死の集う城2
セイルを先頭に、部屋の扉を開ける。ひんやりとした地下の廊下は広く、静寂に満ちている。
「何もいない……か」
「居るよ?」
「何?」
セイルの横を抜け、サーシャが走る。タンッ、と。軽い音を立てて踏み出したサーシャの足音はただ軽やかで。セイル達の向かう先の交差路から顔を出した何かの頭を、その瞬間に叩き砕く。
大きく音を立てて倒れたソレは、狼男に似たモンスターのアンデッド。
「まず、ひとぉつ!」
「アンデッド……! 警備に配置していたか!」
「どんどん来るよー!」
そんなサーシャの言葉通り、四方八方から何かが歩いてくるような音が聞こえ始める。
警備、あるいは警報。侵入者を察知して動く仕組みにでもなっていたのだろう。
呼吸もしなければ会話もしないアンデッドはまさに最適ではある。
「全員、聞け!」
ヴァルブレイドを構えたセイルは叫び、走る。
「アンデッドの殲滅は後回しだ! まずは玉座の間を目指す!」
「はい!」
「了解、です!」
アミルが、イリーナが叫び……全員がそれぞれの返事を返す。
先行したサーシャがアンデッドを殴り飛ばし、セイルが斬る。
後方ではアミルが追いすがるアンデッドを牽制しつつも、逃げ切れそうにないモノだけイリーナのダークの魔法が消し去っている。
「分かってはいたが、これは……!」
「凄い数だねー、あはは!」
雲霞の如く迫ってくるモンスターアンデッド達は、恐らくは「本物」よりも弱いのだろう。
特殊な攻撃をしてくるわけでもなく、ただ突っ込んでくるだけだ。
それでも、死を恐れない相手が大量に襲ってくるという事実そのものがたちが悪い。
斬られても引かず、仲間の残骸を踏み越えて迫ってくる。
こんなものをマトモに相手していては、いつか力尽きるのは必至だ。
しかし……現実として、セイルを含む全員が対個人戦闘に特化している。
例外はクリスの聖域くらいのものだが、それだって相手にダメージを与える類のものではない。
単体戦闘には強くとも、集団戦闘には向いていない。
それはシミュレーションゲームである「カオスディスティニー」は当たり前の事であったが、こうして現実になる事でその弱点が明確になってしまう。
……だが、セイルも学んでいる。
現実になる事で明らかになる弱点もあるならば。
当然、現実になる事で明らかになる利点もあるという事を。
「アミル、こっちへ! それと全員、下がれ!」
「はい、セイル様!」
最後衛に居たアミルがゲオルグにその場を任せ、セイルの隣へと走ってくる。
その動きに何かを察したサーシャが他の仲間同様に下がれば、最前衛は自然とセイルとアミルの二人になる。
他の全員が下がった事で、一見すれば孤立無援。
しかし……どうしても、こうする必要があったのだ。
「お待たせしました、セイル様!」
「ああ、全員下がれ……アミル。やるぞ!」
そう、アミルとセイル。
この二人により発動する「協力攻撃」は特殊だ。
合体技などの派手なアクションが通常である「協力攻撃」の中にあって、明らかに予算のケチられた「全員集合」系の突撃技。
けれど、それは。この場においては特殊な意味を持つ。
「はい! いきます……王国剣兵隊、全員整列!」
そう、それは……味方の人数の、一時的な大幅増加。
そしてアミルの掛け声に応えるように、アミルの背後に無数の鎧兜姿の何者か達がゆらりと現れる。
それは明らかに現実のものとは微妙に異なる何か。
兜の中に溜まる闇は、個人の識別すらも不可能としている。
そう、例えるなら個人の判定を不要とするカオスディスティニーの脇役兵士をそのまま現実としたならば、このような感じであろうという姿。
それでも、アミルはそこに「王国の仲間達」の気配を感じていた。
故に。アミルには一つの迷いもない。
この場を切り開くのは自分達王国剣兵隊なのだと。その誇りと共に叫ぶ。
「この命、セイル様の為に! 全員、突撃いいいいいいいい!」
「ウオオオオオオオオオオオオ!!」
居並ぶ王国剣兵達はアミルを先頭に剣を振り上げ、盾を構え走り出す。
今回の相手はカースゴーレムではなく、生前よりも遥かに劣るアンデッド達。
故に。「セイルの今の強さ」を基準に現れた剣兵隊達の相手になるはずもない。
切り裂かれ、蹴倒され。アンデッドの群れを、アミルと剣兵隊が突破していく。
「あはは、何これ、凄い!」
サーシャが興奮したように叫ぶ中を、セイルが走る。
剣兵達が幻のように消え、その先に立つ巨体のオークアンデッドへと迫る。
「消えろ……!」
セイルのヴァルブレイドが光り輝く。
それは「ヴァルスラッシュ」ではなく、「協力攻撃」専用のセイルの特殊攻撃。
名も無き光の斬撃はオークアンデッドを一撃の元に斬り伏せ、アンデッド達による包囲に僅かな隙が出来上がる。
「今だ、走れ! 突破するぞ……!」
再び包囲しようと集まってきたアンデッドをセイルとアミルが切り裂いて。
そんな二人の間を割るようにしてサーシャが突撃する。
「凄い凄い! よーし、ボクだってやっちゃうんだからね!」
走るサーシャの拳がアンデッドを薙ぎ倒していき、その背中に向けてセイルが叫ぶ。
「階段を見つけるんだぞ! 分かってるな!?」
「だいじょーぶー! たぶんこっちだから!」
そんな返事を返しながら走っていくサーシャを追って、セイル達も走り始めた。
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