セイルとアンゼリカ
王城へと戻ったセイルをホールで迎えたのは、従者達を連れたアンゼリカだった。
「おお、セイル。出かけたと聞いておったが……もう良いのか?」
「ああ。アンゼリカこそ、昨日は結構な夜更かしだっただろうに」
「なあに、そんなもの。幾らでも調整がきくからの」
そう言って笑うアンゼリカからは、少しばかり疲れた様子が垣間見える。
当然だ。世界規模での異変は、女王としての彼女に大きく負担をかけているのだろうとセイルは思う。
「ああ、お前達はもう良い。セイルがいるからの」
「はっ」
アンゼリカの号令と共に去っていく従者達を見て、セイルは苦笑する。
勿論女王たるアンゼリカの命令ということもあるのだろうが、随分と信頼されてしまったものだと思う。
所詮何処の誰とも分からぬセイルを信用など、普通は出来ないはずだが……それだけアンゼリカの「看破」や人を見る目が信頼されているのだろうか。
「イリーナ、クロス。お前達も部屋に戻っていい」
「分かったです」
「ん」
去っていく二人を一瞥すると、セイルはアンゼリカへと視線を戻す。
「で、どうした? わざわざ俺を探していたのなら……何か問題でも発生したか?」
「いや、そんなことはない。というか、本来はお主から妾に用があるべきじゃろう?」
そう言われて、セイルは何のことかと首を傾げる。
セイルからアンゼリカに用事。まだ帝国行きの事は知らせていないが……何処かで聞いたのだろうか?
「……そうだな。アンゼリカにも早めに話しておくべきだった」
「うむ、うむ。そうじゃろうとも。あまり大っぴらに出来ぬ手柄ではあるが……ん?」
「ん? 手柄?」
「妾にも、じゃと?」
セイルとアンゼリカは互いに見つめ合い、どうやら互いの認識に齟齬があるらしいと気付く。
「……妾が言っとるのは、キングオーブの件じゃが」
「俺が言っているのは今後の俺達の予定の話だが」
「うむ。先に聞かせよ。まさか皇国に助太刀に行くとか言うまいな?」
「いや、皇国には行かない。俺達が行くのは帝国だ」
「そうか、安心し……帝国ゥ!?」
叫んだアンゼリカは、至近距離まで近づきセイルの服を掴む。
「待て待て! 帝国は一番何かあるか不明じゃろうが! お主、そんなところに何をしに行く気じゃ!?」
「だからこそ、だ。何があるか分からないからこそ、確かめに行かなければならない」
「それをお主がやる必要が何処にある!」
「俺でなければ、誰がやるんだ。こう言ってはなんだが……俺は、それなりに強い自信はあるぞ」
「ぐ、ぬ……!」
アンゼリカとしても、それには異論はない。
セイルの戦うところを直接見たことは無いが、自分の騎士達をも超える強さの仲間……従者のようにも見える彼等と共に戦っている時点で、セイルも相当の強さだろうと予測は出来る。
しかし、だからといって。
「別にこの国に、王都に居てもいいじゃろう! 今のところこの国は安全じゃ。此処を守る事も無意味ではあるまい!」
「ああ、だからこそ全員ではなく、ウルザを中心に守りに長けた者達を何人か置いていく。アンゼリカさえいいなら、護衛として扱ってくれていい」
「そんなもん有難いに決まっとる! じゃがな……!」
「必要な事だ」
そう言い切られてしまうと、アンゼリカには反論する術がない。
所詮セイルは、風来坊の一人でしかない。何処かの王族の系譜だろうと予測してはいるが、それが何処の国かも今となっては分かる事もないだろう。
セイルとの関係をもう少し進められれば……とは思うのだが、自分という権力にセイルは食いつく様子すら見せない。
それがアンゼリカには、どうにも歯痒かった。
「……そうか。残る者達を護衛として使うにあたり、規定通りではあるが給金を出そう。後で契約書を持って行かせる故、確認するがよい」
「ああ、感謝する」
「それとな。キングオーブの件じゃが……あまり表立って表彰するわけにもいかんが、大きな手柄じゃ。何か欲しい物があるならば、宝物庫を開け下賜しよう」
その言葉にセイルは少し考えた後に、首を横に振る。
「いや。必要な物は持っている」
「そうか。ならば金銭ということになるな。うむ……そうじゃな、20ゴールドでどうじゃ?」
「随分大金だな……いいのか?」
セイルがそう言うと、アンゼリカは苦笑で返してくる。
「たいした事はない。表沙汰に出来ぬ貢献故、大っぴらに金を動かすことも出来んのじゃ」
本来であればそのくらいで済ましてよいものではない、とアンゼリカは溜息をつく。
しかし国の金を大きく動かすというのは、王の一存で秘密裏に出来る事ではない。
「今回の報酬も、表向きには妾の命を守った事に対する褒賞ということになるかの」
「ああ、分かった」
「……良いのか? 本来は別個で褒賞を受けるべき案件じゃぞ」
「元々キングオーブの件は、俺達にも利益のあることだ。それで更に儲けようとまでは思わないさ」
実際、帝国に行くのにもキングオーブ探しという側面もある。
この城でのキングオーブ探しも、セイル自身の為であったのだ。
それで報酬を要求するというのは、正直セイルには躊躇われる事でもあった。
「それで? いつ行くのじゃ?」
「そうだな……まあ、明日だな」
「速すぎではないかのう……」
呆れたように言うアンゼリカに、セイルは「そうか?」と不思議そうな顔をした。
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