アップデート・ガチャ
アミルの後ろには何故かウルザも居て、当然のようにスルリと部屋へと入ってくる。
「ふむ。ではワシは席を外しますかのう」
「いや、その必要はない」
「そうですかの?」
言いながらもオーガンは僅かに離れ、カオスゲートを持つセイルの両側にアミルとウルザが覗き込むようにして立つ。
「あの、セイル様。そもそも、今の資金って……」
「2ゴールド32シルバー10ブロンズだな」
「うっ……」
セイルの告げた金額に、アミルが不安そうな顔をする。
北メルクトの森に向かう前の合成で一気に資金を消費してしまったが、それでも北メルクトの森での戦闘の結果か、多少増えている。
それでも収支で言えば赤字も甚だしい……のだが。困った事に、このモンスターから得られる資金額はカオスディスティニー基準でいえば妥当だったりするのだ。
基本的にカオスディスティニーでは時折手に入る換金アイテムによって資金を稼ぐのが一般的だった。
まあ、熟練者程資金に困らなくなるのでセイルもすっかり忘れていたのだが……これを手に入れるにはドロップでの入手やクエストの条件達成など、幾つかの手段があった。
もしアップデートされたガチャの「アイテム」にこの換金アイテムも含まれているのであれば、ガチャによって大量の資金を稼ぐという手段が可能になる……かもしれない。
「今の資金だと10連を2回しか引けないが……今後の事を考えると、な」
「例の支部長から資金を引っ張って来ればいいんじゃないの?」
「それも考えたんだがな。折角の貸しだ、待機組の便宜を図って貰った方がいいんじゃないかとも思っている」
「あら」
ウルザにそう答えると、ウルザも「そうね」と返してくる。
その方が残ったメンバーの資金稼ぎ、経験値稼ぎという面でも良いのは明らかだ。
まあ、当座の資金という問題もあるのだが……そこは何とかするしかない。
「それで? そういう言い方をするってこと、次の動きが決まったのね?」
「ああ、そうなる」
「当然私は連れていくのよね?」
「いや、ウルザ。お前には待機組の指揮を頼みたいと思っている」
「……私が?」
訝しげな顔をするウルザにセイルは「ああ」と頷く。
ウルザは機転が利き、状況を有利に運ぶ能力に関しては仲間の中では随一だ。
帝国に向かうにあたっては必要な能力ではあるが……裏を返せば、それはセイルの居ないヘクス王国に残る者達に何かあった場合に必要な能力でもあるということだ。
「確かにお前は俺に必要だ。だがそれは、他の仲間達を軽視して良い理由にはならない」
「……一番の優先は貴方の身だと思うけど?」
「理解している。だが、我が身可愛さに仲間の安全対策を怠りたくはない」
セイルには、いざという時にはガチャという状況を逆転させ得る手段がある。
攻撃力で一番勝るのもセイルだ。
しかし何より、「王族のカリスマ」の効果は地味に大きい。
セイル一人の有無で、戦力が大きく変わってしまうのだ。
だからこそ、とセイルは思う。
「誰も欠けてほしくはない。だから、俺が今一番頼りになる知恵者だと思うお前を置いていく」
言いながら、セイルはウルザをじっと見つめる。
「頼まれて、くれるか?」
「……そう言われて断るほど、ワガママじゃないわ」
仕方ないわね、とウルザは小さく息を吐く。
「全く。一番頼りになるとか。誰にでも言ってるんじゃないでしょうね?」
「そんな事を軽々しく言うつもりはない」
「ええ、ええ。信じてるわ?」
少し嬉しそうに言うウルザにセイルは「本当だぞ」と念を押して。
ふと、反対側で少し不満そうにしているアミルに気付く。
「……どうした、アミル」
「いえ。別に何も思うところはありません」
「そんな顔には……あ、いや。アミルの事はウルザとは別の意味で頼りにしているぞ?」
慌ててセイルがフォローするように言うと、アミルは何とも複雑な表情になるが、すぐに気合満タンの表情へと変わる。
「……もっと頑張ります、私!」
「あ、ああ」
今ので大丈夫だったのだろうか、とセイルは少し不安になるが、アミルはいつも通りの真面目な顔で再びカオスゲートを覗き込む。
「で、その……何回引くのでしょうか?」
