帝都進撃三日目:新たなる仲間

「よし、来たぞゲオルグ! ハハ、ハハハ! 約束は守ってもらうからな!」

「その前に、機闘士とはなんだ。それを聞かずして何も言えん」


 言われて、セイルは気付く。

 そういえば機闘士……つまり「機人」は新コンテンツだ。

 帝国の新皇帝であるワルキリアが古代文明の遺跡から発掘してしまった者達であり、それ以前に帝国を去った設定であるゲオルグが知っているはずもない。


 いや、それどころかこの場ではセイル以外の全員が知らない事でもある。


「そういえば、確かに……セイル様、機闘士、とは?」


 聞き慣れない言葉に興味を抱いたのか、全員が起き上がり近寄ってくるが……セイルは1つ咳払いをして場を整える。

 上手く誤魔化さなければならない場面だ。しかし、もう慣れたものだ。


「……俺も完全に覚えているわけじゃない。だが確か機闘士……つまり機人はワルキリアが古代文明の遺跡の発掘を進める中で見つかった連中の事であり、機闘士はその一種だ。必ずしも人類の味方というわけでもないが……『彼女』は味方だ」

「つまり、帝国の者ということか」

「いや、確か王国と帝国に所属する者で別れたはずだ。サーシャはこちら側だな」

「フン、つまらん」


 本当につまらなそうに鼻を鳴らすゲオルグだが、セイルは苦笑するに留めサーシャを喚ぶ為に立ち上がりその場から少しだけ離れる。


「さあ、喚ぶぞ……来てくれ、サーシャ!」


 そう呼びかけながら、セイルはカオスゲートを操作する。


 機闘士サーシャを召喚しますか?


 そう浮かぶメッセージから「はい」を選択するとカオスゲートが光り……セイルの前に、一人の少女の姿が構築されていく。


「おお……」

「なんと」


 キースやクリスがそう呟く程に、その少女は美しかった。

 人間ではないが故の完璧な美しさ。そう表現すべきそれは、二人の心の琴線に触れたらしかった。

 ……まあ、セイルからしてみれば他の女性も美しいと思っているので、然程衝撃は受けなかったのだが。


 まず目に入るのは、アクアマリンを思わせる青い輝きを持つ髪。

 ツインテールの形に結ばれた長い髪はサラリと揺れ、キラキラと陽光を受けて輝く。

 ゆっくりと開かれていくのは同系色で、少しきつめの青い目。

 纏うのは白を基調とした半袖の上着と、その下のシャツ。

 手元を武骨なガントレットのようなものが覆っており、どうやらそれが武器であるらしいことが分かる。

 半ズボンの下からは足元まで覆う、光沢をもった黒いタイツのような何かが脚を隠している。

 青いラインの入ったハーフブーツが地面を打ち鳴らし、少女は視線を動かしセイルを見据える。


「よく来てくれた、サーシャ」


 そしてセイルがいつものように「状況説明」をしようとしたその瞬間、サーシャの顔が花のように綻ぶ。

 大きく反応したキースやクリスだけではなく、ゲオルグまでもがその可愛らしさにほんの少しだけ眉を動かして。


「セイルだああああああああ!」

「うおっ!?」


 サーシャは凄まじいまでの速度で大地を蹴ると、セイルを押し倒す勢いで飛びつく。

 勿論、セイルもここまでで散々レベルを上げている。

 サーシャのステータスは見ていないので分からないが、最大でも10のはずだ。

 まだ負けていないとセイルは意地で耐え、サーシャを受け止める。


「あはは、セイルだセイルだー! 何此処どこ此処、なんか記録が不完全だよー?」

「……なんだ、この頭の悪い小娘は」


 思わず苦い顔をするゲオルグに、満面の笑顔でセイルに抱き着いていたサーシャは途端に不機嫌そうな顔になる。


「なに、このヒゲ。ボクの知らないヒゲなんだけど」

「あー、サーシャ。そいつは帝国将軍のゲオルグだ」

「帝国ぅ? ふーん。そんな事よりセイル、他の皆は何処?」

「ああ、まずは色々と説明したい。少し離れてくれ」


 状況に追いつけず固まっているアミルと、サーシャをじっとりと睨んでいるイリーナをサーシャは軽く見回すと「んー」と呟く。


「うん、いいよ!」


 そう言ってパッと離れたサーシャに、セイルはホッとしたように息を吐く。

 そういえばサーシャは好感度が上がるとこんな感じだった。

 それまではツンケンした態度なのだが、好感度が上がると「こう」なってしまうのだ。

 そしてどうやら、サーシャは最初から好感度が高い状態であるらしかった。

 とにかく、話が早いのは助かるとセイルは気を取り直す。

 もし好感度が初期状態のサーシャであれば、ちゃんと話を聞いてくれたか怪しいものがある。

 そうしてセイルがゲオルグにしたように状況を説明していくと、サーシャは頷きゲオルグを睨みつける。


「つまりボクが此処に来れたのはこのヒゲのおかげで、セイルが苦労したのもこのヒゲのせいってわけだね」

「ゲオルグだ、サーシャ」

「ヒゲで充分だよ、こんな偏屈なヒゲ!」

「……フン、どうやら頭は相当に軽いようだが……セイル。この女は本当に役に立つのか?」

「ヒゲよりは役に立つと思うよ?」

「おい、サーシャ」


 挑発するサーシャをセイルは諫めるが、ゲオルグは近くに置いた斧をゆっくりと手に取る。


「ならば試してやるとしよう……なに、殺しはせん」

「やるっての? いいよ、ボクの強さ、見せてあげる!」


 構える二人に、セイルは深く溜息をつき……鞘からワザと大きな音をたててヴァルブレイドを引き抜く構えを見せる。


「え、セイル。どうしたの?」

「む……邪魔だてする気か」


 キョトンとした顔をするサーシャと不機嫌そうな顔のゲオルグを睨みつけると、セイルは息を吸い……この世界に来てから初めての大声で叫ぶ。


「いい加減にしろ!」

「わっ」

「ぬっ……」


 ビリビリと響く声にサーシャもゲオルグもたじろぎ、固まったままだったアミルがハッと気づいたように動き出す。


「セ、セイル様!?」


 近寄ってきたアミルを手で制すると、セイルは深く……本当に深く溜息をつく。


「サーシャ。頼むから少しは大人しくしてくれ。状況は説明しただろう」

「う……ごめんなさい」

「ゲオルグ、お前もだ。サーシャの強さが見たいなら、一発で分かるものがある」

「何……?」

「それに何より、軽率だぞ。どちらが怪我をしても戦力が削れる。それでも帝国の将軍か?」


 ぐっと呻いて黙り込んだゲオルグと目に見えて落ち込んだサーシャを見て、セイルは「これで何とか止まった」と内心で安堵しながら……それを悟られぬよう、いつも通りの表情でカオスゲートを示してみせた。

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