専門家2
「肉体も魂、も? すまない。まず其処からが分からない。死霊術を使ったなら当然にも聞こえるが」
「いいえ、いいえ。違いますセイル王子。死霊術に存在する死者の辱め方は大別するなら二種。すなわち肉体と魂。アンデッドでいえばゾンビとゴーストでしょうか」
なるほど、とセイルとアミルは頷く。
どちらもカオスディスティニーにも存在していたが、たとえそうでなくとも良く理解できる。
ゾンビは死体、ゴーストは死者の魂。簡単な区別だ。
しかし、そこでアミルが何かに気付いたかのように首を傾げる。
「……あれ? けれど、そうなりますと使われた死霊術が最低でも2つ、というのは?」
「そこです。単純にゴーストとゾンビを作ったというだけなら判別は簡単なのですが……どうもそういうわけでもないようです。それが、この場所に焼き付いた呪いに現れています」
「どういう意味だ?」
「聞いた限り、そして今調べた限りでは土人形とやらはこの地に居た人々を模したものであるのは間違いないでしょう」
「だろうな」
「では、魂も肉体も此処にはないのに……何故そんなものが現れたか、です」
なるほど、確かにその通りではあるとセイルは思う。
この場の土に被害者の魂が宿ったというならばともかく、そういう話でもないらしい。
ならば、何故なのか。
「……恐らくですが、この土地に染み込んだ被害者の血や感情の残滓……そういったものを利用しています。作成法としてはゴーレムに近いですが、れっきとした死霊術です」
「いや、待て。それでは焼き付いた、ではなく……死霊術で土地に呪いを焼き付けた、ということなのか?」
死霊術の行使の結果残った呪いではなく、それもまた死霊術だとするならば……なんと徹底した悪意なのだろうか。
「分かりません」
「ん?」
「え?」
セイルとアミルは、思わずクリスにそう聞き返す。
しかし、言ったクリスの方も困ったような表情をしていた。
「どうにも奇妙です。土地に焼き付いたにせよ焼き付けられたにせよ、日の出ている間に効果が消え去る呪いなんてものは無いはずです」
「……すまない、もう少し分かりやすく説明して貰えないか?」
「僕も上手く説明できる自信はありませんが……そうですね。そう……まるで、現在進行形で呪いが何処かから放たれているような……そんな奇妙さがあります」
「いや、しかし……この地に焼き付いた呪いなんだろう?」
「はい、そうであるはずです。おや、そうか……この地に焼き付いた呪いを利用して誰かが死霊術を発動させている? その為に土地の呪いも強化されている……?」
ブツブツと呟いていたクリスは、やがて顔を上げてセイルを見る。
「セイル王子。この周辺に僕達以外の生物は存在しましたか?」
「ん? い、いや。見つからなかったが」
「だとすると、遠隔で行っている? しかし、そんな……」
再び考え込み始めてしまったクリスだが、今度はすぐに思考をこちら側に戻したらしい。
「もう1度お答えします。この地の呪いは、僕の手に負えません。恐らくは、原因となっている何かを叩かなければ永遠にこの状態かと」
「原因となっている何か……か。それは呪術士……いや、死霊術士のことか?」
「あるいは、その死霊術士の作りだした何らかの呪物でしょうね。これ程の呪いとなると後者の可能性が高そうですが」
言われてセイルが思い浮かべたのはカオスドラゴン・コアだ。
アガルベリダの時には、その魔力を追って辿り着いたのだ。
ならば今回も出来るかもしれない、と。そう考えてセイルはクリスに「ならば、その魔力を追えないか?」と聞いてみる。
「……可能だとは思います。もしこれが遠隔で起動している死霊術なのだとすると、日の出ている間に発動しない理由は……発動させているのがアンデッドであるからだと考えられます」
「アンデッドが死霊術を……か?」
それは何とも不可思議な感覚だ。魚が魚釣りをしていると聞かされたような、そんな感覚にセイルはなってしまう。
「おかしな話ではありませんよ。リッチなどの高位アンデッドは配下のアンデッドを死霊術で作る事もあります」
「ああ、なるほどな」
そういえばカオスディスティニーの夏の肝試しイベントにそんな感じのシナリオがあったな……などとセイルは思い出す。
「しかし、だとすると俺達の探せていない場所にリッチが潜んでいるというわけか?」
「別にリッチだと決まってはいませんが……可能性はあるのではないかと」
「隠れられていると面倒だが……あぶり出せないか?」
「そうですね……僕の展開した聖域の範囲に引っかかれば、あるいは。けれど、然程範囲の広いものではありませんし……」
「ふむ」
セイルは頷き、考える。
もしリッチのようなアンデッドが何処かに潜んでいるのであれば、日が出ている間には手を出してこない、あるいは出せないのだろう。
となれば、クリスの聖域であぶり出せば夜に戦うよりはずっと簡単に倒す事が可能……ということでもある。
「……やってみる価値はある、か」
そう決めると、セイルはアミルとクリスの2人へと素早く指示を出す。
「アミル、お前は此処で2人のテントの警護だ」
「はい、セイル様」
「クリス、お前は俺と来てくれ。リッチが隠れていそうな場所に虱潰しに聖域を展開していくんだ」
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