専門家

「ああ、イリーナか。見ろ、エクソシストが来たぞ」

「へ?」


 カオスゲートのガチャ結果を見せてくるセイルに近づき、イリーナは覗き込む。


「ん、と。おめでとうです」

「ああ。さて……と。能力はどうなっている?」


エクソシスト【男】☆★★★★★★

レベル1/20

魔法攻撃:60

物理防御:30

魔法防御:20


【装備】

・儀礼剣

・儀礼服


【アビリティ】

・聖域展開(極小)


【魔力属性】

・光


「む……」


 何ともコメントに困る能力だ、とセイルは思う。

 レベル1の魔法系ユニットとしてはイリーナどころかクロスよりも弱い。

 しかも特殊な武器な防具を必要としており、現状そんなものは1つもない。

 唯一の希望はアビリティだが……確か聖域展開とは、アンデッドや魔族の能力を低下させるアビリティであったはずだ。

 この手の特殊タイプのユニットは基本能力が低い代わりにある程度強力なアビリティを持っているのだが……星3であればともかく、星1では限界がある。

 とはいえ、聖域展開が現実の能力となった時にどうなるかは分からない。


「……よし、召喚するぞ」

「はー、この調子だと本拠地にはさぞかし沢山の人がいらっしゃるんでありましょうなあ」

「そんなことないです」


 イリーナにキースへのツッコミを任せながら、セイルは目の前に召喚されていく男を見る。


 まず目につくのは、短く綺麗に切り揃えた白い髪。

 青い目には何処となく狐っぽい印象があり、黒い聖職者風の衣装を着ていても何となく誠実そうには見えない不思議さがある。

 腰に付けているのは鞘に収められた豪奢なデザインの……しかし実用向きでは無さそうな剣だ。

 全体的に言うと「なんか胡散臭そうな男」という感じだろうか。

 そんなエクソシストの男はゆっくりと辺りを見回すと、セイルを見つけ跪く。


「……これはセイル王子。申し訳ありませんが、あまり記憶がハッキリとしておりません。宜しければ、現状についてご教授願えますか?」

「あ、ああ。それは構わない。ところで、まずは名前を教えて貰えるか?」


 セイルがそう聞くと、エクソシストの男は「これは失礼しました」と頭を下げる。


「僕はクリス。エクソシストのクリスです、セイル王子」

「そうか、クリス。今の状況についてなんだが……」


 セイルが状況を説明し、イリーナがモソモソとテントの中に戻って寝始めた頃。

 何度も頷いていたクリスは、聞いた話をゆっくりと吟味するようにしながら周囲を見回す。


「……俄かには信じがたい話ではありますが、この場に呪いが焼き付いているのは確かなようですね」

「し、信じがたい!? セイル様に失礼ですよ!」


 即座にアミルがそう叫び激昂するが、クリスは「そう言われましても」と返してくる。


「別の世界、などと突然聞かされても困ります。確かに記憶の混濁、喪失……そして見たことのない景色。納得できる面が無いわけではありませんが、僕の記憶喪失を良い事に適当な事を吹き込まれている可能性だってございます」

「異世界などというデタラメを吹き込んでどうなる」

「まあ、それはそうなのですが。理屈に合っているから正しいという思い込みは、邪悪な者に付け込まれる隙を作ります故に」


 セイルにしれっと返してくるクリスを見ていたキースはあからさまに面倒臭そうな顔をしてテントへと戻っていく。

 あとはお任せしました、ということなのだろう。


「あー……それは、俺が邪悪だという話ではないんだよな?」

「ええ、仕事柄の癖です。気に障ったなら申し訳ありませんが」

「セイル様、コイツはダメです」

「そう言うな、アミル」


 言いながらもセイルも内心では「めんどくさいな」と思っているのに変わりはない。

 確かにエクソシストというと悪魔憑きの言う事を信じず祓うイメージではあるが、実際に目にすると物凄く面倒臭い。

 しかもセイルも隠し事があるが故に、胸を張って「俺の言う事は全て真実だ」などとは中々言えない。


「……まあ、納得してほしいとは思っている。お前が完全に納得いくまで議論を重ねている程余裕のある状況でもないしな」

「それは、先程伺った土人形と、この地に焼き付いた呪いに関連する事ですね?」

「ああ」

「なるほど……」


 頷くと、クリスは「失礼します」と言って周囲を軽く歩き始める。

 時折何処かで足を止め、蹲り土に触れ……再び立ち上がり歩き出す。


「あれは……何をやっているんでしょう」

「分からん」

 

 そんな会話をアミルとセイルがしている間にも、クリスはセイルの前へと戻ってくる。


「お待たせいたしました」

「どうだ? お前の力でどうにかなりそうか?」

「そうですね……結論から言うと、無理です」


 お手上げです、とクリスは肩をすくめる。


「この地に焼き付いた呪いが強すぎます。僕が展開できる程度の聖域では、僅かな嫌がらせにしかならないでしょう」

「そ、うか」

「恐らくですが、この地で使われたのは大規模な死霊術です。種類は、最低でも2。肉体も魂も、何処かに持っていかれているようです。この地には、ただ呪いだけが残っています」

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