アップデートに夢を見よう

「光っている……? これは、なんだ?」

「何か、あるんでしょうか……あ、まさか神が何か支援を?」

「どうかな」


 少年神の顔を思い出しながら、セイルはそう答える。

 ノーマルガチャで精一杯だとか、そういう事をあの少年神は言っていたはずだ。

 追加で何かをしてくれるとも思えない。

 ならば、一体何が……? そう考えカオスゲートを操作したセイルは「それ」に気付き硬直する。


「メッセージ機能、だと……? 今までこんなもの。いや、受信限定? しかし、これは……」


 ブツブツと呟き始めるセイルの様子にアミルは疑問符を浮かべ、セイルの手元のカオスゲートを覗き込み……驚きに目を見開く。

 そのメッセージを送った相手の名前。そこに記されていた名前……それがあまりにも信じられないものだったからだ。


 送信者、キングオーブ01。そこには、そう記されていたのだ。


「キングオーブというのは話にあったものですよね? 01というのは、一体……」

「その辺りの話は後だ。こんなものがいつ……いや、まさかあの時か?」


 冒険者ギルドの地下。あの魔道具と接触した時にメッセージが送られてきたのだろうか?

 それとも、この城に居る事で何かが起きたのだろうか?

 それは分からないが、セイルはタップしてメッセージを開いてみる。

 すると、そこにはこう記されていた。


 送信者:キングオーブ01

 

 人間の英雄よ、キングオーブ01は貴方の誕生を祝福します。

 私を見つけてください。

 私達を見つけてください。

 私達は託された力の欠片です。

 私達は託された知恵の欠片です。

 白の月神の愛が、貴方を通して人間に輝きを示す事を望みます。


「こ、れは……」


 白の月神というのは、あの少年神の事だろう。

 このメッセージの内容をそのまま解釈するなら、キングオーブを見つける事で何かしらの力、あるいは知恵が手に入るということになる。

 そしてそれは、人間の英雄に対するものだということだ。

 他にも気になる事はあるが、現時点では想像でしかない。

 しかし……キングオーブを探さなければならない理由が出来てしまった。


「アミル。まずはこの城のキングオーブを探す」

「はい、セイル様。しかし、本当にこの城に?」

「それ以外の可能性は限りなく低い。ウルザの見立てだがな」

「ウルザのですか……」


 嫌そうな顔をするアミルにセイルは「どうした? まだ信用できないのか」と問いかけて。

 アミルは「いいえ」と否定する。


「信用はしています。ですが、初顔合わせの時の所業を私は忘れていません」

「……なるほどな」


 確かに初手で殺しに来たウルザは、アミルには許せない相手なのだろう。

 いや、許してはいるのかも分からないが、評価が著しく下がっているのかもしれない。


「アンゼリカにもキングオーブ探しの件は許可をとっておかないとな」

「そうですね。この国の国宝のようなものですし」

「……何の話じゃ?」


 セイル達の話を聞きつけたわけではないだろうが、寝間着姿のアンゼリカが騎士やメイドを伴いバルコニーへと現れる。

 レースで飾った豪奢な寝巻はアンゼリカの高貴さを引き立ててはいるが、その顔には疲れがハッキリと出ており……立場故の苦労をも引き立てる結果となってしまっている。


「明日話そうと思っていたことだが」

「構わぬ。どうせ寝れんのじゃ、聞かせよ」


 今日の冒険者ギルドでの事が響いているのだろうな、とセイルは僅かに同情する。

 無理もない。アンゼリカの立場で抱えるにはあまりにも大きすぎる事態だろう。


「例のオーブの事だ。探す必要がありそうでな」

「必要、とは?」

「詳しくは言えないが、此方の事情だ。無論、お前がダメだというのなら……」

「いや、構わぬ」


 離れていろ、とメイドや騎士達に合図をすると、彼等が充分離れたのを確認してからアンゼリカはセイルに近づき見上げる。


「……それは、妾の求婚に応えるという意味かの?」

「いや、違う」

「なんじゃ、つまらんのう。妾を支えてくれる気になったのかと思ったのじゃが」

「つまり、ダメということか」


 説得には時間がかかりそうだな、と考えるセイルの耳に届いたのは「構わんぞ」というアンゼリカの言葉だった。


「どのみち、妾では見つけられぬ。流石にオーブをくれと言われても困るが、探すくらいであればな」

「そうか。助かる」

「勿論、見つけたら妾にも教えてくれねば困るぞ?」

「それは約束しよう」

「うむ。ところでセイル、眠れぬ妾に寄り添う気は?」

「今回は遠慮しよう」

「本当につれないのう……」


 溜息をつくアンゼリカだが、その表情は真面目なものになる。


「のう、セイル」

「なんだ?」


 セイルに、何かを言おうとして。けれど、アンゼリカはその言おうとした言葉を呑み込む。

 何処にも行かないでほしい。怖い、寂しい。

 そう言おうとして、やめたのだ。

 言っても困らせるだけだと、アンゼリカの中の冷静な思考がそう判断したからだ。

 だから、アンゼリカは笑ってこう言った。


「……おやすみ。良い夢をの」

「ああ、おやすみ。ゆっくり眠るといい」


 戻っていくアンゼリカの姿を見送ると、セイルはアミルへと振り向く。


「よし、アミル。お前も眠いだろうが、もう少し付き合ってもらえるか?」

「はい、勿論ですセイル様!」

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