「10連を1回だ。1ゴールドはウルザに渡しておくつもりだからな」
ウルザなら、それだけであれば充分居残り組の資金源として運用するだろうとセイルは信用している。
渡した僅かな資金を知らない内に増やしている手管は、セイルにも他の仲間達にもないものだ。
「さて! では引くぞ」
カオスディスティニーでもガチャのアップデートというものは何度かあった。
それは利用者を飽きさせない為の入れ替えであり、新しいユニットや武器の入手による達成感などを味わわせる為のものであったりしたわけだが……セイルも随分と心躍らせたものだ。
ノーマルガチャしかない現在も、ガチャのアップデート……内容はともかくアップデートは無条件せセイルのテンションを知らずの内に上げている。
自分ならいける。そんな根拠のない自信を、ガチャに挑む者達は皆胸の内に秘めているのだ。
10連で1ゴールド消費。正直に言って、かなり巨大な出費なのは間違いない。
ガチャ結果:
鉄の槍(☆★★★★★★)
アタックウォーター
ガードポーション
鉄の斧(☆★★★★★★)
鉄の弓(☆★★★★★★)
ライフウォーター
リペアキット
鉄の鎧(☆★★★★★★)
アンチポイズン
リペアキット
「……ふむ」
「よく分かりませんが、どうなんでしょう……」
「どうなのかしら。どうなの?」
アミルとウルザに両側から聞かれて、セイルは「そうだな……」と曖昧な答えを返す。
実際、喜んでいい結果かどうかは非常に判断に困るところだ。
まず「ウォ―ター」と「ポーション」についてだ。
これも熟練者になると高レアユニットでごり押し出来るから使わなくなり忘れていくのだが、消費系アイテムにはランクが存在する。
まず、最低品質のウォーター。
効果は低く、しかし始めたばかりの頃は重宝するアイテムだ。
たとえば「ライフウォーター」であれば、レベル1ユニットの体力を7割は回復できる。
次に、ポーション。これはウォーター系よりは効果が高く、更にその上に「ハイポーション」「エリクサー」といったものが存在している。
これ等に星表記がないということは、最高品質のエリクサーまで手に入ると考えてもいいのかもしれないが……出ていない以上は分からない。
しかし、もっと分からないのは「リペアキット」だ。
こんなアイテムはセイルは知らない。知らないが……何となく想像はついて、セイルはアイテムの詳細を確認する。
名称:リペアキット
種別:アイテム
機人の損傷を瞬時に修復するアイテム。
「……」
心の中だけで「やはりか」とセイルは呟く。
元の世界での新コンテンツにして新ユニット、機人。
どうやら、色々と新しい試みがされているようだった。
まあ、今のところ持っていても意味のないアイテムではあるだろう。
「あのー……セイル様?」
「結局どうなのよ」
アミルとウルザに再度問われて、セイルは軽く咳払いをする。
「そう、だな……可もなく不可もなく、といったところだろうか」
言いながら、セイルはカオスゲートから密封された細い瓶入りの紫色の液体を取り出しウルザへと渡す。
「あら、これって毒消しよね? 随分質が良さそうだけど」
「アンチポイズンだ。どうだウルザ、それなら流しても問題がないと思わないか?」
武器でも防具でもなければ、アタックウォーターのような人間の力を引きあげるアイテムでもない。
アンチポイズンは、「毒を一瞬で消し去る」だけのアイテムだ。
カオスディスティニーでは使いどころに悩むそんなものであっても、現実の世界では全ての毒に対する特効薬だ。
流れても何処かの誰かを救うだけの、そんなものだ。
「そう、ねえ……ていうか、姫様に売りつけた方がいいんじゃないの?」
「俺が、か?」
「他に誰がやるのよ。イヤよ、主の目を盗んで小遣い稼ぎする小悪党扱いされるのは」
「む」
それを言われると弱い。
「……ん? そういえばオーガンは何処に行った?」
「ごゆっくり、とか呟きながら早々に出ていったわよ?」
「アイツは……」
セイルは再ウルザからアンチポイズンを受け取ると、カオスゲートへと仕舞い込み溜め息をついた。
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