ルート相談

 夕方。夜まではまだ少しの時間があろうかという頃に、イリーナ達と交代したセイル達が起き出す。

 アミルが仕込んだスープをクリスが温め、全員で軽く食事を終える。

 基本的に旅の中では動きが悪くなることを防ぐ為に然程の量はとらないが……そうして一段落した頃を見計らって、セイルは全員に「では全員、聞いてくれ」と声をかける。


「俺達の今後の方針だが……このアシュヘルト帝国に居座る死霊術士と思われる存在を倒す事を目的としたい」

「死霊術士……ですか。前のように魔力を追うのですか?」

「それについてだが……クリス、頼む」


 アミルの疑問を受け、セイルはクリスへとそう促す。


「はい。今のご質問の件についてですが、『魔力を追う』のは無理です」

「えっ」

「そもそも魔力を追うのは高等技術ですが、それにしても『正常な場所に異質な魔力が混ざり込む』現象からの逆算的なものになります」

「それが、何か……?」

「それは」

「元から邪悪な魔力が染みついたこの地では追加の魔力が何処かから来ても判別しにくい、ってことです」


 ぼそりと呟いたイリーナに「その通りです」とクリスは頷く。


「属性の違う魔力であれば分かりやすいのですが、それを期待は出来ません。故に、此処ではもう1つの方法をとる事を提案します」

「もう1つというのは……まさか、濃い方に向かうのでありますか?」

「その通りです」


 キースの嫌そうな言葉にクリスは頷いてみせるが……アミルは何が何だか分からないといった顔だ。

 ちなみにセイルは事前に説明を受けて理解しているので素知らぬ顔だ。


「魔力を追えないのであれば、魔力の濃い方向へと向かう。これは通常では愚策ですが、今回のような広い範囲を制していると思われる呪い相手であれば通用する策となります」


 今回の死霊術士と思われる相手は、アシュヘルト帝国の恐らくは広い範囲で死霊術を行使し土地を呪いで染めた。

 そして恐らくだが、自分の魔力による呪いで染まったその場所を、自分と繋がるように調整しているのだろうとクリスは語る。


「胸糞悪いです」

「ええ、実に。個人でこんなことが出来るというのは正直信じ難いのですが……強力な魔族であれば、そうした事もなし得るのかもしれませんね」


 魔族。カオスディスティニーの「魔族」は強力な力を持つ人類の敵だったが、この世界の魔族も遥か昔に人間を滅ぼしかけた相手だ。

 アガルベリダの時以上の激戦が待っていても、何もおかしくはない。


「さて、その死霊術士についてだが……恐らくはこの国の中心にいるだろうと思われる」

「中心、ですか」

「ああ」


 言いながら、セイルはカオスゲートから地図を取り出し広げる。

 然程詳細ではない各国の大まかな都市の配置が描かれた簡素なものだが、その中の一点をセイルは指で叩く。


「此処だ。帝都リゼンブルグ。クリスに探ってもらった魔力の濃い方向にある大きな都市は、此処だ」

「あの、セイル様。相手は死霊術士かもしれないんでありますよね? それならば、何処か小さな村に隠れている可能性はないでありますか?」

「当然、可能性はある。だが今キースも言った通り、相手は死霊術士かもしれない相手だ。となると、帝都という地はそいつにとって大きな武器となるだろう」


 何しろ、人間の三大国家のうちの一つの首都だ。

 どれだけ人間が居たか、想像するのも困難なほどだ。

 もし其処が死霊術士の手に落ちていたならば……そこに居たであろう人間は、全て死霊術士の手駒となるのだ。


「大国の首都一つが丸ごと敵になるでありますか……」

「何も全てを相手取る必要などない。死霊術士さえ倒せばどうにでもなるんだからな」

「それは、理屈はそうでありますが……」


 どうにも乗り気ではないキースだが、それはクリスも同様のようだった。

 どうにも渋い顔の二人にすまないとは思いつつも、セイルは全員の顔を見回す。


「今後は呪いの活性化する夜が最も警戒すべき時間であるのは間違いない。そこで、基本的に夜に進むという方針になるわけだが……今日のように建物の近くで休むのではなく、人の近づかないような場所で休むことを提案したい」

「え、それは……どういうことですか?」

「なるほどです」


 疑問符を浮かべるアミルとは逆に、イリーナは納得したような表情を見せる。


「確かに、人の近づかない場所であれば土地に焼き付いた呪いも少ないです。襲撃もたぶん最低限です」

「そういうことだ。今はいいが、こちらが休んでいる『日の出ている時』に遠隔の死霊術が行使される可能性を捨てきれないからな」


 セイルであれば、そうする。

 相手に「日の出ている間は襲われない」という意識を植え付け、その隙を狙うだろう。

 それが当然の戦略というものだ。


「なる、ほど……しかしそうなりますと、通常のモンスターの襲撃が増える事も予測されますが」

「少なくとも、いつ終わるかも分からない土人形の襲撃よりはマシだろうと俺は思う」


 セイルがそう言えば、全員が「あー……」と納得したように頷く。


「反対意見が無いならば、すぐに行動開始する。国境門を離れ、移動だ。目的地は帝都リゼンブルグ! 皆、行くぞ!」

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