帝都進撃三日目:セイルの根拠

「ふーん……」


 セイルの説明を聞き終わると、サーシャは何かを考えるように小さく呟く。


「よく分からない部分は多かったけど、なんとなく理解はできた……と思う」

「とりあえずはそれでいい」

「うん。それで死霊術士とかいう奴についてなんだけど」

「ああ」

「その人って、この国の首都で何やってるの?」


 その言葉にセイルはなんと答えたものか迷うが、結局「分からん」と答える。

 

「想像でならいくらでも言えるが、それに然程意味はないだろう」

「うん。でも、最悪を想定する事で備えるくらいは出来ると思う」

「道理だな」


 そんな二人の会話に、近づいてきたゲオルグがドカリと座り込み混ざる。


「何も考えないのは愚か者だ。そしてセイル、貴様はそこまで愚かではあるまい」

「む……」


 確かに想像はしている。しているが……それを話す事で必要以上の警戒をしてしまわないか、セイルは迷っていたのだ。

 しかしこの場にいるのはサーシャ……はともかく、自分に批判的なゲオルグだ。

 問題はないだろうと、セイルは自分の考えについて話し出す。


「まず気にするべき事は、何処にも人間の死体が無い事だ」

「貴様から聞いた話を信じるのであれば、間違いなく殺されてはいるだろうな」

「一言余計だよ、ヒゲ」

「サーシャ、構わん。それで……だが、死体は何処かに運ばれたのではないかと考えている」


 死霊術の材料か、とゲオルグは唸る。


「ああ、そして死霊術士がこの状況を引き起こしている事をシングラティオは肯定した」


 魔族の英雄シングラティオ。

 彼との話の中でセイルは「魔族の死霊術士がこの国で何かやっている。そういう認識でいいんだな?」と聞いた。

 そしてシングラティオは「それでいい」と答えた。

 つまり、この国には魔族の死霊術士がいる。それは確定なのだ。


「それが帝都であると考えるのは何故だ。普通に考えれば、目立つ場所に陣は敷かん」

「その答えは簡単だ」


 そう、非常に簡単な……たった一つの答えで全てが説明できる。


「魔族は、人間を嘗めきっている。俺達が何をしようと、何もできないと思っている。だから、目立つ所に居ても何も問題が無いんだ」


 その言葉に、ゲオルグは舌打ちをする。

 明らかな苛立ちのそれには、セイルも同意したい気持ちではある。


「どの世界でも魔族は変わらんな」

「ああ、いや……向こうの魔族はもう少しマシだった」


 カオスディスティニーでは、主人公であるセイル達に力を貸す魔族も居た。

 この世界ではそんなものがいるかどうかは分からない。


「フン、魔族に国を滅ぼされた当事者が何を言うか。とりあえずは理解した。あとの目的は説明の時に聞いた『キングオーブ』だな?」

「ああ。たとえ魔族の死霊術士が居なくとも、キングオーブと接続する事は戦力の強化に繋がる。それは必ず果たしておきたい」


 そこで、セイルは一度言葉を切る。

 二人の反応を見る為だが……ゲオルグは小さく息を吐くと「特に異論はない」と告げてくる。


「本当か? 遠慮する必要はないぞ」

「貴様に遠慮などするか、馬鹿が。貴様のたてた基本方針に異論はない。儂が貴様でも同じ作戦をとるだろうよ」

「ボクも同じ意見かなあ。それに、もし死霊術士が死体を集めてるなら、それを保管する場所も必要だし。それって、大きい町だよね?」

「……ああ」


 そう、つまりこの国の……アシュヘルト帝国の帝都リゼンブルグ。

 セイルの想像通りであるならば死都と化したであろう其処に、死霊術士はいる。


「フン……言いたがらんはずだ。下手をすれば、国一つ分のアンデッド共が相手だ」

「その全てを相手にする必要はない。死霊術士さえ倒してしまえば解決するんだからな」

「相手も当然それを理解している。そして貴様もそれを理解していると思ったが?」


 そう、ゲオルグの言う通り。それは充分にセイルも理解している。

 その上で、セイルには勝算があった。


「確かにな。だが、それでも『そう』はならないと俺は考えている」

「ほう?」

「言っただろう。魔族は俺達を嘗めきっている。たかが人間数人に自分をどうにか出来るなどとは考えていない。必ず戦力は小出しにしてくる」


 そう、魔族からしてみれば「たかが人間」だ。

 魔族の英雄であるシングラティオですらそれは変わらなかったのだ。

 ならば魔族の死霊術士も必ずセイル達を嘗めてかかってくる。

 そして、そうであるならば。


「そこにつけ込む。俺達を嘗めている魔族に、真正面から刃を叩き込むんだ」


 そう言って拳を握るセイルに……ゲオルグは小さく笑う。


「く、くく……クハハッ! それは面白いな。実に面白い!」


 膝を叩いて、肩を震わせて。本当に面白そうにゲオルグは笑う。

 その笑みはひたすら凶悪で、サーシャは少し引いていたが……ゲオルグがそんなものを気にするはずもない。


「貴様にしては面白い作戦だ、セイル。いいぞ、ああ、本当にいい。こちらを嘗めている魔族の頭に斧を叩き込む。実に痛快で酒が進みそうではないか!」

「そ、そうか」

「ああ。ついでに貴様の首も跳ね飛ばせば三日は笑いが止まらんかもしれんが……まあ、それは我慢しよう」

「ねえセイル、このヒゲぶっ飛ばそうよ」

「やるか小娘が」

「やめろ、二人とも」


 本当に困ったものだ。

 この場にウルザでも居たらうまく纏めてくれるだろうか、いや……やはり無理だろうなと。

 セイルはそんな事を考えながら、小さく溜息をつく。

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