王城探索2

「……ふむ」


 煌々と灯りに照らされた宝物庫。

 セイルの今までの人生でそんなものを見た記憶はない。

 ない、が。「セイル」は王子だ。当然王城の宝物庫に入った事もあるはずであり、此処で何か特別な反応を見せたりするのが間違いである事くらいは理解できている。

 だからこそセイルは、何でもない風に辺りを眺める。


「わあ、なんだか凄いですね!」

「そうだな」

「私、向こうでは単なる兵士でしたから、こんなとこ入るの初めてです!」


 まあ、アミルが分かりやすくテンションを上げているのでその分セイルが冷静になれているというのもあるだろう。

 そういった意味では本当にアミルを連れてきて正解だったな……などと思いつつ、セイルは宝物庫の通路を歩き出す。


「わあ、わあー……こうなってるんだ……」

「その辺にぶつかるなよ、アミル」

「そ、そんな事しません!」


 キョロキョロしているアミルにセイルがそんな事を言うと、アミルは分かりやすく背筋を伸ばす。

 その姿を微笑ましく思いながらも、セイルは注意深く周囲を見る。


 アンゼリカが以前1人で宝物庫を探した時は、何も見つからなかった。

 それはつまり、一見して分かるような「何か」は無いということだ。

 たとえば隠し扉があるとして、少し押した程度で開くようなものではないだろう。

 かといって、誰にも開けられないのでは意味がない。

 たとえば魔法的な仕掛けによって血筋に反応するというのであればセイルにはお手上げだが、それであればアンゼリカが見つけられなかったわけがない。

 つまり「そういう類の仕掛け」ではない。


「……とすると、そうと分かっていれば見つけられるものと考えていいはずだが」

「あの、セイル様」

「なんだ?」


 壁に触れていたセイルに、アミルが言い難そうな顔で問いかけてくる。


「こういうのは、ウルザを連れてきても良かったのでは」

「んん……まあ、それでも良かったんだがな」

「はあ。何かご懸念が?」

「いや、特にない」


 本当はある。ウルザは鋭いから、初めて見た宝物庫でテンションを上げた所を見られたら何か勘付かれるかもしれないという懸念があったのだ。

 そういう意味ではアミルはちょっと鈍そうだし丁度いいかな……とまでは思ってはいないが、気付かれないだろうとは考えていた。

 勿論、そんな事を本人に言うわけにもいかない。


「まあ、こういうのはプロよりも素人の視点の方が意外とヒントを見つけ出せたりするものだからな」

「なるほど……確かにそういうのはあると思います!」


 適当なセイルの言葉にアミルは納得したように頷くが、実際にそういう事はあるかもしれない。

 プロであれば確認するポイントを的確に外せば、それは確実に「見つけ辛い」仕掛けと化すだろう。

 それは同時に、素人が「怪しい」と思う箇所をも外す結果となるだろう。


「しかしそうなると、普通に探していても見つからないということでは……」

「かもしれないな。だが逆に考えれば「まさか」と思うような場所にあるかもしれない、ということでもある」

「まさか、ですか……」


 悩むように腕を組み首を傾げるアミルに、セイルは冗談交じりに「何か思いつくか?」と聞いてみる。

 何も答えは出ないだろうな、などと考えながら壁の隙間に何かないか見ていたセイルだが、ぽつりと呟かれたアミルの言葉に思わず振り返る。

 それは、あまりも小さな呟き。けれど、セイルにとっては衝撃的な言葉だった。


「……待て、アミル。今、なんて言った?」

「え? い、いえ。宝物庫自体が囮とか……って。あはは、そんなわけないですよね!」


 囮。

 宝物庫が囮。

 煌びやかな宝の並んだ宝物庫。厳重なその場所に更なる隠し扉の存在を考えるのは、ある意味で普通の事だ。

 しかし、しかしだ。その固定観念こそが問題であったなら?

 セイルはこの宝物庫の構造を思い出す。

 頑丈な鉄扉の前に立つ2人の兵士。

 小さな部屋の中にあるのは地下の宝物庫に繋がる階段があるだけの部屋。

 ……けれど、本当に?

 本当にあの小さな部屋には宝物庫への階段しかなかったのか。


「……戻るぞ、アミル!」

「へ? は、はい!」


 セイルは階段を上り、小部屋へと戻る。

 宝物庫への階段があるだけの小部屋。考えてみれば、この部屋の構造もおかしい。

 部屋の隅に階段が設置されているだけで、他に何もなさすぎる。

 この部屋自体に兵士を配置してもいいだろうに、何故いないのか?


「その、答えは……!」


 蹲って、床を探す。

 石の敷き詰められた床。そこに薄汚れた……いや、意図的に汚して輝きを消したのであろう米粒ほどに小さな宝珠を見つけ、セイルは確信する。


「これ、だ。宝物庫は、この部屋自体から意識を外す為の囮だったんだ」

「え、まさかコレがキングオーブ……なんですか?」

「そんなわけがないだろう。これは、たぶん鍵穴だ」


 この手のモノにどうすればいいかは、冒険者ギルドの魔力登録の時に分かっている。

 セイルは宝珠に指先で触れると、ゆっくりと魔力を流していく。

 セイルの魔力を受けた宝珠は輝きを灯し……静かな音を立てながら、床が組み替えられるようにして割れていく。


「こ、これって……」

「さあ、行くぞアミル。キングオーブとご対面だ」


 新たに現れた階段を降りていくセイルに、アミルは慌てたようについていく。

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