帝都進撃二夜目:銀の夜4

「答えてやってもいいんだがよ。その前に聞きてぇな。俺に全部任せねえか?」

「何故だ?」

「簡単だよ。そいつは俺の方針に逆らってる。死ぬべきだ」


 当然だろ、と言ってくるシングラティオに、セイルはまたしても理解しがたい壁のようなものを感じる。

 しかし魔族の間での法と考えれば、理解できないわけでもない。


「魔族の間での示威行為と引き締め、ということか?」

「ま、そんなとこだな」

「……つまり、魔族は当面は人間の敵にはならない、と?」

「は?」


 首を傾げるシングラティオに、セイルは「そういうことなんだろう?」と問いかける。


「何言ってんだ。これからは敵になるって話だろが。今までは敵ですらなかっただろぉよ」


 ゴミだゴミ、と。そう言い切るシングラティオに、セイルは「そうか」と答える。

 結局はライトエルフと……ストラレスタと同じだ。

 人間を徹底的に見下していて、だからこそ同じ舞台にすらいないのだ。


「……なら、引くのはお前だシングラティオ。死霊術士は俺達が倒す」

「ほー。別にそりゃ構わねえぜ? 出来るんならな」


 ニヤニヤと笑いながら、シングラティオは後ろへと跳ぶ。

 

「そんじゃ、情報はやらねえ。俺がやるんじゃねえなら、立場上魔族の側に立たねえといけねえしな?」

「……ああ。死霊術士は倒す。この地も解放する」

「そうかい。せいぜい強くなれよ、セイル。今回は勝ちを譲ってやったけど……次戦う時は一切遠慮しねえ」


 そう言うと、シングラティオの手の中に火が生まれる。

 それを地面に叩き付けた、その瞬間。爆発と共に地面がもうもうとした土煙に包まれる。


「くっ……!」


 力技の煙幕。そうとした表現できないものが消えた後にはもう、シングラティオの姿はない。


「居なくなった、か……?」


 周囲の気配を探ってみても、シングラティオの気配はない。

 勿論完全に気配を殺している可能性もあるが……そうであった場合、セイルには分からない。


「セイル様!」

「全員無事だな?」

「はい! セイル様は……」

「俺も大丈夫だ。だが……」


 勝ちを譲ってやった、とシングラティオは言っていたが……決して負け惜しみではないだろうとセイルは考えていた。

 状況からして、セイル達がこの場に駆け付けた理由となった「爆発」はシングラティオの魔法だろうと予測できる。

 だが、シングラティオは最後の煙幕以外には一切魔法を使用していなかった。

 これはシングラティオが魔法士としても剣士としても相当の能力を有している事を示しており、それでいてセイルとの戦いでは剣士としてのみ戦ったということでもある。


 たとえば、先程の戦いでシングラティオが魔法を併用していたらどうなっていたか。

 それを考えると、セイルはゾッとした気分になる。


「……まあ、奴の事は今はいい。それよりも……」


 先程もそうだったが、今もそうだ。

 此処の村で……土人形達が出てくる気配がない。

 それは何故なのか。国境門と、この村で何が違うのか?

 しかし、調べるにはこの燃える村は危険すぎる。

 せめて火が消えてからでなければ、余計な被害が出かねない。


「この村を調べなければならない。まずは火が消えるまで何処かで……」

「セイル様!」


 そこに、キースの声が響く。

 

「いつの間にか、この周辺にモンスター共が集まってきてるであります! たぶん火に惹かれて……!」


 その言葉を合図にしたわけではないだろうが、飛来してきた巨大なカラスのようなモンスターがセイル目掛けて急降下してくる。


「いつの間に……このっ!」


 セイルの振った剣をカラスのようなモンスターはひらりと回避し、しかしアミルがその隙を縫うようにして繰り出した剣に突き刺される。


「ギャッ……」


 地面に落ちたカラスのモンスターをアミルが更に突き刺してトドメを刺すが、空には少しずつ飛翔モンスターが増えてきてしまっている。


「そんな……こんな数のモンスターが、今まで何処に……?」

「火に惹かれたという理由だけでは考えにくいな。恐らくは……」


 モンスターは低位の魔族であるとキングオーブ01が言っていた事をセイルは思い出す。

 そうだとするならば、このモンスター達は……あの魔族の英雄シングラティオの魔力に惹かれて集まってきたのではないだろうか?

 もしそうだとすると。シングラティオが此処にいた時から集まり始めていたのだとすると。

 先程のアースワームも、そういうことだったのだとすると。


「……拙い。この場にいると……下手をすると近辺のモンスター全てが集まってくるぞ!?」

「ど、どうするですセイル様!?」

「どうもこうもない。この場を抜けて先に進む!」


 下手に戻れば、再度進む道が断たれるかもしれない。

 ならば、進むしかない。


「しかしセイル様。戻るにせよ進むにせよ……簡単に通してくれそうにはありませんが」


 儀礼剣を構えるクリスに、セイルは薄く笑って見せる。


「そうだな。通してくれそうにもない。だから……押し通る! アミル、最後尾を頼む!」

「はい、セイル様!」

「全員、突撃! 此処を抜け、帝都方面へと向かう!」

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