帝都進撃二夜目:銀の夜5
燃え崩れる家を突き破りながら現れたアースワームが、自分の身体についた火に驚きながら再び地面に潜る。
空飛ぶ怪鳥のモンスターが襲い掛かろうとし、イリーナのダークを受けて再び空へと舞い上がる。
「くっ……仕留めきれないです!」
「構わん、走れ!」
先頭を走るセイルの目の前に、血のように赤い熊のモンスター……ブラッドベアーが現れ腕を振り下ろす。
「邪魔だ!」
その腕をセイルがヴァルブレイドで切り払い、腕を裂かれたブラッドベアーが悲鳴を上げ叫ぶ。
だが、それでもどかない。
あくまでセイル達を害そうとするブラッドベアーにセイルは舌打ちをし、ヴァルブレイドに魔力を籠めていく。
時間はかけられない。時間をかければかける程モンスター達は集まっていき、結果として消耗が激しくなっていく。
ならば、ここで切り札を一枚切るしかない。
「ヴァルスラッシュ!」
輝く剣がブラッドベアーを両断し、その先に道が開ける。
これで進める。そう判断し後ろを振り返るセイルの、その視線の先。
無数のモンスターが集まってきている様子が見えた。
万が一「戻る」事を選択していたら、進む以上のモンスターの群れに襲われていた。
いや……そもそも爆発音を聞いて村に行くことを選択した時点で間違っていたのだろうか。
その辺りは結果論でしか語れないが……一刻も早く進まなければならない事だけは確かだ。
「早く! 行くぞ!」
「はい!」
イリーナのダークが良い牽制になってはいるが、それとて銀の月のせいか……あるいはモンスター達が想像以上に強いのか、一撃で倒すような結果にはなっていない。
だが、とりあえずはそれで良い。
牽制になっているならば、それだけで抜ける役に立つ。
それに、これはセイル達にとっては幸運だが……モンスター達は統制がとれているわけではなく、互いに牽制や同士討ちをしているところまである。
「ギイイイ!」
「うおっ、ゴブリンでありますか!?」
突然物陰から走り出てきたゴブリンを、キースの斧が叩き割る。
位置的に中衛となっているキースだが、その物理攻撃力でいえばかなりのものだ。
ゴブリンに後れを取るほど弱くはない。
「ギイ、ギイ」
「ギイイイ……」
「ぞ、ぞろぞろと!」
「キース、相手をするな!」
「はい、であります!」
元々大きな村ではない。すぐに村の出口へと近づくが……地上だけではなく空にも警戒しなければならない為、中々思うように進まない。
それでも、村さえ抜けてしまえば。
そう考え走り出すセイル達の近くの地面が盛り上がって、一体のアースワームがその姿を現す。
セイル目掛けて襲ってくるアースワームにセイルはヴァルブレイドを構えて。
しかし、次の瞬間。別の方角からも数体のアースワームがその姿を現す。
右、左、そして後方。その凶悪な牙の並んだ口を開き一斉に襲い掛かってくる。
「この……! ヴァルスラアアアッシュ!」
セイルは自分に襲い掛かってきた一体をヴァルスラッシュの一撃で仕留めるが、残りの3体を同時に倒せるわけでもない。
「ダーク!」
イリーナのダークの魔法を受けた左からの一体が耳障りな悲鳴をあげながら地面に潜り、キースの斧を叩きつけられた右からの一体もまた地面に潜る。
後方から襲ってきた残り一体のアースワームの突撃を受けるのは……アミル。
アミルは自分目掛けて襲い掛かるアースワームの一撃をバックステップで回避するわけにもいかず、盾で弾くようにして受ける。
「うっ……くっ……!」
自分の体に響く衝撃を受けながらも、アミルは素早く盾を引いて剣を繰り出す。
上から下へと流れるような斬撃はアースワームの身体を深く切り裂き、当然のようにアースワームは地下に潜って逃げるものと思われた。
「アミル!」
「あ、きゃあああ!」
だが、そうはならなかった。切り裂かれたアースワームはその身体を鞭のようにしならせ、体液を噴き出しながらアミルを弾き飛ばし近くの建物の壁に叩き付ける。
そして、その瞬間を狙っていたかのように一体のアースワームがイリーナの足元から飛び出しイリーナを天高く弾き飛ばす。
「イ、イリーナ殿!? この!」
近くに居たキースが慌ててアースワームに斧を叩き付けた結果、そのアースワームは地面に潜り逃げていくが……アミルを弾き飛ばしたアースワームがキースへと襲い掛かる。
「うおお!?」
「うわっと!」
元々戦闘面では役に立たないクリスがよろけ、キースは斧を弾き飛ばされた時の事を思いだしたのか慌てて回避する。
だが、そうする事で弾き飛ばされたイリーナがそのまま離れた場所でへ落下しようとして、キースもクリスもそのフォローへは行けない。
気絶したアミルの元へは、何処から集まってきたのかゴブリン達が近づいていく。
拙い。セイルは1人しかいない。イリーナを助けるにはそれまでの間アミルを見捨てねばならず、アミルを助けに行きゴブリン達を蹴散らせば、その間にイリーナが地面に叩き付けられてしまう。
キース達が上手くアースワームを撃退するなり気を引き付けるなりして片方がイリーナを助ける事を期待できる程、セイルはキースとクリスの能力を信用しきれていない。
足りない。絶対的に手数が足りない。
どうする。どうすればいいのか。
「……頼む」
セイルはカオスゲートを取り出し操作すると、アミルの倒れている方角へと投げイリーナの落下予想地点へと走る。
……そして、カオスゲートから光が溢れ出す。
「今だけは頼む……ゲオルグ!」
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