支部長を探して2
「冒険者ギルド……」
「何か気になるのか?」
ふと足を止めたクロスにセイルがそう問いかけると、クロスは「んー」と唸る。
「回る?」
「回る……? ああ、そういうことか」
一瞬何を言ってるのか分からなかったセイルだが、すぐにクロスの言おうとしている事を理解する。
冒険者ギルドはちゃんと業務を回していけるのか、と。そう言っているのだろう。
「何故そんな心配を?」
セイルが背中を軽く叩いてクロスに歩くよう促そうとすると、ひょいと躱される。
そのままクロスはセイルの腕を捕まえ、絡みついてしまう。
「んー。自分の理解できない現象が起こったら、逃げるか様子見が普通」
「なるほどな」
クロスをくっつけたままセイルは歩き、どう返答したものか考える。
「たぶん、だが。多少の変動はあるかもしれないが……大丈夫だろう」
「なんで?」
「暮らしていくには金が要るからな。特に王都は物価が他より高い」
「王都から逃げ出すかも」
「それは有り得るな。だが、周囲の状況も分からず逃げ出すよりは壁のしっかりした王都に居た方がいいと考える奴も多い……かもしれない」
結局のところ、天秤なのだ。何処が一番安全か、それを維持するにはどうすればいいのか。
諸々を天秤にかければ、大体の人間は王都にいることを選ぶだろう。
無論、別の国に向かおうと考える者も多いだろう。
世界各国の状況が知られていない以上、大国の方が安全だと考えるのは不思議な事ではない。
状況が分かっていくにつれ、どう推移していくかは……今は想像するしかないが。
「まあ、その辺りを解決する一助となるのが今回の話の肝でもあるわけだな」
「ん」
言いながら、セイルとクロスは道を歩く。
いつもより露店も人通りも少ない、寂しい道。
そこを抜けていくと、冒険者ギルドへと辿り着く。
他の場所と比べると人が多いように見える建物の中へと入っていくと、2つほどのカウンターにやけに人が並んでいる事に気付く。
年齢も格好も様々だが戦いに向いているようには見えない彼等を見て、クロスが首を傾げる。
「何、あれ」
「さてな……ああ、ちょっといいか?」
セイルが近くに来た冒険者らしき男に声をかけると、その男は「あ?」と言いながらも足を止める。
「あの列はなんだ? 依頼を受ける冒険者といった風には見えないが」
「なんだお前、素人かよ? ありゃ依頼の列だよ。どうにもこれから物がバンバン売れると見込んだ商人共が護衛の依頼を出してるらしいな。大国から仕入れてこっちで高値で売ろうってんだろうよ」
「逃げるのかと思った」
クロスがそう呟くと、冒険者の男は楽しそうに笑う。
「ハハハ! そんな奴もいるかもしれねえな! ついでに言やあ、腰抜け共は護衛のついでに逃げるかも分からんな!」
そんな男の言葉に周囲からキツい視線が投げかけられるが、男は気にした様子もない。
「なるほど、自分は違う……勇士だと。そう言いたいわけだな」
「おう、分かってるじゃねえか。この撃剣のガズゥ、たかがグミが凶暴になった程度で逃げる程腰抜けじゃねえってわけだ」
「見知らぬモンスターが出たという話もあるが?」
セイルがわざとそう投げかければ、ガズゥは肩を軽くすくめてみせる。
「そんなもん、俺が真っ二つにして武勇伝に加えてやらあな」
「そうか。頼りになるな」
「おうよ。アンタも頑張りな。まずは肉食って力でもつけるこったな」
「気を付けてみよう」
言いながらセイルはガズゥと別れ、並んでいないカウンターへと歩いていく。
「……なんでモンスターの事?」
「ああして伝えておけば多くに広まる。「事前に知っていた」と「聞いていない」では動揺度も違うだろう」
言いながら、セイルはカウンターの前に立つ。
「いらっしゃいませ。あ……」
「ん? 何処かで会ったか?」
初めて見るはずの職員に申し訳なさそうな顔をされ、セイルは疑問符を浮かべる。
「い、いえ。その。副支部長の件では申し訳ありません……」
「いや、彼女の件については聞いている。もう掘り返す事でもないだろう」
「そう言って頂けると……」
「ああ、それで……だな。支部長がこちらに来ていると聞いた。取り次いで貰いたい」
「はい、少々お待ちください」
職員が合図をすると、別の職員が上の階へと走っていく。
「ところでセイル様。現在は護衛依頼も殺到しておりますが、調査や採集依頼なども増えております。余裕がございましたら、是非」
「ああ、わざわざすまない。考えておく」
「ありがとうございます」
「しかし、採集というのは……薬草の類か?」
「それもございますが、森での、その……狩猟や果物などの採取の依頼も増えております」
「……なるほどな」
それもまた、これからの商売を見越したものか……あるいは冒険者に依頼する事で結果的な支出を抑えようとしているのか。
それは分からないが、グミの暴走という今まで有り得なかった事態が影響しているのは間違いないだろうとセイルは思う。
「あ、お待たせしましたセイル様。此方へどうぞ!」
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