帝都進撃二夜目:銀の夜
空を見上げれば、浮かぶのは銀の月。
夜の街道を進むセイル達を阻むものは、何もない。
「道には何も出ない、ですか……」
「この辺りだけかもしれないでありますけどね」
アミルの呟きに、キースがそんな言葉を返す。
確かに、人の死んだ場所に呪いが焼き付くならば。人のいない場所に何も出ないのは当然の理屈だ。
あのアンデッドのような土人形も、この場所には出ないということになる。
……が、ほぼ同時にセイルとアミルは自分の武器に手をかける。
「……アミル」
「はい、セイル様」
今の隊列はセイルが先頭、アミルが最後方。
2人はイリーナ達を守るように互いに背中を向け、武器を抜き放つ。
街道の周辺は、見晴らしの良い平原。こんな場所で何かが襲ってこようとしていればすぐに分かるはずだが……目につく範囲には、何もない。
何も無いが。確実に、何かに視られていた。
「全員、警戒しろ。何かがいる」
セイルの指示に全員がそれぞれの武器を構え……周囲を注意深く見回す。
右、左、前、後ろ……上。何も居ない。ならば。
「まさか……下、か?」
そうセイルが呟いた瞬間、地面が僅かに盛り上がる。
「……! 此処から離れろ!」
叫ぶと同時、セイルはイリーナを掴んで跳ぶ。
そうして全員がその場から離れた一瞬後、地面を割り巨大なチューブ状の何かが飛び出してくる。
「これは……! アースワームか!?」
アースワーム。地面に潜み巨大な口で敵を喰らう、ミミズの化物のようなモンスターだ。
何故街道にこんなものが潜んでいるのか。何処かから移動してきたのか、それとも此処に発生したのか……理由が分かるはずも無いが、セイルは即座に態勢を立て直しアースワームへと斬りかかる。
「う、おおおおお!」
セイルを喰らうべく巨体を曲げて襲い掛かってくるアースワームの口を躱し、セイルはその巨体へと斬りつけようとする。
だが、セイルのヴァルブレイドが振るわれるよりも一瞬早くアースワームの身体は元の場所を離れ地面へと高速で潜り込む。
その凄まじい速度は目を見張るほどで、どうやら地面に潜る事に特化した何らかの能力を持っているのは明らかのようだった。
「ダーク!」
イリーナの魔法がその地点に向けて放たれるが、地面深く潜ったらしいアースワームには効果がない。
「全員、警戒しろ……何処から出てくるか分からんぞ!」
「了解でありま……うおお!?」
足元の地面が盛り上がった事に気付いたキースがバックステップで跳び、盛り上がる地面に向けてミスリルの斧を叩き付ける。
「ギシャアアアア!」
「ぬ……ぐあっ!?」
力負けしたキースが斧を弾き飛ばされ、はるか後方に斧が刺さってしまう。
「くっ!」
「何やってるんですか、もう!」
そこにフォローに入ったアミルの剣の一撃が命中し、アースワームは悲鳴を上げながら地面に潜っていく。
「クリス! 貴方も剣持ってるでしょう!? それは飾りですか!」
「残念ですが、通常の戦闘では飾りと大差ありませんね!」
「まったくもう!」
言いながらもアミルは2人を庇うように周囲を見回し……近くの地面が盛り上がったのを確認すると、すぐに退避し剣を構える。
「ジャアアアアア!」
「そこっ!」
アースワームが飛び出した瞬間の伸び切った胴体を狙い、アミルの剣が横凪ぎに繰り出される。
「ギャイアアアアア!?」
叫び地面に潜ろうとしたアースワーム。しかし……イリーナのダークが潜ろうとした瞬間のアースワームの頭を包み、発生した一瞬の硬直の間に再びアミルの斬撃がアースワームを深々と切り裂く。
やがてダークの闇が消えた後……アースワームは潜る事無く、地面に衝突しその身体を横たえる。
ピクリとも動かないその身体をアミルが何度か蹴り、確かに倒した事を確認する。
「……うん。セイル様!」
「ああ。お疲れ様だ、皆」
言いながらセイルは念の為に剣を抜身のままアースワームへと近づいていき、その身体を見下ろす。
「かなりデカいな」
「ええ」
「コレがアンデッドになりでもしたら面倒そうだが……クリス、どうだ?」
「あまり心配は要らない気もします」
「そう、なのか?」
「ええ。アンデッドになったら地面に潜る能力は失われるでしょうし」
「そういう問題ではないんだがな……」
なんだかズレているクリスの返答にセイルはそうツッコミを入れるが、クリスは何処吹く風だ。
「どのみち、こんな巨体を燃やすわけにもいきませんし。そもそも処分したとして、ゴーストになるかもしれません。火で処分した事でフレイムゴーストになるかもしれません。故に、過剰な心配かと」
「フレイムゴーストか……」
燃える火の身体を持つゴーストがカオスディスティニーにも居たな、などと思い出しながらセイルは頷く。
「なら、此処に放置していくか」
「それがよろしいかと」
「よし、決まりだ。なら」
「セイル様」
出発するぞ、と言いかけたセイルをイリーナの声が止める。
「ん? どうしたイリーナ」
「いつもより魔法の威力が落ちてる気がするです」
「威力が……?」
セイルは空の月を見上げ「なるほど」と呟く。
空に浮かぶのは、終末の銀の月。あらゆる全てが、その効果を減じるとされる月。
「魔法も含む、というわけか……?」
だとすると、この月が輝く間は物理的な攻撃以外は頼りないものになってしまうかもしれない。
気づいたその事実に舌打ちしそうになりながらも、セイルが全員に出発を告げようとした……その時。
街道の先で、轟音と共に強烈な爆発が発生するのが全員の目に入った。
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