支部長との商談

「ああ」

「ん」


 職員に呼ばれ、セイルはギルドのカウンターの奥の階段へと進み上っていく。

 この辺りの構造はどのギルドも変わらないのかもしれないが、やはり支部長の部屋は上の階にあるようだった。


「少々お待ちください」


 奥の部屋の前で立ち止まった職員はドアを叩き「セイル様とお連れ様がいらっしゃいました」と声をかける。


「ああ、入ってくれ」

「どうぞ」


 支部長の返答を聞くと、職員はドアを開けてセイル達に入室を促す。


「失礼する」


 セイルはそう言うと、自宅の部屋と同じく質実剛健といったデザインの部屋へと入る。

 その後をクロスも「以下同文」などと言いながら入ってくるが……何故かセイルの後ろに隠れてしまっている。


「ん、どうしたクロス」

「なんかああいう学園長っぽいのは苦手」

「なるほどな……」

「くくっ、学園長……か。そんな高尚な職についた事はないな」


 青髪をしっかりと撫でつけた支部長……バグロムの顔色は良く、機嫌も良さそうだ。

 小声で交わされたセイルとクロスの会話に楽しそうに答えると「さて」と部屋の椅子に座り直す。

 支部長室であろう部屋の机には丁度休憩時間だったのか湯気をたてるカップとクッキーの載った皿があり、部屋の窓も大きく開け放たれている。

 バグロムが座っているのも恐らくは支部長専用であろう立派な椅子だが……。


「すまないな。普段来客を想定していなくてな……すぐに椅子を持ってこさせよう」

「いや、いい。長話でもない」

「そうか? では早速話を聞かせて貰おうか。わざわざ来たんだ、森の話か?」

「それでもいいんだが……まずはコレを見てほしい」


 そう答えると、セイルは布に包まれた鋼のシミターを机に置く。


「ふむ。開けても?」

「ああ」


 布を外したバグロムはシミターを手に取ると、すらりと抜き放つ。


「ほう……」


 一言そう呟き、刃をじっくりと眺め始める。


「鉄……ではないな。鋼鉄か。それもかなり良い。少なくとも、この国の鍛冶師にはこんなものは打てんだろうな」


 そう言ってバグロムはシミターを鞘に納めると、机の上に置き腕を組む。


「で、幾らだ? 他にもあるのか?」

「いきなりだな」


 苦笑するセイルに、バグロムはフンと鼻を鳴らす。


「そのつもりで来たんだろう? この国は王の施策で大国製の武器も溢れてはいるが、どれも二級品や三級品だ。昨夜の騒動も考えれば、誰もが質の高い武器を欲しがるだろう」


 言いながら、バグロムは机の上のシミターをトントンと指で叩く。


「そしてセイル。お前は頭の回らない人間じゃない。こんなものを武器屋ではなく俺のところ……冒険者ギルドに持ち込んだ理由は明確だ。俺の指揮する冒険者ギルドは明確に所属冒険者への支援が出来るという実績を作り求心力を高める。そんなところか?」

「ああ、話が早くて助かる」

「武器屋に持ち込まないのは慧眼だな。連中にこんなものを渡しても、相場より高く吹っ掛けて売るだけだろう。まあ、商売の事をとやかく言う気はないが」

「言ってる」

「此処だけの話だ、術士のお嬢さん。内緒だぞ?」


 ボソリと呟いたクロスにそう言ってウインクすると、バグロムはセイルへと視線を向ける。


「まあ、そんなわけだ。とりあえず、そうだな……この曲剣は1ゴールドでどうだ?」

「ああ、それで構わない。他には鋼の斧が2本、それと鋼の槍が1本あるが」

「現物を見ないと何とも言えんな……それに斧は人気がイマイチなあ……」

「そうなのか?」

「ああ、どいつもこいつも吟遊詩人の唄のせいか、剣を好むんだ。それも直剣だな……そういえばお前の腰にぶら下がってるのもそうだが」

「そうだな」


 まあ、カオスディスティニーでも直剣を使うユニットは多い。

 基本だからというのもあるだろうが、やはりカッコよさがあるのだろう。

 それはどんな世界でも変わらないのだろうか……などとセイルは思う。


「まあ、現物ならすぐに出せる」

「ん? しかし」

「見ていろ」


 そう言うと、セイルはカオスゲートから2本の鋼の斧、そして1本の鋼の槍を取り出す。

 そしてついでとばかりに此処に来る前のガチャで出した鉄の槍と斧、弓をも取り出す。

 ガチャガチャと机の上に積み重なる武器を見て、バグロムは目を丸くする。


「なっ……これは魔道具か!? お前、そんなもの……!」

「そこは気にしないでくれ。後は鉄の鎧もあるが」

「いや、待て待て。そんなものを机の上に出すなよ? そこの床にしてくれ」

「ああ」


 セイルが鉄の鎧一式を床に出すと、バグロムは大きく溜息をつき何度も頭を振る。


「……恩人の事だ。追及はしない。しないが……とんでもないな。これが普通の相手だったら、何者か問い詰めてるぞ」

「そんなに珍しい機能か? 他にも同じような機能の魔道具はありそうだが」


 わざと惚けてセイルがそう聞いてみると、バグロムは「確かにあるな」と答える。


「しかしな、こんなにゴチャゴチャと入るようなものじゃないんだ。それでも凄まじい額になるしな」

「なるほどな」

「……俺は頭が痛いよ」


 バグロムはそう言うと、机の上の武器を一つ一つ確かめ始める。


「そっちの鎧も含めて、そうだな……鋼の斧は1つ40シルバー、鋼の槍は30シルバー、鉄の槍は5シルバー、鉄の斧は10シルバー。弓は……んー、1シルバーだな。鉄鎧一式は……あー、そうだな。30シルバーってところでどうだ」

「合計で2ゴールド56シルバーか」

「ああ、どうだ?」


 ガチャで考えると10連を2回分だが、悪くない額だとセイルは思う。

 確率は下がってしまったが、ガチャを引いて武具が出れば更なる黒字も期待できる。

 そうせずとも、当座の資金としては充分だろう。


「それでいい」

「商談成立だな。しかし……どう言い訳したものかな」


 バグロムは小さく息を吐くと紙に何かを書き付け捺印すると、セイルへと手渡す。


「下で職員に渡せ。支払いをしてくれる」

「ああ」

「他にも何かあるようだったら、いつでも言ってくれ」

「そうしよう」


 そう言って部屋を出ようとするセイルを、バグロムは呼び止める。


「……いや、待った。俺も忘れかけていたが、森の話を聞かせてくれ」

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