アップデート
そこにあったものは、1つの台座だった。
装飾など何もついていない、「それ」を置く為だけの子供の身長程の高さの台座。
その上には、1つの水晶玉のようなものが載せられているのが見える。
他には、何もない。この部屋は、その水晶玉のようなものを置く為だけの部屋だった。
「あれが……キングオーブ……なん、ですか?」
疑問形のアミルの言葉も、仕方のないものだ。
キングオーブという言葉から受けるイメージとは違い、目の前の……恐らくはキングオーブであろうものからは、セイルも何も感じない。
たとえばあの時アガルベリダが用意していたカースドラゴン・コアどころかカースゴーレム・コアのような圧力を感じる事も無い。
ただのガラス玉のような、そんな感じすらするのだ。
だからこそ、セイルもアミルの疑問を解消する事は出来ない。
「さて、な」
とはいえ、こんな場所に安置されているのが本当にガラス玉ということもないだろう。
セイルは台座に近づいていくと、カオスゲートを取り出す。
何か反応するかと期待したのだが……何も反応はない。
「ど、どうしましょうセイル様」
「落ち着け。だが、そうだな……アンゼリカには知らせねばならないだろうな。アミル……」
行ってくれるか、とセイルが言いかけたその瞬間、キングオーブがぼんやりとした光を放ち始めた。
そして同時に、セイルの手の中のカオスゲートが反応するように光を放ち始める。
「えっ」
「これ、は……なんだ!?」
セイルの手から、カオスゲートが浮き上がる。
キングオーブとカオスゲートは互いに反応し合うように輝き……やがて、キングオーブから一条の光が放たれカオスゲートへと吸い込まれていく。
そして、それが終わると同時にカオスゲートは浮力を失ったかのように落下する。
「お……っと」
危なげなくキャッチしたセイルは、鈍く輝くカオスゲートをタップする。
そうすると、やはり先程と同じように新着メッセージが届いていた。
送信者:キングオーブ01
人間の英雄よ、キングオーブ01は貴方に力の欠片を託します。
貴方の中に用意されていた、未使用領域を一つ解放しました。
キングオーブ01は、設定呼称「ガチャのアップデート」を実行完了しています。
人間の英雄よ、貴方は託されました。
白の月神の愛が、貴方を通して人間に輝きを示す事を望みます。
「……ガチャの、アップデート……だと?」
「へ?」
セイルは食い入るようにメッセージを見つめる。
ガチャのアップデート。何度見てもそう書いている。
まさか、レアガチャ。そんな事を考えて「まさか」と首を横に振る。
それはない、きっとない。けれど、もしかしたら。
そんな期待と共にセイルはガチャ画面へと移動して……絶句する。
「……なん、だ。これは」
「え、な、なんですかセイル様?」
画面には、変わらずノーマルガチャしかない。
ない、のだが。
「1回、10シルバー……だと?」
1回10シルバー。10連1ゴールド。
何度見直してもそう書いてあるのだ。
確か、ついさっきまで「1回10ブロンズ、10連1シルバー」であったはずだというのに。
10倍どころではない、驚異の100倍の値上げだ。
これが元の世界のゲームのガチャであれば暴動が起こりかねない。
「え、うわ……」
横から覗いていたアミルがそんな声をあげるが、セイルの中にはこの理不尽に対する怒りしかない。
確かに、アップデートによる調整というものは、存在する。
今まで輝いていたものが石ころ同然になるというのも、よくある話だ。
だとしても、これはない。改悪にも程がある。
このガラクタめ、どんな呪いだと叫びそうになりながらもセイルはガチャ画面の下部についている「アップデート履歴」と書かれたリンクに気付く。
これもまた、今まではなかったものだ。
アップデート履歴
キングオーブ01によるアップデート
・ノーマルガチャの強化
ユニットの初期レベルランダム(最大10)が追加されました。
ガチャからの排出品に「アイテム」が追加されました。
これ等に伴い、ガチャに必要な金額が増加しました。
「アイテム、というと……回復薬とかでしょうか?」
「……かもな」
アップデート内容を頭の中で反芻しているうちに、セイルの怒りは僅かだが収まってくる。
初期レベルランダムは、カオスディスティニーでもあったものだ。
あちらではもう少し上限が高かったはずだが……とにかく、最初からある程度のレベルがあるというのは助かる。
そして、だが……「アイテム」というのは、カオスディスティニーのアイテムで間違いないだろう。
傷を治す回復薬、攻撃力を増加させる攻撃薬、毒を治す毒消しなど「必須ではないが、あると役に立つ」アイテムの事だ。
基本的にはドロップでしか手に入らないものだが、確かにノーマルガチャで手に入るようになるアップデートの告知はされていた。
課金してレアガチャばかり引いていたセイルにとっては「ふーん」で当時済ましていたものだったが、こうしてノーマルガチャしかない現状でそんなものを実装されてしまうと中々にキツいものがある。
ある、のだが。そう悪い事だけでもない。
何故なら、そのアイテムがカオスディスティニー同様の効果を発揮するのであれば……回復薬は使えば傷が一瞬で治るし、攻撃薬は実力を超える力を発揮できる。
毒消しに至っては「毒」であるならどんな毒も消し去ってしまうかもしれない。
この世界では手に入らない、そんな凄まじい品々がこれから手に入る。
それは強大な敵を相手にしていかなければならないセイル達にとっては強い味方となるはずだ。
「……だとしても、高すぎるな」
「迂闊に引けなくなりましたね……」
「まあ、後で引くがな」
「1回ですよね?」
「ああ、1回だ。10連をな」
「セイル様ぁ……」
「いいから。大丈夫だから。とりあえずアンゼリカを呼んで来い。な?」
そう言ってアミルの背中を押すと、セイルはカオスゲートを見つめ思考の海に浸り始めた。
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