帝国ピックアップガチャ(という気分)
「ガ、ガチャですか!? ここ数日、無料ガチャしか引いてなかったですよね!?」
「ああ」
「な、何故此処でガチャを……?」
アワアワとした様子で問いかけてくるアミルに、セイルは不敵に笑ってみせる。
「決まっているだろう? 此処が帝国だからだ」
「帝国? 確かにアシュヘルト帝国、ですけど」
ガチャにはシチュエーションや場所が重要だと信じる者達がいる。
たとえば過去の英雄の名前をつけられたキャラクターが登場するゲームは数多あるが、そうした英雄所縁の地にまで行って「貴方が出ますように」と祈りを捧げガチャを引く者達がいるのだ。
勿論、その祈りが届く者ばかりではないが……まあ、とにかくそういう信仰があるのだ。
そして、此処はアシュヘルト帝国……通称「帝国」だ。
「此処で引けば、帝国の連中が出るような……そんな気がしないか?」
「敵じゃないですか! それだったらどうしてヘクス王国にいるうちに引かないんですか!?」
「そうは言ってもな……いつか出会うんだ。此処なら多少何かあっても周りの被害を考えなくていいしな」
セイルがそう言えば、アミルはまだ何かを言いたそうな……しかし、諦めた目になる。
「……それはまあ、そうですけど。でも……またウルザの時みたいになりません?」
「そしたら、やっつければいいです」
魔法書を読んでいたイリーナが顔をあげ、真顔でそんな事を呟く。
「コテンパンにして逆らう気を無くせば、きっと従うです」
「そこまでは……いや、いざという時はそうなるか」
「です」
そう言うと、イリーナは魔法書を閉じてセイルに渡してくる。
「破けたらヤだから仕舞っといて欲しいです」
「ん、ああ」
セイルが魔法書をカオスゲートに仕舞うとイリーナは杖を持ち、じっとカオスゲートを見つめてくる。
「さ、いつでもいいです」
「いや、まだガチャを引くのはこれからだからな?」
「引くのは確定なんですね……」
「どうせいつか引くんだ。今のうちに引いたっていいだろう」
そう言うと、セイルはカオスゲートを操作しガチャ画面に遷移する。
10連ガチャ、1ゴールド。
何度見ても気後れする額だが、そうも言っていられない。
1ゴールドを消費し、1回目の10連ガチャを開始する。
ガチャ結果:
ライフポーション
アンチパラライズ
ライフウォ―ター
鉄の剣(☆★★★★★★)
ハルバード(☆☆★★★★★)
リペアキット
布の服(☆★★★★★★)
錆びた剣(☆★★★★★★)
布の服(☆★★★★★★)
鉄の鎧(☆★★★★★★)
「ぐ、ぬ……」
「薬が増えたです」
「たぶん、良い結果ですよね?」
「まあ、な」
ライフポーションとアンチパラライズが手に入った。
この2つはきっと役に立つだろう。まあ、望んでいたものではないが……。
「よし、もう1回だ」
再び1ゴールドを消費して10連。まだこのくらいならば余裕だ。
ガチャ結果:
鉄の槍(☆★★★★★★)
鉄の刀(☆★★★★★★)
鉄の盾(☆★★★★★★)
鉄の盾(☆★★★★★★)
木の棍棒(☆★★★★★★)
リペアキット
ライフウォ―ター
布の服(☆★★★★★★)
布のローブ(☆★★★★★★)
鉄のクナイ(☆★★★★★★)
「……もう1回だ」
ガチャ結果:
にゃんこパジャマ(☆☆★★★★★)
鉄の杖(☆★★★★★★)
鉄の斧(☆★★★★★★)
鉄の短剣(☆★★★★★★)
鉄のガントレット(☆★★★★★★)
鉄の弓(☆★★★★★★)
木剣(☆★★★★★★)
アンチパラライズ
ガードウォーター
鋼の鎧(☆☆★★★★★)
「にゃんこパジャマ……?」
「俺もあまり覚えてないな……」
セイルがアイテム詳細を表示すると、にゃんこパジャマのデータが現れる。
名称:にゃんこパジャマ
レベル:1/1(最大)
種別:服
物理防御:0
魔法防御:1
【付属アビリティ】
・回避率DOWN(超極小)
・魅了(超極小)
・特殊攻撃「にゃんこパンチ」が一定確率で発動(ダメージ0固定)
可愛い猫気分になれるふわもこパジャマ。こんな格好で戦ってはいけません。
「……なんだコレは」
「これは酷い……」
「1ゴールド無駄にした気分になるです」
苦々しい顔になるセイルだったが、アミルもイリーナも似たような顔だ。
こうしてガチャで出てくるということは「カオスディスティニー」運営が遊び心で入れたものなのだろうが……それがこうして現実になってしまった今、全く笑えなかった。
「これで終わっては縁起が悪いな、もう1回だ」
「えっ」
アミルが何かを言う前にセイルの手が動き、1ゴールドが消費される。
ガチャ結果:
メイド服(☆★★★★★★)
巻物(☆★★★★★★)
木の弓(☆★★★★★★)
ミスリルの槍(☆☆★★★★★)
アンチポイズン
鉄のレイピア(☆★★★★★★)
鉄の護身剣(☆★★★★★★)
石の斧(☆★★★★★★)
鉄の剣(☆★★★★★★)
竹槍(☆★★★★★★)
「……」
黙り込んだセイルの顔を、アミルとイリーナがじっと覗き込む。
「今日は運、ないです?」
「もう4ゴールド使いましたし。このくらいで……」
「それだ」
「え?」
「4という数字が良くない。4は不吉な数字だからな」
「え!?」
スッキリした笑顔で10連ガチャをタップしたセイルにアミルが「あっ」と声をあげる……が。
その瞬間、星3を約束する赤い光が溢れ出す。
「見ろ、やはりだ!」
「ええー……?」
「で、何が出るです?」
納得いかない風のアミルと、どうでもよさそうなイリーナ。そして喜ぶセイルの前で、カオスゲートは結果を表示していく。
ガチャ結果:
帝国将軍ゲオルグ(☆☆☆★★★★)
鉄の剣(☆★★★★★★)
木の杖(☆★★★★★★)
鉄の槍(☆★★★★★★)
布の服(☆★★★★★★)
布のローブ(☆☆★★★★★)
舞踏服(☆★★★★★★)
鉄のガントレット(☆★★★★★★)
メイド服(☆★★★★★★)
木の弓(☆★★★★★★)
帝国所属の星3ユニット。その事実にセイルが歓声をあげそうになる、その前に。
「ゲ、ゲオルグゥゥゥ!?」
「最悪です……!」
アミルとイリーナの、そんな叫び声が響いた。
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