデッドを無力化するべくセイル達が自分を狙ってくることを想定し、自分を殺すように誘導していたのだ。

 そして……その作戦は、成功してしまったのだ。


「すまない……これは俺のミスだ」

「いえ、セイル様! そんな……」

「フン。まさか、ここで諦めて死ぬか?」

「それこそ『まさか』だ」


 アミルの台詞に被せるように嫌味を吐くゲオルグに、セイルは答える。

 そう、こんな所で諦めるなど、出来るはずもない。

 諦めて死ねば、ライフキーパーは更なる力を得て……そして、きっと他の場所へと侵攻するのだろう。

 それは絶対に許すわけにはいかない。

 だからこそ、人間の英雄としてセイルは此処で戦うしかないのだ。


「皆、すまない。もう少し俺に力を貸してくれ」

「はい、勿論です!」

「やってやるです」

「うう、怖いでありますねえ」


 セイルの言葉に返ってくる反応はそれぞれだが……否定的なものはない。


「ハハハハハ、無駄な抵抗を! 余に勝てると!?」

「ああ、勝つ。必ず、な」

「やってみろおおおおおおおお!」


 ライフキーパーから放たれる圧力……恐らくは魔力の波動のようなものが、クリスを弾き飛ばす。

 聖域が解除され、セイルが取り出す投げたライフウォ―ターを手にキースが駆け寄っていく。


「……ゲオルグ」

「なんだ、言ってみろ」

「俺を信用する気はあるか」

「気持ちの悪い事を」

「そうか」


 やはり、未だゲオルグからの好感度は高くない。協力技を使うのは無理だろう。

 そして、此処に来る時に使ったせいかアミルとの協力技を使えるという感触もない。

 となると、残りは2つ。それで仕留められるかどうか。

 もしライフキーパーの言った「6万の命」が本当であるならば……それだけの回数殺さなければ、勝てないという事になる。

 ……そんな事が可能なのか。セイルの命が尽きる前に、殺しきれるのか。

 だが、諦めないのならば……やるしかない。


「サーシャ!」

「うん、セイル! さあ来い……ボクの、エクスアーム!」


 サーシャの叫びに応えるかのように、玉座の間の窓の外……空の彼方で、何かがキラリと光る。

 それは、サーシャの協力攻撃でのみ現れる機人の特殊武装「エクスアーム」。

 たとえば星5の「古代の機姫アルファ」であればベクターブラスターという名前がついているが、サーシャのような星3ユニットであれば使いまわしの共通武装。

 飛んできた円柱状のコンテナは壁を叩き壊しがら分解し、中から大きな腕のようなものを吐き出す。


「ギガントアーム、セット! いっくぞおおおお!」


 巨大な腕……共通エクスアーム「ギガントアーム」を両腕にセットしたサーシャが、ライフキーパーに向かって跳ぶ。

 紫電を纏うギガントアームを振りかぶり、ライフキーパーへと無数の乱撃を叩き込む。


「グ、ガッ、オオ……!?」


 大きく揺らぐライフキーパー。しかし、これで倒せるはずもない。

 ないが……それで構わない。

 

「セイル、お願い!」


 後ろへ跳ぶサーシャの腕からギガントアームが射出され、セイルに向かって飛んでくる。

 当然、セイルがサーシャと同じようにギガントアームを装着するわけではない。

 飛んでくるギガントアームを見つめ、セイルは無言でヴァルブレイドを上へと放る。


「ぬ、何を……!」


 自分の武器を放り出すその所業に、ライフキーパーが疑問の声をあげたのは一瞬。

 何故なら……空中を舞うヴァルブレイドに、空中分解したギガントアームが合体していったからだ。

 大剣と見間違うばかりのソレをセイルは……まるでそう定められていたかのような動作でキャッチする。


「……完成、機王剣ヴァルブレイド」


 構えると同時に、機王剣が起動するかのように駆動音を響く。

 その刀身にはサーシャのそれと同じ紫電を纏い、機王剣が輝き始める。

 たとえるなら、爆発寸前までエネルギーを溜め込んだ機械。

 放電し刀身を輝かせる機王剣を……セイルは、一気に振りかぶる。


「ライトニング……スラアアアアアッシュ!」


 ズドン、と。激しい音を立てて地を走る雷撃が放たれる。

 音を置き去りにしながら進む雷撃はライフキーパーを直撃し、その全身に伝わっていく。


「グ、ガ、ガアアアアアアアアアアア!?」


 その全身を焦がすライフキーパーをそのままに、セイルは機王剣を投げる。

 その瞬間、機王剣からギガントアームが分離し……再びセイルの手の中にはヴァルブレイドが戻っていた。

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