帝都進撃三日目:偽りの物語
今まで何度も話した偽りの経緯。
カオスディスティニーの世界がゲームであったという事を誤魔化しながらのセイルの説明に、ゲオルグは小さく唸る。
「……やはり信じ難い。貴様が儂を騙そうとしていると考えた方が余程納得がいく」
「そう言われてもな……」
「だが何より信じ難いのは、そのカオスゲートとかいう板切れだ」
「一応、神からの授かりものだが……」
セイルがカオスゲートを撫でながら言うとゲオルグは「それだ」と指差す。
「神によるこの世界への召喚。カオスゲートとかいう神器の存在。英雄がどうのという戯言。それが全て真実であったと仮定しよう」
「……引っかかるが、それなら何が問題なんだ」
「そうであるならば何故、神は『強力な仲間』を喚び出せる力をそれに持たせなかった。貴様がかつて連れていたような豪傑共を他にも連れてくれば、異世界の人間の戦況とやらを引っくり返すも容易であっただろう」
「だからそれは、神が俺を喚びカオスゲートを授けるだけで限界だったからであって」
「どうだかな。白の月神とやらは、そこまで肩入れする気が無いのではないか?」
まさか白の月神……あの少年神が自分をどうにか「セイル」にするだけで精一杯だったなどとは口が裂けても言えはしない。
しないが……たとえば力が回復したとして、あの少年神は自分に力を貸してくれるのだろうか、とセイルは思う。
……思えば、あの少年神は英雄として振る舞えとは言ったが、人間を救えとは一言も言っていない。
だとすると、白の月神がこれ以上セイルに力を貸す可能性は無いと考えた方が妥当だろう。
セイルがこれ以上カオスゲートの機能を拡張しようと思うのであれば、やはりキングオーブに接続するしかない。
「……かも、しれないな。だが、それでもいいのかもしれない」
「何故だ」
「考えてもみろ。月神は1人じゃない……他の月神に際限なく参戦されたら、それこそ人間に勝ち目はないかもしれん」
キングオーブも、他の月神は人間の味方とは限らないというような事を語っていた。
それはつまり、人間の敵である月神が居てもおかしくはないという事でもある。
そうした相手に今のセイルが勝利できる可能性があるかといえば、流石に首を傾げざるをえない。
「希望的観測だな。くだらんにも程がある」
「貴方、いい加減に……」
「アミル、構わん」
ゲオルグに文句を言おうとしたアミルを制すると、セイルはゲオルグへと向き直る。
「それで、ゲオルグ。俺が話せる事はこのくらいだが、お前は結局どうするんだ」
「勿論、この場で貴様を叩き殺す」
そうゲオルグが告げた瞬間、アミルとイリーナは戦闘態勢に入る。
「……と、言いたいところではあるが。それは今でなくとも出来る」
「つまり?」
「この地の魔族の死霊術士とやらを磨り潰す。そこまでは不本意だが、力を貸してやらんこともない」
「何を企んでるんですか……?」
「アミルの言う通りです。ゲオルグの口から出た言葉とは思えねーです」
アミルとイリーナが警戒したままゲオルグにそんな事を言うと、ゲオルグはつまらなそうに息を吐く。
「言葉通りだ。セイルも王国の連中も気に入らんが、魔族はもっと気に入らん。そんな連中が儂等の『帝国』ではないとはいえ、帝国と名のついた場所を荒らしているなど許せるものではない」
「そうか。それでもいい……よろしく頼む」
セイルがそう言って手を差し出すと、ゲオルグはその手をバシッと音をたてて払う。
「調子に乗るな、セイル。力を貸すとは言ったが、貴様と慣れあうと言った覚えはないぞ」
「だとしても協力は必要だろう。1人では野営もできやしない」
「そこに帝国の海兵が転がっておるだろう」
「うえっ!? 俺でありますか!?」
倒れていたキースが驚いたような表情を浮かべるが、ゲオルグは「当然だ」と吐き捨てる。
「それとも何だ。不満でもあるのか」
「え、いやあ……えーと……」
助けを求めるようにキースの視線がセイルへと向けられ、セイルは軽く頭を掻く。
「……ゲオルグ。キースはヴォ―ダンではなくワルキリアの配下で、しかも海軍だ。それにお前、帝国を追われたんだろう?」
「……む」
「別に対価を求めるつもりはない。協力すると決めたなら、とことん協力し合おう。半端は一番問題だろう?」
セイルがそう説得すると、ゲオルグは短く唸る。
「……今だけだ。この地に巣食う魔族共を磨り潰すまで、だ」
「ああ、分かっている。それからの事はそれから話し合えばいい」
「フン、魔族の次は貴様だセイル」
「そういう事態にならないくらいに相互理解に努めよう」
舌打ちするゲオルグではあるが、とりあえず反論はないらしい事を確かめると、セイルはゆっくりと立ち上がる。
「さて、じゃあテントを出そう。野営の準備を……」
「待て、セイル」
ゲオルグからかけられた言葉に、セイルは動きを止める。
「どうした、ゲオルグ」
「野営の準備はいい。この時間にする事についても異論はない」
「それなら何だ?」
「根本的な話だ、セイル」
そう言うと、ゲオルグはセイルの手の中のカオスゲートを指差す。
「ガチャとか言ったか。それをもっと実行して配下を増やすべきではないのか?」
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