死の集う城4

「魔族の王……だと?」

「そうだとも、恐らくは人間の英雄よ。もはや私には何者も敵わぬ事が確定している」

「……警備が緩かったのはそれが理由か」

「警備? ああ、適当に置いといたモンスターアンデッド共の事か。あの程度を警備だと思ってしまうのかね」


 馬鹿にしたように笑うラムザールに、アミル達の敵意が高まって。

 その瞬間に飛び出した影一つ。

 電光を思わせる速度でラムザールへと走るサーシャの拳が振るわれ……しかし、筋肉の化物が動き出しサーシャへと拳を振るう。


「邪魔っ!」

「グオオッ!」


 凄まじい音を立てて迫る筋肉の化物の拳をサーシャは踏み台にして、その腕を駆けあがる。

 この場の誰にも真似できないであろう曲芸じみた動きでサーシャは筋肉の化物の顔近くまで駆け上がり、その腕に紫電を纏う。


「ライトニング……アタアアアアック!」

「ギアアアアアアアア!?」


 叩き付ける拳から雷撃が伝わり、筋肉の化け物の表面でスパークする。

 玉座の間を染めるような輝きの中で、死霊術士は余裕を崩さない。

 その理由は、筋肉の化物が身体を大きく振るいサーシャを振り落とした事で明らかになる。

 多少焦げた程度のその表面は、ダメージがほとんど通っていない事を明確に示していたのだ。


「うっそぉ……かなり本気だったのに」


 振り落とされた勢いを利用して戻ってきたサーシャは驚きの声をあげるが、それはセイルとて同じだ。

 物理攻撃でいえばサーシャはかなり強いはずだ。

 モンスターアンデッド戦でレベルが上がっていれば、恐らくダークゴーレム戦後程度のアミルくらいには強くなっているはず。

 アビリティ「ライトニングアタック」による瞬間攻撃力を考えれば、セイルと同等の攻撃力にはなっていたはず。

 それはつまり……セイルの通常攻撃もまた、ほとんどダメージを与えられない可能性を示唆してもいた。


「く、くくく……! 実感したかね。お前達の攻撃は、このヘビーギガスには通用しない」

「……どうかな」


 だとしても、手はある。

 セイルのヴァルスラッシュ。そして、協力攻撃。

 今使えるのはアミルとイリーナ、そして……サーシャ。

 この全てを叩き込めば、ヘビーギガスを打倒する事は充分に可能だろう。

 そして、1体の半透明の敵。あれがどのようなアンデッドかは分からないが……恐らくはヘビーギガス同様に強力な敵であることは間違いない。

 姿から単純に判断するならば、恐らくヘビーギガスは物理特化。半透明の方は魔法特化というところだろうか?

 ……だが、必ずしも打倒しなければいけないというわけではない。

 どんなに強力でも、あれはラムザールに使役されるアンデッドなのだ。

 ならば、ラムザールを倒す事で無力化できるのだから。

 


「何か手があるという顔だな?」

「当然だ。無策で此処に来るほど愚かじゃない」

「そうか、そうか。ならばやってみるといい。さあ、ヘビーギガス! カイザーゴースト! 奴等を叩き潰せ!」

「クリス!」

「はい! 聖域よ!」


 叫ぶと同時、クリスが聖域を展開する。

 クリスを中心に広がっていく淡い光が玉座の間を覆い、僅かにアンデッド2体の動きが鈍る。


「なっ……!」

「アミル、キース、ゲオルグはヘビーギガス! 残りの全員はカイザーゴーストの足止めを!」

「はい!」

「チッ!」


 舌打ちはゲオルグだろう。しかしセイルの号令に合わせて全員が散開し、一斉攻撃が始まる。

 キースの斧が筋肉に弾き返され、アミルの剣がヘビーギガスに浅い傷をつける。


「くっ、強い……!?」

「フン、どけ! メガスマッシュ!」

「ガアアアア!」


 輝くゲオルグの斧がヘビーギガスの身体に傷を負わせるが……同時にヘビーギガスが腕を振るい3人を弾き飛ばす。


「ぐはっ!?」

「くっ……」

「おのれぇっ!」


 キースが壁に打ち付けられ崩れ落ちるが、よろよろと立ち上がろうとする。

 盾で防いだアミルも、単純に耐えたゲオルグも……決して無傷ではない。

 そしてそれは、カイザーゴーストを相手取っているイリーナ達も同じだ。

 宙を舞うイザンナ=カオスアイに翻弄されているカイザーゴーストにイリーナがダークの魔法を撃ち込んではいるが効果は薄く、サーシャの打撃もまた効果が薄い。

 クリスに至っては、聖域の展開で精一杯だ。

 

「足止めだと……! 出来ると思うか!」

「出来るさ。俺の信頼する仲間達だ!」


 確かに、長い時間は無理だろう。

 どちらも押され気味で、あのままでいれば敗北は必至だ。

 ずっと足止めしている必要はない。

 必要なのはただ、セイルが2体のアンデッドに邪魔されずに走り抜ける時間。

 その僅かな時間さえあれば、セイルはラムザールの元まで走り抜けることが出来る。

 そして、その作戦に当然ラムザールも気付いている。

 持っていた金属杖を構え、逃げようともせずにセイルを嘲笑う。


「驕ったか、人間の英雄! たかが人間の中で強い程度で、魔族に勝てると思うとはな!」

「勝つ。お前が魔族の王を騙ろうと、魔族である事を奢ろうと!」


 ラムザールが、何かを唱え始める。

 攻撃魔法か、それとも新たなアンデッドを呼び出す術か。

 何にせよ……もう、何もさせる気はない。

 何故なら、セイルのヴァルブレイドは……すでに、輝きを纏っている。


「ヴァル……スラアアアアアッシュ!」


 光り輝く一閃が、ラムザールを杖ごと両断する。

 明らかに致命傷の、その一撃。

 しかしラムザールの目には……敗北の色は、浮かんではいない。

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