目指すべき場所

 城に戻りアンゼリカと別れた後、セイルはバルコニーで考えにふけっていた。

 人間の英雄として戦うと決めたのはいい。

 しかし、具体的に何をどうするべきか。

 その答えは、やはりガチャにあるとセイルは考えていた。


 現地の人間を登用するという考えもあるが、秘密保持の問題を考えれば中々踏み出せない。

 しかし何よりも、先立つのはやはり資金だ。

 給与形態のようなものが無くても皆がついてきてくれている現状が一般的には異常なのであって、雇用には当然金銭授受が発生する。

 しかしながら、そこまでの資金力は現在のセイルにはない。


 資金のあてとしては冒険者ギルドの支部長への貸しもあるし、アンゼリカから多少の援助も受けられるかもしれない。

 だが個人からの謝礼という形では収入に換算など出来ないし、アンゼリカに借りを作り過ぎるのは後々怖すぎる。

 何よりも、人を増やすというのは「コスト」という概念が現実となって降りかかってくるということでもある。

 故に……厳選しなければならない。最少の人数で最大の効果を得るようにし、徐々に増やしていくしかない。

 まあ、今までと方針はそう変わらない。

 

「……コスト、か。そういう意味では優秀そうな奴もいるんだがな」


 たとえば、セイルがこの世界に来る原因となった「古代の機姫アルファ」だ。

 通称「機人系」と呼ばれる彼女、あるいは彼等は古代文明の遺跡から発掘されたという設定であり、つまるところ食事などが不要なイメージがある。

 

 ……とはいえ、アルファは星5なのでノーマルガチャでは呼べない。

 今のセイルに呼べる範囲は……機人系自体がセイルがこの世界に来る少し前に追加された新コンテンツだったので詳しくは無いが、多少は覚えている。


 たとえば、機闘士サーシャ。

 星3の格闘系の機人で、攻撃系のアビリティ「ライトニングアタック」が使用可能だ。

 能力としては近接戦闘の回避型で、魔法攻撃に弱いという欠点を除けば安定している。


 他には機銃士ジョアン。

 こちらも星3だがサーシャとは違い中距離から銃撃を行う機人だ。

 アビリティは相手の移動を阻害する「スタンバレット」を所持している。

 サーシャと比べれば脆いが、それでも充分な能力を有している。


 彼等を引く事が出来れば、コスト面では助かるだろう。

 無論、そう上手くはいかないだろうが……。


「セイル様、此方でしたか。宿の引き払いの手続き、完了しました!」

「ああ、ありがとう」

「いえ、これも私の役目ですから!」


 やってきたアミルにセイルは苦笑する。

 いつまでたってもアミルの硬さはとれないが、これはもうどうしようもない。

 アミルの真面目さは筋金入りだ。気さくに接しろと「命令」したところで、逆に気疲れするのがオチだろうな……とセイルは考えている。


「しかし、よろしかったのですか? 王宮に滞在するなど……」

「アンゼリカの頼みだ。此方も資金的には助かるしな」


 アンゼリカとしては、何が起こるか分からない現状で一番頼りになるのはセイル達だった。

 城の兵士や騎士ではエルフ達に対抗できなかった事は分かっており、大国があっさりと墜ちた事も精神に負荷をかけていた。

 ダークエルフを倒したセイル達であれば、と。そう考えるのも自然な事ではあった。


「それは、そうかもしれませんが……」

「お前の懸念している事は分かる。此処にずっと留まっているわけにもいかない」


 むしろセイルは、すぐにでも打って出るべきだと考えている。

 この国に留まり続けても、情報はほとんど入らないだろう。

 しかしその上で、この国は死守しなければならないという想いもある。

 ストラレスタの言った事が真実であれば、この国は人間の生存圏としてはある程度安定しているはずだからだ。

 つまり、この国を仮拠点とした上で行動するのが今は一番だということだ。

 そしてその為には、アンゼリカの身の安全はある程度優先しなければならない問題となる。


「部隊をまた2つに分ける必要があるな」


 拠点を構想した時から、それは考えていた。

 今のセイルには「軍」として行動できる地盤はない。

 しかし冒険者パーティのような小さい単位であれば充分に運用できる。

 アンゼリカの護衛という形で城に人員を置き、最少人数で各地に出撃する。

 それが現実的なところだろうと、そう考えているのだ。


「危険では、ありませんか? 何しろ相手は異種族です」

「まあな。しかし下手な人数でゾロゾロと歩くのも危険だとは考えている」


 軍事行動と思われた際、相手の種族全体を敵に回す危険性がある。

 勿論現時点では「敵」であるのはその通りなのだが「軍」と思われるか「小団体」と思われるかは大きな違いがある。


「勿論、その分メンバーは厳選しないといけないな。目的に沿った編成を考えなければ……」

「セ、セイル様! 私は何処までもお供いたします!」


 全力でアピールを始めるアミルに「ああ」と答えつつも、セイルは考える。

 残るメンバーとて役に立たないというわけではない。

 恐らくはモンスターの分布や種類も変わったであろうこのヘクス王国でモンスターと戦い、レベル上げをして貰わなければならない。


「さて、どうするべきか……」


 言いながらセイルは懐からカオスゲートを取り出して。


「……ん?」

「セイル様、それは……」


 カオスゲートに、鈍い輝きが宿っているのに気が付いた。

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