死の集う城5
「ハ、ハハ……なるほど、これは……言うだけはあるな」
「お前の負けだな、ラムザール」
すでにカイザーゴーストもヘビーギガスも動きを止めている。
それがラムザールの状態に連動している事は明らかで、どう考えても此処からのラムザールの逆転は無い。
しかし、万が一もある。セイルはヴァルブレイドを振り上げトドメを刺そうとして。
ラムザールの言葉に、振り下ろそうとする手を止める。
「……人間の英雄。名を何という」
「セイルだ」
「そうか、ならばセイル。最強のアンデッドとは何だと思う」
「……何の話だ」
「なに、魔族の死霊術士たる、このラムザールの最後の雑談さ。付き合ってくれてもいいだろう」
時間稼ぎ。そんな言葉がセイルの脳裏に浮かぶ。
此処で殺すべきだと、そう思いながらもしかし……「英雄」として振る舞うが故にそうする事を躊躇ってしまう。
何かあっても、トドメを刺せば済む。そう考え、セイルはラムザールに付き合う事にする。
「お前が造ったアンデッドが最強だという話か?」
「フ、フフ。そうではない。だがいい。たとえば一般的にはリッチ、レイス……その進化系たるキングリッチーやエルダーレイスなどが最強のアンデッドだとされている」
血を吐きながら、ラムザールはそう語る。
リッチ、レイス。その名前はセイルも知っている。
どんなアンデッドかは覚えていないが、それらしきものがカオスディスティニーに出てきたような記憶もあるし、ファンタジーに出てくるアンデッドの中では強力なものだったはずだ。
「それがどうした」
「興味はないか。まあ……仕方ない。これ等最強のアンデッドとされる連中だが、明確な弱点がある。すなわち、殺されれば死ぬ……死を乗り越えておきながら、実に愚かしいと思わないか」
「在るならば消える。当然の帰結だろう」
一体何を言いたいのか、セイルには理解できない。
確かに「死を乗り越えた」のがアンデッドではあるだろう。
しかし、決して不滅の存在になったわけではない。
だからこそ殺す事も出来るわけだが……。
「ああ、そうだ。その通りだ。如何に強力なアンデッドであろうと、命が一つである以上は再びの死からは逃れられない。だからこそ……最強のアンデッドとは、それを乗り越えたものということになる」
セイルがトドメを刺すまでもなく、ラムザールの中からは確実に命の灯が消えていく。
つまりこれは、ラムザールの最後の独白のようなものだろうか?
「それが、あの2体だと?」
「……セイル。お前……この街で人間のアンデッドを1体でも見たか?」
「……いや」
「この街……いや、この国に居た人間共は、およそ6万。その死体と魂は……何処へ行ったと思う?」
気付く。いや、気付かされてしまう。
異常な筋肉の化物の巨人。
巨大な半透明のゴースト。
その材料は……つまり。
「あの2体が……!?」
「そうだ。あれこそは私の最高傑作。そして……」
セイルのヴァルブレイドが、ラムザールの胸に突き立てられる。
もう聞く必要はない。そんな義理は無くなった。
つまり、そう。アシュヘルト帝国の人間全てが、あの2体の作成に使われたということだ。
6万もの人間の体と魂を使ったアンデッド。なるほど、確かに強力だろう。
けれど……それも、これで。
「セイル、様……」
無表情でラムザールの死体を見下ろすセイルを心配したようにアミルが近づいてくる。
しかし、なんと声をかけていいのか迷ってしまう。
それでも何かを言おうとして、けれど。
「おい。このアンデッド共は……何故消えない?」
ゲオルグの言葉に、ハッとしたように振り向く。
死霊術士を倒しさえすれば、悪霊と化したもの以外は消え去るか元の死体に戻る可能性はある。
そう言ったのは専門家であるクリスだ。
しかし……ヘビーギガスどころか、カイザーゴーストすら消えてはいない。
セイルは眼下のラムザールを見るが、どう見ても死んでいる。
呼吸一つしないラムザールの、その死体が……ぎょろりと目を動かし笑う。
「ハ、ハハ……ハハハ! ハハハハハハハ!」
「自分に死霊術を……!?」
セイルのヴァルブレイドによって床に縫い付けられた身体から、半透明の幽体が離脱する。
「そう、そして! 私は宣言する! 6万の魂を支配下に置き! 6万の脆弱な肉体を練り上げ造った最強の身体を持つ最強のアンデッド! すなわち……!」
「ダーク!」
叫び飛ぶラムザールゴーストをイリーナのダークの魔法が狙撃するが、凄まじい速度で飛翔するカイザーゴーストが立ち塞がり受け止めてしまう。
「ハハハハハハッハハハハハハ! さあ、喝采するがいい! 今こそアンデッドの王、魔族の王! 死を蒐集する者! ライフキーパーの誕生だ!」
カイザーゴーストと、ラムザールゴーストが混ざり合い……溶け合ったゴーストが不定形となってヘビーギガスに吸収されていく。
その魂の歪さに、あるいは醜さに呼応するかのように、ヘビーギガスの肉体は変貌して。
濁った半透明の衣を纏う巨人へと姿を変えていく。
「ハハハハハハハ! ハハハハハハハハハハハ!! さあ、さあ! 人間の英雄とその仲間達よ! お前達も私の……いや、余の命の一つに加えてやろう!」
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