死の集う城3

 地下を潜り抜けると、モンスターアンデッド達は驚く程にその数を減らした。

 まるで地下に押し込めていたかのような、そんな印象だったが……同時に、一つの違和感もあった。


「セイル様?」


 一階の大広間。僅か数体が居たのみのモンスターアンデッド達を斬り捨てた後に立ち止まったセイルに、アミルが駆け寄ってくる。


「どうかされましたか?」

「いや……そうだな。アミル、何かがおかしくないか?」


 何がどうとは言えないのだが、何かがおかしい。

 そう感じたセイルがそうアミルに問えば、アミルも首を傾げる。


「そうですね……地下に比べるとアンデッドの数が少ないとは思います」

「そうだな」


 その通りだ。それもおかしい。だが、何か他にも。


「……人間のアンデッドは何処へ行った?」

「そうか、それだ。此処に来るまで、人間のアンデッドと全く遭遇していない」


 ゲオルグの言葉の通り。セイル達は此処に来るまでの間、人間のアンデッドと一体も遭遇していないのだ。

 人型のモンスターのアンデッドが多かったことも気付かなかった原因だろうが……地下のアンデッドが多すぎたが為に無理矢理突破してきたのも原因の一つだろう。

 勿論、それ以前に「そんな事があるはずがない」と思っていたのもまた大きな原因だ。

 だが……こうして落ち着いてみると遭遇していない事実に気付く事が出来る。

 そしてそれがおかしな事であるとも気付くのだ。


「人質に使うつもり、です?」

「だとしても倒すしかありません。人質作戦に然程意味があるとも思えませんが」

「でも躊躇はするでありますよ?」


 イリーナの意見にクリスがそんなドライな意見を述べ、キースの人間としてはある種当然の意見がイリーナの意見を補強する。

 確かに、セイルとしても多少躊躇うだろう。無論、躊躇う程度で倒せないというわけではないが……。

 まさか、玉座の間に詰め込んでいるのだろうか。それを想像して、すぐにセイルは否定する。


「……だとしても、その数は限定的なはずだ。物理的に帝都の人間全員が入るはずもない」


 地下にあれだけのモンスターアンデッドを詰め込んでいた以上、この広場に居なければ……帝都の何処かに分散していると考えるしかない。

 しかしそうだとするならば、死霊術士の護衛は何者が務めているのか。

 強力なモンスターアンデッドか……それとも、護衛など必要ないと余裕をみせているのか。


「少数精鋭、か。戦術としては悪くないが、舐められたものだ」

「ああ、俺達にはその方がいい」


 ゲオルグにセイルが頷き、しかしゲオルグは軽く舌打ちをする。

 まあ、その反応はともかく……大量のアンデッドを配置されるよりは、少数の強力なアンデッドを配置される方がセイル達には相性がいい。


「ねえねえセイル。よく分かんないけど、上に行くんでしょ?」

「ああ」

「此処で悩んでるよりは、さっさと上に行ってブッ飛ばした方がいいよ絶対」

「まあ、な」


 退屈そうなサーシャに言われ、セイルは苦笑する。

 そう、結局はそれしかない。

 此処まで来れば、後は作戦などあってないようなもの。

 向こうが此方をナメている間に決着をつけるのが一番冴えたやり方だ。


「確かにサーシャの言う通りだ。全員、上の階を目指すぞ!」

「はい!」


 叫ぶと同時、再びセイルを先頭に走り出す。

 扉を蹴り開け、誰もいない廊下を進み階段を探す。

 そう、誰もいない。

 モンスターアンデッドも、人間のアンデッドも、何もだ。

 扉を開け、階段を探し、上へと進んで。やがて、セイル達は大きな扉の前へと辿り着く。


「……此処、だろうな」

「よーし、それじゃあいくぞお!」

「あ、サーシャ! 少し待て……」

「ドカーン!」


 サーシャの拳が大きな扉をブチ破る勢いで開く。

 アシュヘルト帝国の玉座の間。本来はこの国の帝王と側近、近衛兵達が居るべきであろうその場には……勿論、それ等の姿は無い。

 人間のアンデッドが詰まっているということも、モンスターアンデッドが大量に待機しているということもない。

 けれど。その衝撃を表すならば。


「……なんだ、アレは」


 そんなゲオルグの言葉が、一番的確であっただろう。

 巨大な玉座の間に佇む、一体の巨人。

 筋肉の化物とでも呼ぶべきであろうソレは、臣下の礼をとるかのよう玉座の右側にに佇み。

 そして左側には、王冠を被った青白い半透明の巨人が佇んでいる。


「遅かったではないか。わざわざ地下から来たようだが、地上を進むのはそんなに怖かったかね?」


 そして玉座に腰掛けているのは……あのシングラティオと同じく白い髪と浅黒い肌、そして赤い目を持つ男。

 だが、シングラティオと比べると大分不健康な体型で……その赤い目も、燃え盛る炎のようだったシングラティオのそれと比べると、淀んだ泥の底のようだとセイルには感じられた。


「お前が魔族の死霊術士か」

「ああ、今日まではな」


 嘲るようにニマニマと笑う死霊術士は、大袈裟な動きで両手を広げてみせる。

 まるでそれが一番カッコいいと信じているかのような、そんな素人芝居じみた動きだった。


「今日からは、シングラティオをも超える魔族の王……ラムザールだ。死ぬ前に、この名をよく覚えておくといい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る