空しさを越えて

「……まあ、これで安易にガチャで仲間を増やすという方策にいかない理由は理解して貰えたと思う」

「理解したくは無いがまあ、理解しよう」


 がっくりと肩を落とすセイルに、ゲオルグはそう答え頷く。


「しかしな、セイル。それでも貴様はガチャを引くべきだと儂は思うぞ」

「何故だ?」

「簡単だ。今の貴様の軍には、足手纏いがいるだろう」


 ゲオルグの視線の向けられた先は、クリスだ。


「ゲオルグ、クリスは呪いの専門家だ。それについては話しただろう」

「だとしても、戦闘で役立たんのは変わらん。そこの魔法兵もそうだ。単体で運用できる程頑強な兵ではあるまい」

「それはそうだが」

「そこの帝国海兵もだ。陸に上がった海兵など、歩兵に劣るものでしかない」


 つまり、とゲオルグは言う。


「セイル。今の貴様の軍は、実質貴様とそこの妙に練度の高い歩兵の2人で支えているということだ。魔法兵をマトモに運用すれば多少は変わるが、確実な足手纏いがいる状況ではこれも危うい。それが明らかになったのが、先程の状況だと思うが?」


 確かに、その通りではある。ガレスを置いてきたのは判断ミスだっただろうかと思い、セイルは頭を掻く。

 しかし、これは今更どうしようもない。


「だからセイル、貴様は残りの金でガチャを引き状況を改善する義務がある。そうだろう?」

「確かに、その通りだ。しかしゲオルグ、1人でその状況が変わるものなのか?」

「勿論、誰でもいいわけではない。足手まといが1人増えれば、その時点で壊滅する」


 言いながら、ゲオルグはセイルを見据える。


「まず、1つ。必要なのは防御力だ。戦線を支えられる頑強な者である事が望ましい」

「確かに。次は?」

「素早いフットワークだ。重たい重装兵では守り切れない場面というものは、どうしてもある」

「……ふむ」

「そして、攻撃力も重要だ。いざという時の突破力がなければ、何の意味もない」


 つまり、硬く速く、それでいて強い。そんなユニットを召喚しろとゲオルグは言っているわけだ。


「いくらなんでも、そんなのが居るわけないでしょう」

「居なければ詰むな。儂はセイルを見捨て、1人で死霊術士とやらを磨り潰しに行く」

「出来るとでも?」

「やるかやらぬかだ。くだらん事を聞くな」


 つまり、引かなくても引けなくてもゲオルグは抜けるという事だろう。

 それは、セイルとしても少し……いや、かなり困る事だ。


「分かった。ガチャを引こう」

「え、セイル様!?」

「心配いらない。多少預けてあるからな。増やしていてくれることを祈ろう」


 この場に居ないウルザの顔を思い浮かべつつ、セイルはカオスゲートのガチャ画面を開く。


「……さあ、いくぞ。残りのチャンスは6回だ」


 そして、運命の1回目。1ゴールドが消え、10連ガチャが始まる。


無銘刀(☆☆★★★★★)

執事服(☆★★★★★★)

鉄の槍(☆★★★★★★)

木刀(☆★★★★★★)

木の杖(☆★★★★★★)

ガードウォーター

聖書(☆☆★★★★★)

鉄の儀礼剣(☆★★★★★★)

鉄のトンファー(☆★★★★★★)

鉄の短剣(☆★★★★★★)


2回目。更に1ゴールドが消える。


メイド服(☆★★★★★★)

執事服(☆★★★★★★)

巻物(☆★★★★★★)

鉄のクナイ(☆★★★★★★)

リペアキット

ライフウォ―ター

鉄の斧(☆★★★★★★)

鉄の剣(☆★★★★★★)

鉄のトンファー(☆★★★★★★)

鉄の剣(☆★★★★★★)


 3回目。残りは3ゴールド2シルバー38ブロンズ。


アタックウォーター

ライフポーション

鉄の弓(☆★★★★★★)

鉄のブーメラン(☆★★★★★★)

鋼の鎌(☆☆★★★★★)

ガードウォ―ター

鉄の斧(☆★★★★★★)

鉄の剣(☆★★★★★★)

木の杖(☆★★★★★★)

鉄の槍(☆★★★★★★)


 4回目。アミルがオロオロとしているが、セイルもすでに引けない。

 いや、引くことは出来ない。

 この先にいる死霊術士を倒すには、どうしてもゲオルグに協力して貰う必要があるのだから。


鉄の弓(☆★★★★★★)

鋼の鎧(☆☆★★★★★)

鉄の剣(☆★★★★★★)

鉄の剣(☆★★★★★★)

鉄の槍(☆★★★★★★)

鉄のガントレット(☆★★★★★★)

リペアキット

アンチパラライズ

木の杖(☆★★★★★★)

鉄の杖(☆★★★★★★)


「……残り2回、か」


 セイルの手が、自然と汗ばむ。

 あと2回。それで引けなければ、ゲオルグは本当にこの場を去るだろう。

 何しろ、この場に大人しく座っている事すら奇跡的なくらいなのだ。

 恐らく、ゲオルグは本当に去る。

 それが分かっているだけに、セイルのプレッシャーはすさまじい。


 残り2ゴールド2シルバー38ブロンズ。

 これでゲオルグの納得する何者かを引かなければならない。


「……セイル、様」

「心配するな、アミル」


 アミルへと、セイルは安心させるように無理矢理に余裕な笑顔を作る。


「きっと、次で来る。ゲオルグ……その時は、本当に残ってもらうからな」

「フン、それは結果を出してから言え」

「ああ、やってやろうじゃないか……!」


 運命のガチャが引かれる。

 そして……カオスゲートから溢れ出すのは、赤い輝き。


鉄の剣(☆★★★★★★)

鋼の剣(☆☆★★★★★)

リペアキット

アンチポイズン

アンチカース

鉄のシミター(☆★★★★★★)

鉄のレイピア(☆★★★★★★)

布の服(☆★★★★★★)

布の服(☆★★★★★★)

機闘士サーシャ(☆☆☆★★★★)


 燦然と輝くような、その文字。

 星3の格闘系の機人であり、強力な攻撃アビリティを持つ……まさに理想のユニットの名前が、そこに並んでいた。

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