新たな指針

 朝。キングオーブ関連ですっかり夜を徹してしまったセイルは、部屋の窓際に肘をついて外を眺めていた。

 王城からの景色は宿からの景色とは違い「特別な景色」という言葉がよく似合う。

 眼下に広がるのは王城の土地であり、丁度セイル達が滞在している場所からは騎士の訓練している姿が見える。

 男部屋にいるのはセイルとオーガンの2人だけで、他の面々はあちこちに出かけている。

 

「……月、ですか。厄介な仕組みがこの世界にはありますのう」


 髭を弄りながら言うオーガンに、セイルは「ああ」と答える。

 特に面白くて見ているわけではないが、暇潰しには最適な光景ではある。


「そういえば先程騎士から聞いたのですが、グミの襲撃は夜が明けると共に収まったそうですぞ」

「……月の影響も日の出ている間にはない、ということだな。あるいは、今日は別の月の日なのか……」


 キングオーブ01に確認した限りでは、どの月の日であるかは完全にランダムなのだという。

 一体どういう仕組みなのかは分からないが、考えるべき事が増えたのだけは確かだ。


「どの月の日か判別する手段があれば良いのですがのう」

「全くだ」


 昨夜の一連の出来事は、朝一番で仲間を集めて説明していた。

 ストラレスタの事、キングオーブの事。

 それを全員が全て理解できたかも受け止められたかも分からないが、セイル自身考えを纏める時間は必要だった。

 その為現在は自由な日……ということにしているのだが、アミルが外で門番じみた事をしているのを除けば、ほぼ全員が王城の外に出てしまっている。


「それで、セイル様。今後はどうなさるのですかの?」

「……そう、だな。優先すべきはキングオーブの探索だろうとは考えている」


 キングオーブは、分かっているものでは大国にある3つが他に存在している。

 それぞれに託された力の欠片があるとするなら、それに「接続」することでセイルの能力が強化されるはずだ。

 それはセイルが人間の英雄としてやっていくには重要なものであるのは間違いない。

 

「問題は、どうやって部隊を分けるか……だな」


 現在の仲間達をセイルは思い返す。

 バランス良く戦える能力を持った前衛、アミル。

 貴重な魔法士でありセイルには無い交渉技能も持つ、イリーナ。

 機転が利き、隠密行動や調査能力に長けたウルザ。

 狩人としての各種技能を持つエイス。

 仲間の中では一番の回復魔法を使えるオーガン。

 物理的な防御力に長けるガレス。

 召喚によって手勢を増やす能力を持つクロス。


 まず、この国の……というよりもアンゼリカの身の安全を考えれば、ガレスは待機組に組み込んだ方がいいだろう。

 呪術対策を考えると、オーガンも待機組である方が良いかもとは思う。

 いや、防衛力を考えればクロスを待機組としても良いかもしれない。


 逆にセイルに同行する者に関してはどうだろう。

 後衛はイリーナかエイスか。瞬間攻撃力でいえばイリーナだろうが……。


 アミルとウルザはどうか。ウルザは攻撃力には不安があるが、状況を優位に導く為の調査能力に長けている。

 一方のアミルにはそうした能力は皆無だが、どんな戦況でも安定して戦える力がある。


 そうした事を考えていくと……セイルの中ではチーム分けが決まっていく。

 まず出撃組はセイル、アミル、イリーナ。

 待機組にウルザ、エイス、オーガン、ガレス、クロス。

 基本的にはアガルベリダ戦の時と似ているが、ガレスを待機組に加える事でより防衛力を増している。


「……こういう風にしようと思うんだが、どう思う?」

「宜しいのではないですかのう。セイル様に同行出来ぬのは、少しばかり悔しくもありますがな」


 軽快に笑うオーガンに「すまないな」と謝罪しつつ、セイルは予定を組み立てていく。

 最初に行くべきは何処か。

 キングオーブに記された状況を考えるに、レヴァンド王国はすでにドワーフの勢力圏となっている。

 スラーラン皇国は獣人と戦闘中。

 アシュヘルト帝国は状況が不明だ。

 3つの国は全く別方角にあり、その大きさもヘクス王国とは比べ物にならない。

 何処に向かうべきか。

 スラーラン皇国は余裕があるように思えるが、獣人の英雄が存在し戦闘に参加したとなればどうなるか?

 それを考えると……セイルが向かうべきはスラーラン皇国となるのだろうか。

 少なくとも、獣人の英雄を抑える役には立つはずだ。

 そうする事でスラーラン皇国の戦況が安定すれば、人間全体の状況も安定する。


「……オーガン。お前はどう思う? 俺達は、最初にどの国へ行くべきか」

「そうですのう。セイル様は恐らくスラーラン皇国をお考えとは思いますが」

「分かるか?」

「ええ。その国がもっている内は、ヘクス王国の盾にもなりますからのう」

「やはり、か」

「しかし……それはどうかと思いますのう」


 そんなオーガンの言葉にセイルは疑問符を浮かべる。


「何故だ?」

「簡単な事ですとも。スラーラン皇国は戦況が安定すれば、他の崩れた二国の領土に手を伸ばし、ヘクス王国の併合をも図るでしょう。この乱世の時代の盟主になろう、というわけですな」

「……大国の論理というやつか」

「そうですな。ワシ等の世界の帝国と同じというわけですのう」


 カオスディスティニーにおける「帝国」は、そのメインストーリー第一章の事を主に指している。

 魔族による世界の混乱の最中、自国による世界統一を唱えた狂帝ヴォーダン。

 第二章「狂帝の後継者」では娘であり新たなる皇帝、星5ユニットとして登場する「皇帝ワルキリア」が居たりするのだが……まあ、それはさておき。


「すると、皇国はひとまず様子見、か」

「レヴァンド王国は聞く限りですと、恐らくはドワーフの勢力圏……というよりは国の中ですかの?」

「ああ、俺もそう思う」


 ドワーフといえば山、というのはある種の偏見だが……状況を考えるに間違っていないようにもセイルには思える。

 となると、現時点でレヴァンド王国に出向くのは蜂の巣を突いたり蛇の穴に手を突っ込むのと同義であるかもしれない。


「……つまり、状況の分からないアシュヘルト帝国に行ってみるのが最善……か?」

「さて。ワシにはなんとも」

「そこを決断するのは俺の責任だ」


 言いながら、セイルはカオスゲートを取り出す。


「よし、指針も決まった。ガチャを引くとする、か」

「失礼致します! ガチャって聞こえましたけど!」


 その瞬間にアミルが扉を開けて入ってきたのは……まあ、流石ではあるだろうか。

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